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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

第14回 田中信一郎(CVPTメンバー / 地域政策デザインオフィス代表理事 / 千葉商科大学特別客員准教授)

田中信一郎さんは、横浜市や長野県などの自治体職員として、環境エネルギー政策を実践してきた政策づくりのスペシャリストです。その経験を活かして、現在は全国の自治体に自らのノウハウを提供するコンサルタント事業に取り組んでいます。

また、自然エネルギー100%を宣言した千葉商科大学では客員准教授を務め、持続可能な大学をめざす斬新な提言を行っています。長野県をエネルギー先進地域にした立役者のひとりである田中さんに、自治体が持続可能なまちづくりに取り組む意義を伺いました。

持続可能なまちづくりをサポートする
Q: 田中さんが創設した「地域政策デザインオフィス」は、どんなことをしているのでしょうか?

自治体が、持続可能な地域づくりをする際のサポートをしています。その考え方は、クラブヴォーバンがめざしている所と同じです。具体的には、全国の自治体の職員や住民の方に対して、どうやったら持続可能な地域づくりの第一歩を踏み出せるかについてお話しています。通常は、自治体の職員が新しい政策をやりたいと思っても、何をどうクリアして実現していいのかわかりません。

 

自治体によっては、これまでそういう分野で経験の少ない行政と住民とが、いきなり高いレベルのことをやろうとすることもあるのですが、たいていはうまくいきません。一歩ずつ段階を踏んで成功体験を積み重ねていく必要があります。そのための考え方ややり方を、お伝えしています。

もうひとつは、役所では体系的に政策のつくり方を学ぶ機会がありません。そこで環境・エネルギーの分野に限らず、政策づくりの研修も手がけています。

 

Q:持続可能なまちづくりを進めるポイントは何でしょうか?

もっとも大切なのは、環境部門の担当者だけではなく、役所全体がエネルギーと地域経済についての基本的な考え方を理解することです。地域は、外部にお金を払ってエネルギーを買っています。そのお金を地域内に投資したり、地域でエネルギーをつくって外に売れるようになれば、地域の中でお金が循環することになります。それが地域経済を豊かにします。

 

これまでは、この考え方をしっかりと理解しないまま、漠然と何かをやろうとしていたり、やっていた自治体が多いのですが、それでは成果を得られません。持続可能な地域をつくることは、経済だけでなく健康や他の様々な分野でメリットがあります。だからこそ、行政は縦割りではなく横で連携して一緒に取り組んでいく必要があります。

 

ではどう動けばいいのでしょうか?まずは、公共施設の建て替えや改修から検討してほしいと思います。いきなり条例などをつくるのは、ハードルが高くて困難です。しかし、一つの公共施設を変えることならできるはずです。行政と住民、建設業界などが一緒に、持続可能な建物になるよう研究し、小さくても結果を出すことがまちづくりの第一歩になります。

長野県で省エネ住宅はなぜ普及したのか?
Q:長野県では、田中さんが退職された後も環境・エネルギー政策を着実に進めています。長野で成功した秘訣は何でしょうか?

私は、2011年より5年間、長野県庁の環境エネルギー課で任期付き職員として働きました。長野で一番大きいのは、さきほど説明した地域経済というキーワードをみんなで共有できたことです。環境の部署以外の人たちも納得して、自分の仕事に落とし込むことができるようになったので、縦割りではなく部署を横断して共同歩調で動くことができるようになったのです。そのため、私が全てにかかわらなくても、あるいはやめた後でも、他の人たちが面白いプロジェクトを提案してくれたり、そういう政策が進化するようになっています。
 

Q:長野県で取り組んだ環境政策の一例を紹介してください。

例えば建物を新築するときに、その建物のエネルギーや環境性能を施主が評価して検討することを、条例で義務付けました。ただ、施主が事業者ならともかく、個人の場合は自分で評価することができません。そこで、建築事業者に対して施主に説明することを義務付けました。

とは言え、すべての建築事業者が客観的に評価、説明ができるわけではありません。そのため、県がすべての建築事業者を対象に、評価ソフトの普及と講習会を無料で行いました。それにより、どの業者も評価、説明ができるようになりました。

 

現在は長野県で建物を新築するとき、例えば建築費2000万円で年間光熱費20万円の普通の家と、建築費2200万円で年間光熱費10万円の高断熱の家と、どちらが良いですか?と選べるようになりました。最終的にはどちらを選んでも良いのですが、高断熱で光熱費が少ない家の方が、長く住めば経済的にも得になるし、室内環境も快適です。

いままではそういう選択を求められることがほとんどなかったので、選べるようになったことは大きいと思います。現在の長野県では、新築では国が定めた次世代省エネルギー基準以上に断熱された家が、8割を越えるようになっています。全国平均が3割程度ですから、驚異的な成果だと言えます。この政策はごく一例ですが、長野県の環境政策に刺激を受けて、真似をする県も出てきています。これはどの県でもできることなので、長野県としても積極的に情報提供をしています。どんどん真似をして広げていって欲しいですね。

都市戦略としての環境

Q:長野県で取り組んだ環境政策の一例を紹介してください。

2008年に横浜市の職員をしていた際、環境モデル都市のプランニングをする機会がありました。そこで世界の動きを学び、衝撃を受けました。世界の先進的な大都市では、持続可能なまちづくりを打ち出すことが、都市の価値を左右する重要なポイントだと認識されていたのです。例えば、当時はオリンピックを控えていたロンドンであったり、ニューヨークなどの主要都市が気候変動対策のリーダーシップを取っていました。それに続いて東京都も動いていた。

 

環境に優れた都市は住みやすく、安心して住める都市でもあります。そういう所に人や企業が集まってくるのはごく自然なことです。その価値に早く気づいた大都市は環境に力を入れていました。日本では、環境を熱心にやると経済にマイナスになると考えられてきましたが、それは逆だったのです。

日本の役所で環境政策と言えば、マイナーな部署の人たちが市民の苦情を受けてやっているイメージでしたが、世界ではかなりポジティブな都市戦略として捉えられていました。それが驚きだったし、現在の自分の取り組みにもつながる原点にもなっています。

 

■100年後も安心して暮らせるまちづくり

Q:自治体がまちづくりをする意味はどんなところにあるでしょうか?

日本のほとんどの自治体では、人口減少は絶対的に避けられません。特に小さな自治体は大きな影響を受けるはずです。それでも、その地域に暮らす人たちが、50年後も100年後もそこで安心して暮らせるようにするのが、持続可能なまちづくりです。

 

多くの自治体ではそのためのビジョンがなく、企業を誘致しようとしたり、移住者を大勢呼ぼうとするなど、一発逆転を狙います。でも、そんな都合の良い方法はありません。地域住民が幸せに暮らしていけるための地道な方法を模索する地域にこそ、活路が生まれます。しっかりしたビジョンをもとに、そういう政策を積み上げていくことが、地域の魅力を高め、人口増や移住者の増加につながるのです。クラブヴォーバンと連携して、確かなビジョンを持てる自治体を増やしていきたいと考えています。