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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

第4回 石川 義和(CVPTメンバー・(株)Wellnest Home代表取締役)

今回の石川義和さんは、香川県高松市で建設業を営んできた会社の社長です。デザイン住宅を手がけ、「施主の夢をかなえる」ことをやりがいとしていた石川さんは、早田宏徳さん(クラブヴォーバン代表理事)との出会いやドイツ訪問が転機となり、今後の家づくりの方針を明確にします。

その後、ウェルネストホーム(旧低燃費住宅)を設立した石川さんは、なぜ寒さとは無縁に思える香川県で、高断熱高気密のエコ住宅を建て続けているのでしょうか? 地域で省エネ住宅をつくり、エンドユーザーに広めていく実践者から話を伺いました。

■日本の住宅に共通する問題点とは?

Q:ウェルネスとホームと出会う前は何をされていましたか?

ぼくは、香川県で昭和6年から建設業をやってきた会社の3代目になります。ウェルネストホームと出会う前は、デザイン住宅を手がけてきました。お客さんの要望をすべて聞いて、その夢を実現する仕事です。年間の受注棟数は、香川では多い方でした。

家が完成してお客さんに引き渡す時は、「夢の家をありがとう!」と、めちゃくちゃ喜んでくれました。でも、時が経てば経つほど満足度は低下して、クレームが増えるようになりました。当時、ダントツに多かった不満は、「暑い」「寒い」です。うちの会社は木の品質や施工、見映えにはこだわっていました。でも、暑さや寒さといった温熱環境について知見がなかったので、「日本の家なんてこんなものですよ」としか答えられませんでした。

 

それから、「間取りが悪い」と言われました。お客さんの望みどおりにしたのに、なぜそう言われるのか不思議ですよね? でも必要な間取りは、お客さんの生活スタイルとともに変化するんです。おばあちゃんと同居したり、お子さんが大きくなって出ていったりする。本人たちは、その時点の生活スタイルで100点満点の家を望むのですが、数年経つと発想が変わることを気づかないのです。これについても、当時は対応のしようがないと思っていました。日本の住宅に共通するこれらの問題を解決したのは、のちにウェルネストホームを一緒に立ち上げる、早田宏徳との出会いでした。そして、彼とともに行ったドイツへの視察です。

工務店がカビの研究をするドイツ

Q:早田さんの話やドイツ視察で気づいたことは何でしょうか?

早田と出会ったのは、ある建材メーカーのセミナーです。彼は、住宅の温熱環境や間取りに関して、ぼくが悩んでいた点を明快に答えてくれました。そこで、うちの会社でコンサルタントをやってもらえないかとお願いしました。コンサルをしてもらって特に印象深かったのが、2011年に彼の案内で訪れたドイツへの視察でした。驚いたのは、最初に「カビ」の研究所に連れて行かれたことです。ぼくは「こんな研究所じゃなくて早く家を見せてくれよ!」と思っていた。でもこれがすごく大事でした。

結露がカビを生み、カビのせいでアトピーを始めとするアレルギーが起きやすくなる。だからドイツでは、快適な住まいづくりを考える工務店は、まずカビを生やさないための研究を徹底的にするのです。ドイツではそれが常識でしたが、日本では自分も含めて、当たり前のように結露する家をつくり続けてきました。

 

それから1月に行ったので外は寒いのですが、建物の中はそれほど暖房器具が多くないのに暖かくて快適でした。そこからもわかるように、ドイツで家をつくる人たちの間で、断熱や省エネへの意識も常識になっていたんです。工務店の人からは、「ドイツで寒い家なんかつくったら、裁判に訴えらたら負けるよ」と言われました。日本の工務店とは、考えていることやこだわるポイントがぜんぜん違う。悔しいけれど、住む人の事を考えているという意味で向こうのほうがプロの仕事をしていることを実感しました。

■健康によく、長持ちする家

Q:なぜウェルネストホームを設立したのでしょうか?

ドイツから戻り、これまで自分がつくってきた家について考えました。その差は歴然です。ぼくは、お客さんの夢を実現してきたつもりだったのですが、将来にわたってお客さんの幸せをちゃんと考えていたわけではなかった。ドイツの基準で考えると、ぼくが建ててきたデザイン住宅は、素人の意見をそのまま取り入れて建てた家でしかなかったんです。

欧州では、家づくりを熟知したプロ中のプロが、健康で長く快適に暮らせる家を建てていました。だからお客さんに引き渡した後も、100年以上にわたって快適性に自信が持てる。ぼくもプロであるなら、せめてお客さんがローンを返す期間に何が起きるか予測して、健康によく長持ちする、住む人のためになる家づくりを手がけたいと、心の底から願ったのです。

 

香川の高松という地域は暖かいとされ、温熱環境なんて誰も考えてきませんでした。そういう土地でも、冬の寒さで人が家の中で倒れています。だから、この香川で温熱環境の素晴らしい住宅を建てて、なおかつビジネスとしてもうまくいけば、日本中の人にその重要性が理解してもらえるのではないかと考えました。そこで、早田と一緒にウェルネストホームの前身である低燃費住宅を、香川で設立しました。

 

 

■「売るための住宅」から、「日本を良くする家づくり」へ

Q:実際につくりはじめて、それまでとは何が変わりましたか?

ウェルネストホームを建てるようになって、一番変わったのはお客さんの満足度です。冒頭でデザイン住宅は、歳月とともに満足度が低下するという話をしました。でも、「暑くない」「寒くない」というウェルネストホームの温熱環境についての満足度は、1年目も5年目も変わりません。むしろ評価が高くなるんです。

 

またシンプルな設計にこだわっているので、生活スタイルの変化に対応して間取りを変更しやすいという特徴があり、その点でもご満足いただいています。その利点は、結露やカビが発生せず、長持ちする住宅だからこそ発揮できるのだと思います。お客さんからの紹介率が、デザイン住宅の時は2割ほどでしたが、いまは7割を越えていることからも、満足度の高さが伺えます。

また、つくり手としての意識も劇的に変わりました。自分の建てた家が、お客さんに喜んでもらえるだけでなく、世の中をよくすることにつながるなんて、こんなに素晴らしいことはありません。デザイン住宅をやっていた頃は、想像したこともないことです。当時は自分の会社を存続させることが大事で、お客さんに売れるものが正解だと思っていましたから。

 

ぼくはこれまでの日本の家づくりで見過ごされてきた、「健康」や「快適さ」という価値を高めていきたいと思っています。クラブヴォーバンを通じて、このような高性能な家の意味が全国に広がれば良いと思いますし、日本で間違いなく必要とされていると確信しています。そしてこれからは、住宅の基本性能が担保され、デザインに優れた住宅を造っていきたいですね。