clubVaubanロゴマーク

エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

5月24日PJ100セミナー「~ 2050年脱炭素社会へ ~脱炭素ロードマップと世界の進展状況」を東京とZoomにて開催しました

エネルギー価格高騰に伴い、あらゆるものの物価高が私たちの暮らしを直撃しています。

化石燃料が手ごろな価格で入手できる時代は終息に向かい、世界では再エネと省エネなど、脱炭素産業へのゲームチェンジが急速に進んでいます。日本で暮らす私たちも、当然この影響を受けることになります。最近の報道にもあるように、IPCC第6次の統合報告書では地球温暖化のより厳しい現状への警笛が鳴らされています。

 

今回は、新橋現地開催&オンラインにて、IEAの「2050年ネットゼロに向けたセクター別ロードマップ」をベースに、2050年脱炭素社会に向けて、これからの私たちの暮らしや日本、世界の産業がどうシフトしていくか、今後のシナリオについて議論しました。代表の村上が全体の概要と「建物&設備部門」を、ゲストに(国研)産業技術総合研究所でエネルギーや脱炭素社会について取り組まれているお二人をお招きし、櫻井氏には「交通・運輸部門」、歌川氏には「電力部門」を解説いただきました。

 

今回は「IEAが出した」シナリオがポイントです。これまで世界の様々な機関が未来のエネルギーシナリオを出している中で、IEAは特に脱炭素に対し後ろ向きでした。そのIEAが、ようやくネットゼロについての詳細シナリオを出してきた、ということは、IEAに加盟している多くの国でこのシナリオが許容される社会情勢に変わってきた、ということに他なりません。

 

まず代表の村上より。

ドイツは、若者や世論の気候中立への関心の高まりから2021年夏に制定された「気候保護法」に従い、今年4月に原発を完全に停止しました。元々ドイツから海外に輸出していた発電超過の状況であったため、原発を停めても今のところ大きな問題はなく、補完関係にある太陽光と風力でかなりの電力消費量を賄っています。

 

ドイツでは2022年の消費電力に対し、再エネ発電の割合は46%になりました。しかし、脱炭素を目指す2050年の段階での電力消費量は今の2倍とも言われているので、これからどう再エネを増やしていくのかが課題です。また、風力や太陽光などの設備の更新タイミングは20-25年と言われているので、これからは過去に設置した再エネ設備の更新もしていかなければなりません。

 

それでもドイツは本腰を入れて再エネ社会にシフトしているため、変動制再エネの供給をうまく活用する柔軟性の必要度合いが高まっています。余剰電力を熱として蓄えておくPower to Heatは2020年より始まっていますが、今後はPower to Gasが2025~30年頃に、Power to Liquid、Power to Industryも2035~40年に経済性を持って本格的にはじめてゆかなければなりません。またこれらは全てITやAIで自動制御する社会になってゆくでしょう。

 

取り組みが遅れている日本が脱炭素していくには、今までの十数倍も再エネを増やしていかないといけません。日本は再エネでは太陽光が圧倒的に多いですが、太陽光と風力は補完関係にあるので、どのように風力を増やし太陽光とバランスをとっていくかが目下の課題と言えるかと思います。

 

IEAが出している2050年のエネルギーシステムの姿「2050年ネットゼロに向けたセクター別ロードマップ」の話。このIEAロードマップはIGESさんが日本語に翻訳したものをネットで公開されているので、皆さんもぜひご一読ください。

https://www.iges.or.jp/jp/pub/iea-2050netzero/ja

 

 

IEAロードマップの「建物&設備部門」について。

化石燃料ボイラは2025年には販売を終了しなければならないため、ドイツでは新設するボイラは太陽光とヒートポンプがセットになったものに置き代わることが法的措置として行われます。昨今、太陽光発電も蓄電池もヒートポンプも、世界の半導体供給不足により供給が停滞し、価格も若干上昇していますが、その需給バランスの乱れが解消されると加速度的に増えていくでしょう。

 

2030年には新設される建物すべてがZEH仕様になっていなければなりません。2035年には機器や冷房設備の大半がトップランナーレベルに。日本の私たちが足元からまずやることとして、これまでもお伝えしているように、既にもう確立されており、今後伸びる技術で、費用対効果の大きいことから取り組むことが大切です。安いトータルコストでCO2削減効果の高い技術は、まず建物の断熱、次に電化、次に太陽光。ゼロカーボンの三種の神器は ①省エネ建築の徹底(熱はヒートポンプ) ②マイカー交通はBEV ③とにかく太陽光発電 です。しかし、再エネが進まない状況でヒートポンプだけ増やしても、火力発電の熱効率は低いため効果が薄く、やはり国全体の電源が再エネになっていくことが重要です。

 

次に、櫻井氏よりIEAロードマップの「運輸部門」について

IPCCの報告書は控え目に書かれており、今世紀中の海面上昇量予測が数十㎝と書かれていますが、これを大幅に上回る可能性もあります。日本はまだのんびりしていますが、実際、氷床の融解ペースも加速中なので、CO2排出量を迅速に、大きく減らさなければならないと言われているのが世界の潮流です。

 

世界のCO2排出量の16%が運輸部門、うち12%が道路。EVは、走行時だけでなく製造時を含めても内燃自動車に比べてCO2排出量が少ないのが実態です。太陽光や風力の余剰電力をEVに蓄電することもでき、性能も飛躍的に上がっているので、乗用車だけでなくトラックなど大型車も今後EV化が進んでいくでしょう。脱炭素電源では遅れていると思われがちな中国も、CO2排出量削減が大幅に進められており、このまま行くとあと数年で日本が中国に追い越される可能性もあります。

 

現在は世界の電力の約3割が再エネで、新設の発電所の電源容量の8割以上が再エネとなっています。世界の電力需要量の増加分を今後再エネ新設でほぼ賄い、太陽光発電を今の25%増加率で今後10年間続けると2050年のゼロエミに必要とされる電力量を賄っていけるだろう、という予測を研究機関から共同で出しました。

 

EVを考える時、住宅もセットで考えるとよいでしょう。今の日本の住宅の大半はほぼ無断熱で、化石燃料による局所暖房・冷房が主流なので、住宅を高断熱・高気密化していくことが急務です。空調なしでも室温を保ちやすくなり、災害などで長時間停電した場合のリスク回避にもなります。またEVには蓄電ができ、この蓄電を住宅で使えば住宅の脱炭素化にも役立てることができます。晴れた昼間は太陽光の余剰電力はほぼ0円で取引されるので、昼間にEVの蓄電池に電気を溜め、夕方の電気代が高い時間帯に使えば良いでしょう。V2HがあればEVから家庭用に電気を使えますが、現状V2Hはとても高コストなのが課題です。

 

昼間余剰で捨てている電力を溜めて夕方に使えると、EVを持っている人は夕方に電気を安く利用でき、EVを持っていない人も国全体の電気代が下がり、太陽光発電事業者も売れる電気が増え、夕方など電力需要が高い時間帯の化石燃料を節約できるメリットがあります。EVの車体価格に蓄電池のコストが含まれているので、電力系統から見ればほぼタダで使える大容量の蓄電池、これを有効活用しない手はありません。またEVの蓄電池は、車の寿命後に定置型蓄電池としてリユースも可能です。

 

これからは、車を置く場所にはコンセントが導入され、「駐車のついでに充電」できるようになるでしょう。職場や住宅など長時間停車する場所には普通充電器、店舗やSA/PA、道の駅などには急速充電器が設置されるようになります。集合住宅の機械式駐車場にも、充電器が備え付けられ始めています。日本の全乗用車がEVになり、全車が系統に対してほんの少しの入出力を提供したと仮定すれば、日本の丸一日分の電力需要に相当し、巨大な柔軟性資源となりえます。

 

海外では、自動二輪車の使用済みバッテリを、ステーションで満タンのバッテリに交換できるだけでなく、電力が安い時間帯に満タンにした充電池を、電気のひっ迫する電気代の高い時間帯にステーションへ持っていき電気を売ることもできるサービスが始まっています。台湾ではGogoroが普及しています。またステーション自体が電力系統に対してバッテリとして働くこともできます。

 

EVの車体価格も下がってきており、走行コストもメンテナンスコストも従来の車より安いので、東南アジアやアフリカといった途上国でもEVの普及の動きが加速しています。

 

最後に歌川氏より、IEAロードマップの「電力部門」について。

IPCCの報告によると、地球の気温上昇が加速しています。異常気象や生態系農業被害をできるだけ小さくするために、2030年にCO2排出量を2019年比でほぼ半減する必要があります。世界も日本も、この10年の対策が非常に重要です。

 

IPCCのマイルストーンによると、炭素対策のない石炭火力発電所は2021年以降新設不許可、2030年までにはすべて廃止になっているにも関わらず、日本はまだ新規の計画が数基あります。2050年の脱炭素社会に向けて、2035年には、先進国の電力部門はCO2排出量をネットゼロにする必要がある、ということを、去年ドイツが議長国だった時のG7で合意されています。2040年までに石炭・石油火力発電所を廃止し、世界規模でCO2排出量をネットゼロに、というマイルストーンになっています。

 

この半年ほどは価格が少し落ち着いていますが、日本の石油輸入価格はコロナ前の約2倍、石炭輸入価格はコロナ前の一時約6倍になっていました。少し前までは、熱量あたりの価格は石炭が安く、石油と天然ガスが高い、というのが一般的でしたが、今はもうほとんど変わりません。ということは、石炭をやめて再エネに移行しやすくなったということでもあります。産業の高温熱利用や船舶航空燃料は、再エネ転換に技術的な課題があるが、それ以外の技術は今の議事術やその改良技術で、十分再エネ転換脱炭素転換可能です。

 

昨年のIRENA(国際再エネルギー機関)においても、火力発電コストが高騰しているため、再エネが非常に有利との報告が出ています。日本は太陽光と風力のコストが諸外国に比べ飛びぬけて高いが、それでも、火力発電より再エネの方が2倍以上安いです。

 

再エネコストは日本でも低下しており、一方火力コストは燃料高騰しているので、火力より太陽光・風力の方が安く、また電気を購入するよりも、屋根や敷地に太陽光を設置し自家消費する方が安いです。

2022年の化石燃料コストは凄まじく、工場や大型施設、病院などで億単位または十億単位で燃料コストが跳ね上がっているため、そのお金があるなら敷地内で太陽光を設置すると、半分や1/3のコストに収まるようになるでしょう。

 

IEAの2050年ネットゼロシナリオでは、全発電量のうち再エネが88%。今後世界では各分野の電化と省エネと柔軟化(蓄電)が進んでいくでしょう。中でもスタンフォード大学やフィンランド・ラッペンランタ大学などの研究では、再エネ100%シナリオも出ています。日本の電源ごとの再エネ需給試算例としては、WWFジャパンの槌屋氏、自然エネルギー財団とラッペンランタ大学の共同研究、CASA地球環境市民会議などがあり、いずれの研究でも、2050年再エネ100%の達成が可能とされています。私の独自試算でも、今ある技術とその改良技術で、達成可能です。

 

再エネ電力割合を1990-2021年比でみると、日本は約11%→20%ですが、世界の主要国の中ではその増加割合はかなり少なく、デンマークでは約3%→78%まで増加しています。日本は相当な努力が必要です。夏や冬の夕方、また季節外れの猛暑などで電力需給に余裕のない時間帯がありますが、東日本エリアで年間数十時間程度です。その時間帯は前日には予測がつくので、その時間帯に大きい工場などを停めたらその分報奨金を渡す、というデマンドビジネスがきちんとワークするような制度が必要です。

 

再エネを増やすにあたり、乱開発を防止する制度も必要です。また地元が全く関与しない地域外からのみの資本による開発は、問題です。努力をした地元企業が、ノウハウも獲得しながら、きちんと地域に利益や雇用が確保されることが大事で、そこに国も仲介したりなどすると、日本の脱炭素化が加速するでしょう。

 

とにかくスピードが大事なので、このスピードを社会的に実現する制度・しくみが必要です。電源の中で再エネを最優先にし、地元企業を入れてどんどん太陽光と風力を導入するべきです。

 

この後、参加者から活発な質疑があり、終了後には講師3人を囲んで懇親会を行いました。