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持続可能なまちづくり × エネルギー自立地域をめざす全国ネットワーク

第13回 高橋彰(クラブヴォーバン広報室長 / 一般社団法人ZEH推進協議会運営委員 / 住まいるサポート株式会社・住まいるハウジング株式会社代表取締役)

高橋彰さんは、大規模なビルから住宅まで、建物のエネルギー性能を評価するプロフェッショナルとして活躍してきました。さらに、省エネ建築について住宅のつくり手と話し合ってきた経験を活かして、一般の消費者が高性能住宅を選ぶ際にサポートをする新会社を設立しています。

「世界の先進国に比べ、著しく劣っている日本の建物の省エネ性能を上げたい」と語る高橋彰さんから、省エネ性能表示制度や、これからの建築のあり方について伺いました。

日本にはなかった建物の省エネ性能基準
Q:高橋さんがご専門の、建物の省エネ性能基準について説明してください。

住宅も非住宅も同じですが、日本の建築物の省エネ化は、先進国の中でとても遅れています。制度面で言えば、主要先進国の中で日本だけ、省エネ基準が義務化されておらず、やっと大規模な非住宅建築物についてのみ近年に義務化された段階です。

また、現在使われている日本の省エネ基準そのものが、主要先進国の中でとても低い水準にあります。欧米にはより厳しい基準があり、しかもそれが義務化されてきました。日本と欧米とでは、住宅・建築物の性能の差が大きく開いてしまっています。

建物の省エネ性能が低いと、エネルギー問題だけでなく、その建物で住んだり働いたりする人たちの健康や快適性にも悪影響を与えます。そのため、最近では国も省エネ性能を上げようとしています。例えば経済産業省、国土交通省、環境省の三省が連携して、省エネ性能の高いZEH(ゼロエネルギーハウス)を推進しています。

そのような動きの中で、世界的には建物の省エネ性能を共通の基準で表示することが欠かせなくなってきています。ドイツなら「エネルギーパス」、米国なら「エナジースター」というように、省エネ性能に特化した評価基準を義務付けてきました。ところが、日本では指標となるような省エネ性能表示制度が長年ありませんでした。そこで、国土交通省が旗振り役となって、BELS(ベルス)という表示制度が導入されました。BELSは、非住宅部門では2014年から、住宅部門では2016年から始まっています。私もごく最初の段階からBELSの制度設計や普及促進に携わってきました。

 

BELSが新しい基準に
Q:BELSとは、どのような基準でしょうか

BELSが登場する以前から、日本にはCASBEE(キャスビー)という建築物の環境評価ツールはありました。しかしCASBEEは、音環境や廃棄物、生物多様性など、環境性能を総合的に評価するものなので、そこで良い評価を得たとしても、省エネ性能の良し悪しの判断はできませんでした。

BELSは、省エネ性能に特化した新しい基準としてつくられました。建物の一次エネルギー消費量に基づいて、☆の数で評価をするもので、☆1つから始まり、最高ランクが☆5つです。私が務めていた日本ERIは、BELSの認証を行う機関のひとつです。私はその省エネ推進部で、BELSを始めとした建物のエネルギー認証を行ったり、ハウスメーカーや工務店向けに省エネ化について情報発信するセミナーを開催してきました。

 

消費者が賢くなる必要性
Q:ハウスメーカーや工務店は、建物の省エネ性能を上げることについてどのような反応をするのでしょうか?

BELSや建築物省エネ法ができた当初は、各社とも関心はあるので話は聞いてはくれるんです。でもなかなか住宅・建築物の性能向上にはつながりませんでした。設計者やゼネコン等の方々が言うには、省エネ性能の価値が施主や借主、消費者に知られていないということでした。事業者側が、一生懸命に省エネや断熱をやったら建築コストは上がります。その価値を理解してもらえなければ、住宅が売れません。非住宅も同じで、ビルのオーナーさんや入居するテナント企業がわかっていないと売れない。「卵が先かニワトリが先か」という話と同じで、事業者側としては、エンドユーザーの側で評価してくれないと、アクションを起こせないというものでした。 

 

Q:そんな状況で、建物の省エネ性能の表示の努力義務が始まったことにはどのような意義があるのでしょうか?

BELSという共通のモノサシができたことで、消費者側も建物の性能の違いがわかるようになりました。これを活かせば、消費者が性能の良い家を手に入れる可能性が増えます。これまで消費者は、何も知らずに立地や見た目、価格だけで住まいを購入してきました。また事業者側は、「ニーズがないから」という理由で、性能の低い住宅を供給し続けてきました。そういう悪循環を変える良いきっかけになるのではないかと考えています。ただし、今のBELSの評価基準は、国際的に比較するととても低いレベルなので、最高等級の5つ☆の性能で十分と考えられてしまうことが少し心配ですが。

 

■企業や自治体を通じた環境教育を高気密高断熱住宅を建てるサポートを
Q:持続可能な社会を実現するには、何が大切だと思いますか?

そのとおりです。そこで、「住まいるサポート株式会社」を設立しました。私はこれまで、主に住宅のつくり手の側との接点が多かったのですが、この会社では、一般の消費者を対象に高気密高断熱の住宅を建てるお手伝いをしていきます。

土地選びや売買の仲介も行いますが、単なる仲介業者ではなく、消費者が自ら高性能な家を選べるようになる視点を養い、賢い消費者になるためのセミナーを開催するなど、多角的な情報発信を行います。それにより、たいした性能でもないのに「高断熱高気密」をうたっている工務店の誇大広告を見抜けるようになります。これからの消費者は、家のつくり手の言いなりではなく、営業マンをギクっとさせるような質問をするようになって欲しいですね。消費者側が賢くなり圧力をかけることができれば、ハウスメーカーや工務店側の意識も必ず変わっていくはずです。

日本ではまだ、ちゃんとした高気密高断熱の住宅をつくれるハウスメーカーや工務店は、極めて限られています。当社では、高性能の住宅をつくれる信頼できるハウスメーカー・工務店と提携して、消費者に紹介していきます。

■トータルで整合性の取れるまちづくり
Q:どんな未来をめざしたいですか?

私は都市計画のコンサルタントの経験もあるのですが、ドイツと比較すると、残念ながら、日本のまちづくりは、非常に場当たり的です。縦割り行政の弊害なのか、総合的、戦略的にまちづくりを進めるということが行われていません。

また、設計者やゼネコン等の専門家の省エネ建築についての認識が低いことも残念な点です。建築物省エネ法が施行された際に、彼らと省エネ建築の話をする機会が多かったのですが、「日本は省エネ先進国なのに、なぜ省エネ建築を義務化されないといけないのか」とよく反発されました。多くの専門家も日本の住宅・建築物の省エネ性能が先進国の中で非常に劣っていることを認識していないのです。日本は確かにエアコンの機能とか、設備機器のレベルでは効率が良いものをつくります。しかし、住宅・建築物躯体性能など、根本的に変えないといけない部分が残っています。

これまで、建築業界は省エネ基準を高めることに消極的でした。でも、高性能な家をつくってその価値を消費者と共有することができれば、住宅の経済的な価値が高まりますし、事業者も工事単価も増え、売上も増加します。建築業界と消費者側の両者にとってプラスになるはずです。私はクラブヴォーバンと連携しながら、ドイツのようにトータルで整合性の取れる仕組みに変えていくことにすこしでも貢献できればと考えています。