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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

第6回 永井 宏治(CVPTメンバー / 建築・都市・環境コンサルタント)

永井宏治さんは、ドイツで省エネ建築や都市計画などを幅広く手がけるコンサルタントとして活躍しています。そしてここ数年は、日本の自治体や企業とも連携し、ドイツの知見を提供、街区の再生や住みよいまちづくりをめざしています。

永井さんから、ドイツのまちづくりの考え方や、日本社会の課題、そしてどんな未来を築いていくべきかについて伺いました。

■大怪我して気づいたこと

Q:ドイツでまちづくりを学ぼうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

私は留学したいとか、海外で働きたいという強い思いがあったわけではありません。きっかけは高校でラグビーをしていて、足を大怪我したことでした。人生で初めて松葉杖で歩くようになり、世界が違って見えるようになりました。街を歩くことや、建物の中で生活することの不便さを感じるようになったのです。山の中の新興住宅地に住んでいたのですが、駅から家まで急な坂道が続いていたり、駅の階段でエスカレーターがなかったりと、不自由な人は本当に大変だなと。

なぜこういう町がつくられたのかに興味が湧いたということと、もっと改善していきたいと考えて、大学では都市計画を志すようになりました。この分野では、当時からドイツが先進的な取り組みをしていました。そして進路を相談した大学教授の薦めもあり、卒業後に22歳でドイツの大学院へ留学。その後、就職してドイツがずっと拠点になっています。

■効率的な土地利用を進めるコーディネーター

Q:ドイツでは、どんな仕事をされているのでしょうか?

都市計画は、建物の省エネ性能の向上、電力や熱の供給、公共交通をどうするのか、といったさまざまなことを手がける仕事です。建物を省エネする場合も、効率的なエネルギー供給について考える場合も、個別の家だけで考えるのではなく、エリア全体で考えることでより効果が増します。そういった分析をして、どの地区ではどのようなエネルギー利用が有効かをシミュレーションして提案をするということをしてきました。

ドイツの街並みが整っているように見えるのは、「Bプラン」と呼ばれる自治体がつくる土地利用計画があるからです。どの敷地にはどういう建物をどういう風に建てなさいという縛りをかけていくんです。ドイツの自治体の権限は日本よりも格段に強く、将来に渡ってこの地域をどうしていくのかという未来図を描くことができます。都市計画の仕事は、そのBプランを自治体と一緒につくっていくことから始まります。

このようなプロジェクトを円滑に進めるには、政治のサポートや住民の理解が欠かせません。また、既存のエネルギー供給網を拡大する場合や、新設する場合には、地元のエネルギー供給会社とすり合わせる必要があります。そのような人同士のつながりを作るコーディネーターの役割も担っています。

 

■車中心社会への反省

Q:ドイツと日本と行き来する中で、どんな違いを感じますか?

ドイツで働いてやりがいのある部分は、若くても個人の力を発揮できる場があることです。既存のやり方にとらわれず、自分の意思でチャレンジできる。日本だと、なかなかそうはいきません。もっとも衝撃を受けたことは、専門分野の人って普通はなかなか自分の業界とか自分たちがやってきたことの過ちは認めたがらないじゃないですか?でもドイツはやってきたことの間違いを認めて方向を転換するんです。例えばドイツは日本と同様に車中心の都市計画、いわゆるモータリゼーションを進めてきました。でもいまの都市計画家の多くはこの車中心のプランニングは間違いだったと評価して、車を減らす都市計画を進めているんです。

最近は日本の企業や自治体とも事業をしているのですが、特に自治体は予算が単年度でしかつかないので、長期的なビジョンのもとに持続可能な計画を立てにくいと感じています。また、ドイツの企業や自治体は、一番になるのが大好きなので、開発や導入の速度がめちゃくちゃ早い。日本の自治体は前例主義なので、「他で実際にやっているところはありますか?」とよく聞かれます。なかなか迅速な決断ができない仕組みになってしまっているように思います。

 

■自治体の街区の再開発をサポートしたい

Q:クラブヴォーバンではどのような役割を担っていますか?

これまでクラブヴォーバンは個別の住宅の省エネ化に力を注いでいたので、私も住宅の性能評価を測る指標である「エネルギーパス」のツールを開発するといった関わりをしてきました。いまはもっと幅を広げて、自治体との協力も含め街区やエリアで考えているので、自治体の住宅地や街区の再開発、改修などを一緒にできたらと思っています。すでにいくつかの自治体とは相談させていただいています。

街区全体を改修するのは個別の建物ほど簡単ではありませんが、例えば老朽化した団地は、入居者も減り、今いる入居者も高齢化するなど、どうにかしなければなりません。とはいえ、自治体には取り壊して新しいものをつくるお金がない。ドイツでは巨大団地の大規模省エネリフォームなどの例も豊富で、それによって新しい価値が生まれ、入居者が増えている例もあります。このような動きは、日本の団地でも応用できればと思います。
 

■日本の住環境を変えるために

Q:これからどんな未来をつくりたいですか?

ドイツから日本に戻り、町中に入ると絶句するんです。例えば電車の線路スレスレに住宅が建っているなどということは、ドイツでは極めて例外です。また、私には子どもが2人いるんですが、ドイツの公園には木製の遊具がたくさん並んでいます。でも日本の公園には遊具が何もない。ケガをしたら危ないからといって、どんどん撤去されてしまうんです。子どもが遊ぶところがないと、親も大変です。先進国なのに、そんな住環境や生活環境になってしまっているのは悲しいことだし、変えていきたいと思います。

 

ドイツだって、やってもすぐに結果が出ないことは多い。でもチャレンジし続けてここまできました。日本の最大の問題は間違いを笑う教育の延長でチャレンジしないこと。それが一番良くないと思います。両国を比べると、個人の能力や企業の技術力の差はほとんどありません。でもシステムの問題とか意識レベルで、大きく遅れをとっている。それは残念だし、変える必要があると思います。いま日本は急激な人口減少を迎えています。それは危機という面もあるのですが、人口が増えているときにはできない、従来のシステムを修正するチャンスでもあると思っています。