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持続可能なまちづくり × エネルギー自立地域をめざす全国ネットワーク

第8回 金田 真聡(CVPTメンバー / 建築家、EA partners共同代表)

ドイツ・ベルリン在住の建築家である金田真聡さんは、自ら設計するだけではなく、コンサルタントとしても日本企業や自治体にドイツの先進的な建築を紹介し、断熱を始めとする省エネ改修の重要性を伝えています。

30歳を過ぎてから、言葉もままならないドイツに単身乗り込むというチャレンジをした金田さんから、ドイツの建築事務所で働くようになって驚いたことや、建築家に求められる社会的役割の違いなどについて語っていただきました。

■社会に貢献できる建物をつくりたい


Q:なぜ30歳でドイツへ移住したのでしょうか?

ぼくは、日本の高校から大学、会社員とごく一般的ルートを辿って生きてきました。日本の建設会社の設計部で仕事をしながら、いつか海外で建築の仕事をしたいと夢見ていましたが、なかなかチャレンジすることができないでいました。

そんな中、30歳を目前にして東日本大震災が起こりました。自分も含めて、東京都内の会社から帰宅困難に陥る人たちや、福島第一原発事故によるエネルギー問題をつきつけられ、自分の中の価値観が変わりました。安定していると思いこんでいた日本の社会構造や、その価値観に基づいて設計された建築物が、実は非常に脆弱だったことに気づいたからです。

自分としては、エネルギー消費が少なく、持続可能な社会作りに向けて貢献できるような建物をつくりたいという思いが強くなりました。また、一度きりの人生でいま思い切って挑戦しないといつどうなるかわからない、というふっきれた気持ちにもなりました。そして、省エネ建築の先進地として知られるドイツで建築の仕事をしようと考えました。当時はドイツ語どころか、英語もおぼつかない状態でしたが、履歴書、作品集、面接準備と必要なものから逆算して英語の勉強をして、震災の翌年にはドイツの設計事務所の採用面接を通過することができました。

 

■ドイツで感じた圧倒的な差


Q:ドイツで、日本の建築との違いを感じた部分はどんなことでしょうか?

ドイツの設計事務所では、一般的なドイツの建物を調べて図面を作っていました。まさに「なんじゃこりゃあ!」という驚きの連続でしたね。日本では、内断熱だと通常は断熱材の厚さが2.5センチくらいなんですが、ドイツでは20センチもありました。窓はトリプルガラス(3重)だったり、ブラインドが外についているのにも驚かされました。

例えばトリプルガラスは、話では聞いたことがあったのですが、使われているのは特殊な建築物だけだと思っていたんです。ところが、2009年以降の新築や大規模改修ではごく普通に使われていました。ドイツは年々、国が定める建築物の最低基準が厳しくなっているので、どの建物もきちんと断熱されています。しかし日本では義務としての最低基準すら存在していませんでした。圧倒的な差を感じました。

ドイツは、国家としてエネルギーシフトを進めています。その政策の中で、省エネ建築が重要になっているという経緯がありました。当時の自分は、日々の図面を描く仕事で手一杯だったので後から知ったことですが、ドイツがなぜここまで徹底して省エネ建築を手がけているかという背景には、そのような社会状況も深く関係していました。

もちろん、政治の役割は大きいですが、それを支えるのは一人ひとりがどんな日本にしたいのか、というビジョンを考えることから始まるのではないでしょうか。何もドイツやデンマークの真似をする必要はありません。ただ、デンマークがやっていることには日本の方向性を考える上で、たくさんのヒントがあると思います。私は、そのヒントを探すお手伝いができたらいいと思っているんです。

 

■建築家のやるべきことはいくらでもあった


Q: 建築家が社会で果たす役割についても、日独で違う印象をもたれたとか? 

日本にいる時は、将来自分が建築家としていつまで仕事をできるだろうかと不安に感じていました。入社直後にリーマンショックが起こり、40歳以上の社員に早期退職を募っていました。また、人口減少による空き家問題や新築市場の縮小がクローズアップされていて、将来も設計士として仕事があるのかと心配しました。ぼくに限らず、建築を手がける若い人たちの間には、将来の展望が開けず閉塞感が広がっていたと思います。

しかしドイツでは、省エネルギー化を目的とした改修はこの先何十年分もあり、建築家の仕事はいくらでもあります。ドイツの建築家には、ただ建物を作るだけではなく、未来の社会や生活環境のヴィジョンを作ることが求められています。50年先や100年先の社会をイメージして、将来あるべき建物や町を作る役割を担っている。そこにはもちろん、エネルギーやまちづくり全般も関わってきます。そのように考えれば、建築士にやれることはいくらでもあるんだと、目の前に道がひらけたかのように感じました。ドイツでは建築家だと言うと、「良い仕事だね」と色々な人に言ってもらえました。

 

■強みはマンションやビルの省エネ化

Q:クラブヴォーバンでの役割は何でしょうか?

ぼくは日本とドイツの両方で働いた経験を活かして、建築分野でその架け橋になれればと思っています。ドイツで省エネ建築が広まっていると言っても、単純にそのまま持ってくれば日本で広がるわけではありません。行政の方や企業の方など多方面の人と関わり、その町に合った最適な建物のあり方を丁寧に提案していければ良いですね。

日本でもここ数年で、戸建ての新築住宅の省エネ性能は格段にアップしてきました。一方で、エネルギー消費量の多い集合住宅やビルの分野ではまだ非常に遅れたままです。元々は大規模建築物を扱うゼネコンの設計部で働いていましたし、ドイツでも大型の集合住宅の設計に携わってきたので、今後はそちらの分野に力を入れていきたいと考えています。戸建ては個人に決定権が大きいので理解を得られ易い部分もあるかもしれませんが、ビルやマンションは関係者が多く、法律も絡んでくるので簡単には動かせません。そのためにも、クラブヴォーバンのような仲間づくりの場はとても大切になってきます。

 

■良い建物を作る人はいい環境で働いている


Q:日本をどんな社会にしていきたいですか?

 

日本では、みんなが我慢することが当たり前になっているように感じます。省エネだけでなく働き方も、我慢とか犠牲が前提になっている。ヨーロッパの人は、人生を楽しむために生きるよう育てられていると感じます。日本でも、そう思えるような環境づくりを手がけられたらいいですね。

労働環境もそのひとつです。働いている建物だけ立派だったり性能が良ければ良い、というものではありません。建物を作る人の生活環境や労働環境って、その人たちがつくった建物にも現れと思っています。ドイツでは、建物の性能や品質はもちろん高かったですが、そのために働く人たちや住まう人たちの労働環境も日本に比べ良かった。より良い社会作りのためには、その両方が大切だと思ったので、日本でもそうなるように取り組んでいくというのが、ぼくにとってテーマの一つになっています。