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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

第1回 村上 敦(CV代表/設立者・環境ジャーナリスト)

ノンフィクションライターの高橋真樹です。これから、各地で活躍されているクラブヴォーバンの中心メンバーがどんな人物でどんなことをやっているかについて、インタビューを通しておひとりずつ紹介していきます。

1回目となる今回は、クラブヴォーバンの設立者の一人である村上敦さんです。ドイツ在住の環境ジャーナリストとして活躍されている村上さんが、ドイツで働いて感じた日本とのギャップや、クラブヴォーバンを設立した思いなどについてお聞きしました。

■ドイツで環境やエコロジーに興味を持つ

Q:まず、村上さんがなぜドイツで働こうと思ったかについて教えて下さい。

ドイツに行ったのは今から20年前の26歳の頃です。もともと、海外の会社で働いて見識を広めたいという思いはありましたが、何か具体的な明確なビジョンがあったわけではありません。当時たまたま社会的なテーマになっていた環境やエコロジーといった分野で、調べるとドイツが最先端を行っていたことが、興味を持った最大の理由です。

 

■ドイツで環境、エネルギー分野の政策が進んでいく理由

Q:長年ドイツ社会で暮らして、日本との違いを感じるのはどんな所でしょうか?

環境やまちづくりといった分野で仕事を続ける中、もっとも大きな違いを感じるのは、「演繹的な考え方」です。まずは目標を設定して、それを実現するために逆算して、今何をすべきかを決めるということですが、それが社会全体に広く浸透しています。

環境、エネルギーの分野についても、ドイツは数年間の議論を経て2010年には、2050年の段階でどんな社会を目指すかというビジョンを決めています。それに向かって各分野で目標を達成するために行動することが決まっているから大胆動くことができています。もちろんドイツだって完璧なわけではありませんし、経済界への配慮による妥協や行動が足りていないところも多々あります。ただし、この分野において何らかの物事を進める際に、2050年のあるべき姿に1ミリでも近づいているような手ごたえがあります。

 

日本社会はどちらかといえばいきあたりばったりというか、「今がこうだからこれくらいできるだろう」、という積み上げる発想でやっているように思います。どちらが良いというわけではなく、トヨタ社の「カイゼン」に代表されるように細かい改良をするのは得意なんです。でもそのやり方では2050年のビジョンを包括的に決めて社会を動かしていくのは難しいと思います。

■「持続可能なまちづくり」をめざす人たちが集える「場」づくりを

Q:クラブヴォーバンを立ち上げた理由は何でしょうか?

統計を見れば明らかですが、日本の状況は持続可能な姿とはとても言えません。とくに人口減少なんて、いま40代半ばのぼくが生まれたときには少子化が始まっていて、将来的にドンドンと減っていくことが確実だったのに、結果につながるような対策が何もほどこされてきませんでした。他の国でも同じような課題に直面しながら、対策がそれなりの成果を上げている例もある。そうした取り組みを参考にしながら、持続可能なまちづくりについて提案したいと考えました。

 

クラブヴォーバンで目指したのは、何らかの事業を営む団体を立ち上げるというよりも、サロンのような場づくりです。名門大学や大手企業の一部には、学生や社員、OB・OGが特に目的がなくてもその場所に来れば、多様な分野で活躍している異業種の人たちと関係を築ける集いの場があります。そこから新しいビジネスが生まれてきたりする。

持続可能性をテーマにしている人たちが、そういうことをやれる場所があったら、新しい動きにつながるのではと思いました。当初は仲間に住宅や建築の関係者が多かったことから、省エネ建築の分野でいろんなノウハウを提供したり、各社が協力して共同出資による会社やブランドを立ち上げることに発展しました。

■高断熱・高気密の省エネ建築の分野で社会の関心が拡がる

Q:設立からまもなく10年ですが、どのような手応えを感じているでしょうか?

この10年間で最も大きく変わったのは、省エネ建築の分野です。高断熱・高気密、日射取得・遮蔽などそれに関わる工務店や建築家の数は確実に増えていますし、社会的に注目されるようにもなりました。その意味では、ぼくたちも社会を変える一翼を担えたのではないかという手応えはあります。

ただ、マイカーのみではない徒歩・自転車・公共交通の充実や緑地設計を含めた都市計画の分野では、社会が良い方向に進展したとは言えません。今後は、その分野に力を入れていきたいと考えています。 

 

■全国の自治体の課題解決をサポートする

Q:2015年に、「持続可能な発展を目指す自治体会議」を立ち上げたのも、そうした背景からでしょうか?

クラブヴォーバンではこれまで、持続可能な社会を願う民間の企業家の人たちが集まり、サロンとして盛り上がって様々なプロジェクトが実施されてきました。もう一つの柱として、先進的な自治体が出会い、学び、交流できる場をつくろうと考えました。特にそれほど人口が多くない自治体は、情報がなかったり、環境やエネルギー政策の担当者、専門家もいなかったりする。そこで、ぼくらがノウハウを投げ込んで、エネルギー問題や都市計画を含めた地域の課題解決につなげてもらえればと思ったのです。

2017年11月現在、熱心に参加いただいている全国でも先進的な小規模の自治体さんはすでに7自治体になります(オブザーバー含まず)。

 

日本社会の課題は明確で、解決策も多くのケースであるのです。その方向性が経済性を持たなければ実現が難しいかもしれませんが、これも多くの場合で経済性をすでに持っています。やろうとすればやれることはあるのに、なかなかそういう方向に動いていきません。国全体が動いていかない中で、まずはすでに動いている、あるいは動こうとしている自治体の人たちと一緒に、できることからやっていこうということです。でも本当は、すべての自治体、あるいは全ての分野の人たちが持続可能な方向に舵を切らないといけないときが来ているのではないでしょうか。