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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

第5回 中谷 哲郎(CV理事 /(株)日本エネルギー機関代表取締役)

中谷哲郎さんは、住宅リフォーム関連の新聞社で活躍、3000社を超える住宅関連企業を取材してきました。その豊富な経験を活かして、現在は住宅を中心に持続可能なまちづくりについての情報発信を続けています。

「その頃は省エネや環境には全く興味がなかった」と語る中谷さんは、なぜ日本で「ヴォーバンのようなまちづくり」をめざすようになったのでしょうか?住宅とメディアに長年関わり続けてきた彼だからこそ感じた、これからの省エネ住宅やまちづくりのあり方とは?

■山口県の地元が衰退していく危機感

Q:新聞社時代から、住宅リフォームに可能性を感じていたと聞いています

住宅リフォームの業界紙を手がけていた頃に、常に考えていたのは「地方を元気にするために何ができるか」ということでした。住宅リフォームは、地域の経済基盤を担える産業です。家を持つ人が、壊れた箇所を修復するだけでなく、より良い家にアップグレードすることで、暮らしが豊かになり、かつその投資によって地域の産業創出にもつながるからです。

背景には、私が山口県周南市(旧徳山市)出身で、衰退の一途をたどる地元をどうにかしたいと考えたことが影響しています。昔はすごく賑わっていましたが、今では商店街はシャッター通りで、まるで活気がない。情報メディアに関わっている人間として、地元がこのまま消えていくのを黙って見ていられないという危機感を抱いてきました。
  

■価値あるリフォーム産業が、地域を元気にするという希望

Q:「住宅の省エネ化」という視点にめざめたきっかけは何でしょうか?

当時の私は、住宅の温熱環境や省エネ、持続可能性などについては全くの無知でした。転機となったのは2004年頃、取材で早田宏徳さん(クラブヴォーバン代表理事)と出会ったことです。早田さんは当時、仙台で高性能な住宅をつくる工務店で働いていました。「家をリフォームすることで、暑さ寒さなどの住み心地が快適になる」という早田さんの話は新鮮でした。

日本の住宅産業は、これまでは新築で稼いできました。しかし、人口減少が加速していて、これからはリフォームがカギになってきます。それを見映えだけのリフォームに終わらせるのではなく、住宅の質を上げることができれば、施主にも喜ばれる。その価値を伝えることができれば、地域の工務店の需要も増えるはずです。早田さんのイメージする事業ができるなら、自分の地元も含めて地域を支える産業になると希望を持ちました。そこで私が各地の工務店の経営者に声をかけ、早田さんのセミナーを開催するようになりました。

その後、早田さんからドイツ在住の環境ジャーナリストである村上敦さん(クラブヴォーバン代表)を紹介されました。「ドイツでは、住まいをリフォームすることで、住んでいる人も豊かにになり、地域も元気になる」という村上さんの話を聞き、「それこそ私のやりたかったことだ!」と共感しました。しかしドイツのリフォーム内容は、私の想定していたリフォームの上を行っていました。

 

ドイツの建築やまちづくりでは「エネルギー」という視点が欠かせません。誰もが毎日使っているエネルギーを地域で生み出したり、地域の中で循環させることで、外から買ってくるエネルギーを減らすことができるという視点です。個々の住宅についても省エネ化を推し進めることで、地域の産業としてかなりの広がりをもった動きになっています。これはすごいと思いました。そして早田さんと村上さんが、ドイツに学んだまちづくりを日本で行うためにクラブヴォーバンを立ち上げた際(2008年)、新聞社に所属しながら参加させてもらいました。

■所得が少なくても、住民を幸せにする合理的で民主的な都市計画

Q:ドイツのヴォーバン住宅地を訪れて何を感じましたか?

まさに百聞は一見にしかずです。村上さんの案内でヴォーバン住宅地をめぐると、「なんて合理的な街なんだ!」と心が揺さぶられました。長期的な都市計画のもとで、誰もが納得する形で開発が行われ、住民が参加してまちづくりが進んでいました。その仕組みはとてもシンプルで、理にかなっていた。

何より住んでいる人たちが、所得が特別多いわけではないのにみんな幸せそうなのが印象的でした。人口は、自分の田舎とそんなに変わりません。フライブルクが22万人、周南市は15万人。でも周南市はさびしいのに、フライブルクは「今日はお祭りでもあるんですか?」というくらい賑わっていました。「こんなステキな街に住みたい!」と心から思ったんです。

ヴォーバン住宅地に限らず、ドイツの都市計画では、長期的な経済動向を算定しながら住宅用地の面積が決められていました。ニーズがないのに住宅ばかりつくると、需給バランスが崩れて既存住宅の価値が目減りしてしまうため、みんなの利益を守るために、住宅をむやみに増やさないのです。

 

日本だって本当は、今ある資産価値を守るべきなのですが、これまではすぐに劣化してしまう住宅やマンションを無計画に、しかも大量につくっては売り続けてきました。さらに私が関わっていたようなメディアは、どちらかと言えば売れている住宅やメーカーなど、目の前で起きていることを後追いしてきた。そんな無計画なまちづくりをしていては、ヴォーバンのように住む人が幸せになる街はできません。ヴォーバンを訪れて、日本社会も私自身も、このままじゃいけないと気づきました。

 

■日本にヴォーバンのような素敵な街をつくる仲間を増やしたい

Q:クラブヴォーバンでの役割はどのようなものでしょうか?

私の役割は、日本にヴォーバンのような街を一緒につくる仲間を増やすことです。それを本格化させるため、私は2012年に新聞社を辞めて「(株)日本エネルギー機関(JENA)」を立ち上げました。そこで、「持続可能なまちづくりをすすめる情報ビジネス」を展開しています。

 

具体的には、省エネ建築のコンサルタント、ドイツへの視察ツアーのコーディネート、エネルギーパス(建物の省エネ性能評価の指標)の講習会などを、建築関係の企業に対して実施しています。そうした活動の中から、高性能住宅であるウェルネストホーム(旧低燃費住宅)やエネルギーパスに参加する仲間が増えてきました。また日本とドイツの架け橋として、日独の国交省の連携事業を手がけることもあります。

もちろん、私たちの力だけでは全国に広げることはできません。そこで、建材屋さんや建材の問屋さんと相談して、省エネに興味ある工務店の方を紹介していただいています。全国で私たちと方向性の合う建築業者さんを増やすことが、日本でもヴォーバンのようなまちづくりを実現するカギだと思うからです。
 
みんなが素敵だと思うヴォーバンのような街が日本で1つでもできたら、世の中が変わっていくはずです。それを実現するために、クラブヴォーバンの活動を広げていきたい。皆さんも是非仲間になってください。