clubVaubanロゴマーク

エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

第10回 川端 順也(CVPTメンバー / 建築士、ファイナンシャルプランナー、エネルギーパス協会講師)

建築士の川端順也さんは、拠点とする広島エリアで省エネ住宅を広める活動をしています。また、「ファイナンシャルプランナー」の資格や、建物の状態を調査する「インスペクター」という多彩な顔を持ち、地域の省エネ化をさまざまな面からサポートしています。

クラブヴォーバンのネットワーク組織である一般社団法人エネルギーパス協会で、エネルギーパスの講師も手がけている川端さんに、「温暖」とされる広島で、なぜ高断熱住宅が必要なのかについて伺いました。

■地域全体で省エネ住宅を増やしたい
Q:日頃はどのような仕事をされていますか?

広島で自分の設計事務所を立ち上げて、2018年で5年になります。ぼくがやっていることをひとことで言うと、中小の工務店の設計サポートです。大企業には会社の中に設計部門がありますが、小さい会社にはないことが多い。だから各工務店のお客さんと直接話して設計しています。その際に、将来の光熱費も考えて省エネ仕様の家にするようお勧めしています。

 

また、広島の建築関係者が集う「レモンの会」というネットワークに参加しています。レモンの会では、建物の燃費性能の表示を常識にすることで、地域にエコで健康的な住宅を増やしています。この活動を通して、会員企業がお互いの手がけた建築現場を見せ合うようになるなど、それぞれの社員の意識も向上しているという手応えを感じています。ぼくだけが頑張っても仕方ないので、広島地域全体で建築業界のレベルの底上げできれば良いと思います。

 

■独立のきっかけは、たび重なる震災
Q:建物の省エネに高い関心を持ったきっかけは何でしょうか?

ぼくは大阪出身で、以前は神戸のゼネコンでマンション建設を手がけていました。そのときは、省エネのことはきちんと考えてはいませんでした。きっかけとなったのは相次いだ地震です。2011年2月に、語学留学をしていたニュージーランドで大きな地震があり、被害がでました。自分に何かできることはないかと、つながりのあったニュージーランドの設計事務所とメールのやりとりをしているうちに、今度は3月に日本で東日本大震災と原発事故が起きました。

 

かつては、神戸の震災も近くで体験しました。でも、神戸でもニュージーランドでも、「結局自分には何もできなかった」というもどかしさを抱えていました。だからこそ、「今度こそ絶対に何かしなくちゃいけない」と強く思ったんです。何ができるかはわかりませんでしたが、2011年9月に会社を休み、津波で被害を受けた仙台や原発事故後の福島を訪れました。すさまじい被害の現場を見て、「津波は止められないけれども、建物の省エネ化により、原発がいらない社会をつくる手助けはできるかもしれない」と感じました。

 

独立して省エネ建築を志したのは、震災がきっかけですね。ちょうどその頃、エネルギーパス協会の吉田登志幸さんと出会い、クラブヴォーバンの早田さんを紹介してもらいました。その後、エネルギーパス協会の講師にもなって、関西圏でレクチャーが必要なときはぼくが教えるようになりました。エネルギーパスは、住まいの燃費性能を計る共通のものさしです。活動を通じて、まずは建築のプロの人たちが、建物の燃費性能を意識することを当たり前にしていきたいと思います。

 

■広島で省エネ住宅を建てるのか?
Q:広島は 「温暖」というイメージがあります。住宅を断熱する必要があるのでしょうか?

確かに、広島で省エネ住宅を広めるのは簡単ではありません。「広島みたいな温暖な地域で、断熱なんてやる必要あるのか?」とさんざん言われてきました。でもイメージと実態とは違います。広島は晴天率が全国的にも高く、日中の気温だけを見ると暖かい。でも晴れていて雲がないので、夜は放射冷却が起きて一気に気温が下がるのです。その温度差が、ヒートショックなどにつながっています。広島医師会は、天候や気温などに応じて脳卒中予報を出していますが、これなども家が暖かければリスクを格段に減らせます。

 

特に広島の北の方は山岳地で、朝晩は非常に寒くなります。当然、家計に占める光熱費の割合はすごく高くなります。でもそういうエリアほど、断熱なんて考えないいわゆる「ローコストメーカー」が広まってしまっています。これは大変残念です。

 

一般的な銀行員やファイナンシャルプランナーは、「住宅の購入価格は安い方がいいですよ」と勧めています。でも光熱費や健康状態も合わせて考えると、そうではありません。車を購入するときに燃費を調べるのと同じです。ぼくはファイナンシャルプランナーの資格も持っているので、建物の性能を上げれば光熱費が下がるとか、省エネ住宅には補助金も出ますといった総合的な話を案内しているんです。健康リスクの低下も考えると、初期投資だけではわからないメリットがたくさんありますから。

 

■規模の大きな建物こそ、断熱改修を
Q: 戸建住宅だけでなく、幼稚園など大きな建物の設計も手がけられているとお聞きしました。

ぼくはこれまで、地域の工務店に温熱環境のことを伝える仕事をしてきました。それがわかる工務店が増えていけば、ぼくの仕事の一部は不要になります。でもそれだけで社会が省エネ化するかと言えば、そんなことはありません。新築の戸建て住宅だけでなく、スーパーや老人ホームなど、それなりに規模のある建物をなんとかしていかないといけません。夏や冬には24時間冷暖房をかけているこうした建物の断熱性能が、「こんなにひどくていいのか」と驚くようなレベルです。これからは、そちらの断熱改修も含めた設計に力を入れていきたいと思っています。

 

とはいえ、いきなり断熱だけするわけにもいきません。ぼくたちがどういうことをしているかというと、広島では余り気味の木材を活かして、小学校とか幼稚園をリフォームしようという流れができています。その際に、単に木をたくさん使うだけでなく、高断熱化も合わせてやろうよと提案をしています。最近、広島県内のこども園の設計を、うちも含めて3つの設計事務所が共同で手がけることが決まりました。完成は2020年の予定ですが、できたら皆さんにも見に来てほしいですね。

 

■シェアのコンセプトでニュータウンを再生したい
Q: 省エネ建築でどんな未来をつくりたいですか?

広島市には東京の多摩や大阪と同じように、大きなニュータウンがあります。そして他の2ヶ所と同様、広島でも少子高齢化が始まっていて、高齢者ばかりのエリアが増えています。

 

広島のニュータウンには戸建ても集合住宅も混ざっているのですが、こちらの一戸建ては特に大きくて、ひとつの敷地が70坪位あるんです。親が亡くなると子どもは土地を売るのですが、不動産屋は大きな家を取り壊して、土地を2つに割り、新築を2つ建てて売るという流れができています。でも、そういう戸建てが増えると資源が無駄になるし、省エネにはなりません。

 

ぼくならむしろ70坪の土地を2つつなげて、一戸建てをシェアハウスや低層住宅にリフォームして、みんなでシェアできる新しい街にしたいと思います。いまでは、シェアハウスや自動車のシェアが広がっているように、必ずしも一戸建てがほしいという人ばかりではなくなっています。そういう「シェア」の感覚を持つ人が集まる街をつくれたら、ニュータウンの再生もできるのではないかと思うんです。これは長期的な夢ですが、少しでも実現できたらいいなと思っています。