クラブヴォーバンの考える家・まちづくり

クラブヴォーバンが考える家・まちづくりは、ドイツ・フライブルクのヴォーバン住宅地で採用された以下のソーシャル・エコロジーコンセプトをベースとしています。

【ヴォーバン住宅地で採用されたソーシャル・エコロジーコンセプトの10か条】

  1. 適度な人口密度による住宅地の実現
  2. 既存の樹木や植生、地形、既存建物を最大限生かす
  3. 中心部に商業施設と雇用を呼び込み、住宅地のアイデンティティ(独自性)の確保
  4. カーフリー(カーポートフリー)での住宅地設計
  5. 近自然工法による住宅地内の緑地(公園など)の確保
  6. 屋上緑化などの対策を盛り込んだ雨水コンセプト
  7. コンポスト(堆肥)を主軸とした住宅地内での廃棄物処理
  8. 省エネ建築様式(高断熱・高気密)による住居設置の義務化
  9. 地域暖房の導入とコージェネレーションでの発熱・発電
  10. コーポラティブを主体とした集合住宅の実現

《1》 適度な人口密度による住宅地の実現

少子高齢化・人口減少・核家族化という現象によって日本の「まち」における人口密度は低下し続けています。豊かな市民生活を可能にするためには、商品・医療・教育・公共交通といった市民サービスの供給が欠かせませんが、そのためには適度な人口密度を維持する必要があります。

首都圏など一部を除き、これまで戸建て住宅や持ち家を主体に開発行為が行われてきた日本ですが、集合住宅や賃貸などを柔軟に組み合わせ、同時に中古不動産の流通を可能とすることで、一定以上の人口密度を目指します。

長屋式集合住宅といっても個性を否定することではない。日本の城下町や欧州の港町など歴史的にも、ヴォーバンでの現実でも、高い人口密度と個性の両立は可能である。
長屋式集合住宅といっても個性を否定することではない。日本の城下町や欧州の港町など歴史的にも、ヴォーバンでの現実でも、高い人口密度と個性の両立は可能である。

《2》 既存の樹木や植生、地形、既存建物を最大限生かす

開発や再開発などにおいて、対象となる宅地の元の地形や既存の建物、あるいはすでに存在する植生や樹木、とりわけ大木をできるかぎり保存し、そうした既存対象物を主軸とした住宅地開発を目指します。植生などがある一定程度維持されれば、そこでの生活環境は高いものになることでしょう。

また、既存建物をリフォームすることは、スクラップ&ビルドよりもエネルギーバランスや資源消費のエコバランスに優れるため、極力、既存建物を活用することを優先します。

新築・大木付きの家。分譲する土地の中には、大木が庭の部分にすでに存在する物件もあった。もちろん、この大木の根の部分、樹幹部分の面積は保護が指定されており、切り倒したり、枝振りをして、構造物を建てることは許されていない。
新築・大木付きの家。分譲する土地の中には、大木が庭の部分にすでに存在する物件もあった。もちろん、この大木の根の部分、樹幹部分の面積は保護が指定されており、切り倒したり、枝振りをして、構造物を建てることは許されていない。

《3》 中心部に商業施設と雇用を呼び込み

    住宅地のアイデンティティ(独自性)の確保

第1条で提言した適度な人口密度が達成できれば、住宅地・中心部の商業エリアの実現と活性化が容易になります。また移動距離が短いまちづくりが可能となるため、自動車の必要性が低くなり、徒歩や自転車交通も活躍することでしょう。

教育施設・介護施設・集会場などを中心に、その周辺にはできる限り日常生活サービスを提供する商業施設を組み込むことを目指します。それによって住宅地内に雇用を創出するばかりでなく、ご近所同士の出会いの場が生まれ、社会福祉的な機能も充実します。

住宅地内のパン屋さんの前で。こうした小さな規模のお店と、そのお店のちょっとした機転(ベンチの設置)で、住宅地の中央通りは社会福祉的な機能を持つ井戸端会議の場所に。
住宅地内のパン屋さんの前で。こうした小さな規模のお店と、そのお店のちょっとした機転(ベンチの設置)で、住宅地の中央通りは社会福祉的な機能を持つ井戸端会議の場所に。

《4》 カーフリー(カーポートフリー)での住宅地設計

マイカーを宅地部分に駐車することは、土地の無駄遣いの象徴です。よって住宅地外縁に簡易な立体駐車場を設置し、宅地部分はカーポートフリー(駐車場の設置を禁止)にすることを目指します。

車利用者にとっては少し利便性が下がりますが、それによって住宅地内の暮らしの質の向上とバリアフリー、高齢者・子どもにやさしく静かな環境が整備されます。

また、駐車場面積を最小限に留めることで住宅地内の人口密度が向上し、第1条・第3条が実現しやすくなります。同時に、需要が増大する自転車レーンや駐輪場の整備や公共交通の確保を目指します。

駐車場を宅地から排除することで、道は、路地となり、社会福祉的な機能を持つ人間のための空間に変わった。ヴォーバン住宅地では、車の騒音ではなく、子供の声が絶えない。
駐車場を宅地から排除することで、道は、路地となり、社会福祉的な機能を持つ人間のための空間に変わった。ヴォーバン住宅地では、車の騒音ではなく、子供の声が絶えない。

《5》 近自然広報による住宅地内の緑地(公園など)の確保

〈住宅地内の庭や公園、街路樹〉〈建物における屋上緑化や壁面緑化〉〈既存の植生や地形を利用した住宅地周辺部の緑地〉などは、できるかぎり在来種を優先し、植生の遷移をうまく活用することで、小さくても多様な自然を住宅地内に取り込むようにします。

とりわけ、住宅地内の緑が「ライン」で連なり、細くても切断されず、住宅地の外の緑とネットワーク化することを目指します。またこの配慮は、人口密度が高く集合住宅を中心とする街には、圧迫感を抑制するためにも配慮するべきポイントです。

街路樹、前庭、壁面緑化が緑のラインをつなぐ。
街路樹、前庭、壁面緑化が緑のラインをつなぐ。

《6》屋上緑化などの対策を盛り込んだ雨水コンセプト

住宅地に降る雨水は、できる限り住宅地内の緑地に浸透させる配慮をし、平屋根には屋上緑化を義務化するなどして雨水が一度に住宅地から吐き出されないことを目指します。ヒートアイランド現象の緩和や地下水位の低下防止に配慮します。

第2条・第5条で掲げた方針は、この雨水のコンセプトとの整合性を取るためのものでもあり、相互作用を考慮します。

住宅地内に降った雨は、屋上緑化、庭、公園などで緩和されながら、最終的には住宅地内に設置された雨水マスに浸透する。ヴォーバンでは年間降雨量の6割以上が住宅地内で地下浸透されている。
住宅地内に降った雨は、屋上緑化、庭、公園などで緩和されながら、最終的には住宅地内に設置された雨水マスに浸透する。ヴォーバンでは年間降雨量の6割以上が住宅地内で地下浸透されている。

《7》コンポスト(堆肥)を主軸とした住宅地内での廃棄物処理

住宅地単位の廃棄物処理で、LCAにも優れ経済的な方法は、生ゴミを含む緑のゴミのコンポスト化によるリサイクルです。それ以外の廃棄物は、当該の自治体の処理方法に準じることになります。

小規模な住宅地単位においては、生ゴミはリサイクルの優等生ですから、たとえば住宅地における「集合コンポスト施設」を住民参加によって設置・運営し、井戸端会議的な人の集まる場所・ガーデニングのための肥料と情報の供給所になるような取り組みを目指します。

※LCA:ライフサイクルアセスメント(地球や生態系への潜在的な環境影響を評価する手法)

コンポストの垣根。

《8》省エネ建築様式(高断熱・高気密)による住居設置の義務化

化石燃料の枯渇やそのコスト変動、気候変動対策を考慮するとき、徹底した省エネ住宅の建築を義務化することは、中期的な経済性からも、環境保護の観点からも、目指すべき対策です。

とりわけ今の時代の新築の建物では、補足的に太陽光発電など再生可能エネルギーの導入も大切です。しかしそれ以上に、高いレベルの高断熱・高気密が当然必要ですし、暖房や冷房のためのエネルギー負荷がほとんどかからない躯体性能によって、ゼロエネルギー建築・プラスエネルギー建築を目指すべきです。

南向きには大きな窓が取りつけられ、夏場と冬場の日射量を調整するパッシブ・ソーラーハウス。建物についての詳しくは、EOLWAYSレポートを参考のこと。
南向きには大きな窓が取りつけられ、夏場と冬場の日射量を調整するパッシブ・ソーラーハウス。建物についての詳しくは、EOLWAYSレポートを参考のこと。

《9》地域暖房の導入とコージェネレーションでの発熱・発電

日本でもドイツでも、家庭で消費されるエネルギーのうち、給湯と暖房という「熱」消費がおよそ半分を占めています。もし、第1条の「適度に高い人口密度」と第3条の「住宅地の中心商業エリア」が十分に確保され開発されるなら、効率の悪い個別単位ではなく、より広範囲な住宅地ごとあるいは街区ごとに、地域熱供給システムを導入することを目指します。

また、この熱供給の発熱装置には、熱効率が著しく高いコージェネレーション(発電・発熱併用施設:CHP)を導入すれば、地域としてのエネルギー効率を飛躍的に高めることも可能です。

ヴォーバン住宅地では、地域暖房が整備され、木質バイオマスによるコージェネレーションが稼動している。持続可能な地元林業から提供される間伐材、低級木材のチップを原料にした発熱・発電の恩恵で、住宅地から発生するCO2を大幅に削減している。
ヴォーバン住宅地では、地域暖房が整備され、木質バイオマスによるコージェネレーションが稼動している。持続可能な地元林業から提供される間伐材、低級木材のチップを原料にした発熱・発電の恩恵で、住宅地から発生するCO2を大幅に削減している。

《10》コーポラティブを主体とした集合住宅の実現

第1条で示したような人口密度を達成するためには、二階建て戸建てがメインの住宅街では不可能です。多くの建物は(一部は戸建てと組み合わせながら)集合住宅をメインに構成されることが望ましいでしょう。その際、区分所有の持ち家ばかりではなく、質の高い賃貸住宅も提供できるよう配慮します。区分所有の持ち家については、一般的な分譲住宅ばかりではなく、住民主体の建築コーポラティブによって建設されるよう配慮します。

その結果、住民の社会層は多様化し住民同士の交流もうまれます。 これにより、第3条「商業エリアの活性化」第4条「車をできるだけ排除し徒歩・自転車による暮らしのための道と社会空間」とのコンセプトとの相乗効果が期待され、ソーシャル・エコロジー住宅地が形成されます。

メゾネット式で、コーポラティブハウス方式による共同住宅は、これからの持続可能な開発を担う重要な柱となる。土地とエネルギーの浪費を同時に行う戸建住宅は、第一次産業に関連する人びと、その地域以外では排除して行く努力が必要である。
メゾネット式で、コーポラティブハウス方式による共同住宅は、これからの持続可能な開発を担う重要な柱となる。土地とエネルギーの浪費を同時に行う戸建住宅は、第一次産業に関連する人びと、その地域以外では排除して行く努力が必要である。

ヴォーバン (Vauban)住宅街の歴史について

2007年末には、ソーシャル・エコロジー住宅地、ヴォーバンが完成を迎えました。舞台は環境先進国といわれるドイツのなかでも、とりわけ先進的な都市フライブルク。すでに住宅地の計画策定作業の段階から、ドイツ国内はもとより、世界から大きな注目を集めています。

その理由は、「拡大住民参加」「学びながら進化する都市計画」「マイカーを極端に減らし、自転車と徒歩交通を推進するカーフリー構想」などの施策に加えて、「省エネ住宅(パッシブ・ソーラー住宅)」「コージェネと地域暖房によるエネルギーコンセプト」「公園と道路、家庭を結ぶ緑のコンセプト」など、各分野において持続可能な社会を構築するための新しい取り組みが住民主導で行われているからです。

ヴォーバン住宅地は軍用施設の跡地38haをフライブルク市が分譲し、開発した新興住宅地です。最終的にはここに5500人の住民が暮らし、600人分の職場が生み出されます。

ヴォーバンでは、上述の「エネルギーコンセプト」「省エネ住宅」「カーフリー」 などの対策を行ったため、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量が、特別な対策をしなかった場合に比べて、およそ6割削減されています。そのうえ、社会福 祉的な結びつきも深く、通常の住宅地以上の豊かさ、エステーティーク(美観)、アイデンティティが実現されています。追加の投資コストなしで、化石エネル ギー依存を減らし、同時により高い豊かさを実現する。ヴォーバン住宅地とは、まさに、一足先に辿りついた持続可能な低炭素社会へ先進事例といえるでしょう。

1997年から10年の歳月をかけて開発されたヴォーバン住宅地。38ヘクタールの敷地に5,500人が住み、600名分の雇用がうまれました。

(航空写真:出典フライブルク市、Stadt Freibrug)

住民がワークショップによって設計した近自然型の公園で遊ぶ子どもたち。背後には多様な景観を誇るメゾネット・連続式の住居が連なります。

家の前には、車庫ではなく、自転車の駐輪場が設置されています。ヴォーバンでの主力交通機関は自転車と路面電車であり、こうした欧州の先進住宅地や自治体においては、自動車交通は過去の遺産となりつつあります。

在来種をメインとした多様な緑の植物が庭に植えられています。長屋連続式住宅の2棟の間には、それぞれの庭が設置され、緑のラインが繋がる配慮がされています。

長屋連続式住宅の道路に面した部分は、緑の前庭を整備するよう指定されています。家の前や家の裏、家の前の道路で遊び、大きくなった子どもたちが形づくる将来と、TVゲームで育った子どもたちが作る将来。その2つの将来像は、全く異なるものになるでしょう。私たちは、どちらの前提条件を優先して整備し、子どもたちに与えてゆくべきでしょうか?