clubVaubanロゴマーク

持続可能なまちづくり × エネルギー自立地域をめざす全国ネットワーク

第16回 近藤智(CV理事 / ファイナンシャルプランナー / マングローブ・クリエーション常務取締役 )

「住宅にかかるお金」といえば、ほとんどの人は購入資金のことを思い浮かべるはずです。しかし住宅購入を考えている人にアドバイスを送るファイナンシャルプランナーである近藤智さんは、「初期投資だけで考えるのは危険」と警鐘を鳴らします。

重要なキーワードは、「住宅のライフサイクルコスト(LCC)」です。持続可能なまちづくりとも深く結びついている「住宅のライフサイクルコスト」という考え方について、近藤さんに伺いました。

 

老後に破綻するショックから
Q:なぜ住宅の分野でファイナンシャルプランナー(以後FP)をするようになったのでしょうか?

私は典型的な理系学生で、大学時代は生物と環境を専攻、自動車の排ガスを浄化する実験などをしていました。卒業後は、自動車メーカーで環境負荷の低いエンジンの開発に携わります。その後、住宅系のコンサルティング会社に転職しました。当時は、自分の人生のライフプランについては、漠然としか考えていませんでした。

 

転機となったのは10年ほど前に、ファイナンシャルプランナーにライフプランを作成してもらったときのことです。シミュレーションで、老後が大赤字になることがわかりました。教育費用、老後費用、住居費用の3つは、人生で特にお金のかかる「三大支出」と言われています。私の場合、住居費用がおざなりで老後にしわ寄せがいっていました。 

結婚して間もない当時は、都内で実際の収入よりも高めの賃貸マンションに住んでいました。ずっとこの価格の賃貸に住み続けるとすれば、70歳のときに赤字に転落してしまうというのです。昔のように給料が上がり続ける時代ではないので、こういう事を自分自身であらかじめ考えておく必要性を痛感しました。

 

もうひとつのきっかけは、住宅展示場を訪れたときのことです。モデルハウスはすごく立派なのですが、ハウスメーカーの方のお金に関する説明には不安を覚えました。住宅購入を検討している人にとっては初めての経験で不安も大きく、将来破綻する可能性もある問題なのですが、ライフプランについてしっかりと説明してくれる人がほとんどいませんでした。

当時はFPという仕事は、保険会社や金融機関の関連で扱われる資格というイメージでした。でもこうした経験をしたことで、住宅購入を考える際に、破綻しないような計画を一緒に考えるFPが必要とされているのではないかと考えたのです。

 

■家も買い換えるのが当たり前?
Q:FPになった後、ドイツのヴォーバン住宅地にも行かれていますね。ドイツではどのようなことを感じましたか?

 

FPとして活動を始めたちょうどその頃に、クラブヴォーバンの早田宏徳さんと出会いました。早田さんの薦めで、2010年にドイツのヴォーバン住宅地の視察ツアーに参加し、村上敦さんからもドイツの状況についてお話を伺いました。

ヴォーバン住宅地のあるフライブルク市の人口はおよそ20万人で、平均所得も日本とそれほど変わりません。でも、町は活気にあふれて子どもたちは元気に遊び回っていました。シャッター商店街だらけの日本の地方都市とは、雲泥の差です。背景の一つには、建物が長寿命であるという要素がありました。

自動車会社に努めて車という「消費財」を開発していた自分は、「モノは買い替えるのが当たり前」という感覚が染み付いていました。しかしドイツでは、建物は車とは根本的に違い、一回作ったら手入れして長持ちさせるのが当たり前と考えられていました。
 

日本では住宅の寿命が30年前後で、各世代が住宅ローンを組まなければなりません。ずっと賃貸に暮らしても同程度のお金が必要です。でもドイツでは住宅を長持ちさせるので、次の世代に負担をかけずに済んでいます。近い将来に廃棄するような住宅を作り続けている日本と、次の世代のための資産を作っているドイツとでは、大きく違っていました。その事実を知って、本当にショックを受けました。 

日本でもヴォーバン住宅地のような住宅やまちが作れたらいい、とも思いました。そしてそれを実現させるために、FPという分野で自分が力になれるのではないかとも感じました。ドイツに行ったことで、もともとやりたかった環境分野と、FPという自分の仕事とが結びついたのです。それからは、住宅のライフサイクルコストについて強く意識するようになりました。

■「住宅のライフサイクルコスト」は、人生に大きな影響を与える
Q:住宅のライフサイクルコストとは、どのような考え方でしょうか?

ドイツに行く前は、お客さんの年収では金融機関からいくら借りられるか、どれくらいで返済できるかについてシミュレーションすることが仕事の中心でした。でもドイツで教わったことは、住宅を買った後にかかる費用は、実は初期費用を上回るほど大きいということでした。外壁の維持修繕などのメンテナンス費用、建て替え費用、そして毎月かかってくる光熱費などです。現在ではこれらの要素をデータ化して、数十年先までを見越した「住まいのライフサイクルコスト」の観点でお伝えしています。

買うときには「毎月これくらいなら払えるだろう」と住宅ローンを組んでも、買った後に想定外の費用がかかって、家計が苦しくなるということはよくあります。そのため、場合によっては「住宅の購入は数年待ったほうがいいですよ」とか、「住宅にかける予算を削らないと、のちのち教育費が大変ですよ」といったアドバイスをすることもあります。

住宅購入を長期的視点で考えることは、結果として、長持ちする持続可能な住宅を普及することにも役立ちます。

 

例えば30歳の方が一般の住宅を購入する場合と、初期費用を200万円ほど上乗せして高性能な住宅を購入する場合との二つのパターンで、その方が85歳になる55年後に収支がどうなっているかをシミュレーションします。後者の方が初期費用は少し高くはなりますが、光熱費や修繕費が少なくなるので、55年後には400万円以上もお特になります。また、高性能住宅では数字に現れない快適性や健康にも影響を及ぼします。そのため、きちんと断熱された住宅を選ぶメリットは大きいと考えています。

以前と比べると、国も長期的視点を持った住宅を薦めるようになってきました。大きな流れは変わってきていると思いますが、FPというレベルではまだまだライフサイクルコストのことまで考えて提案できる人材が足りません。今後はそのような視点から提案のできるFPが、地域ごとにいるのが当たり前になるよう、後輩の育成にも力を入れていきたいと考えています。 

 

 

■次の世代に負担を押しつけないで済むように
Q:これからどんな社会をめざして、どんな取り組みに力を入れていきたいですか?

持続可能性なものを子どもたちに残してゆきたいですね。自分たちのやっていることが、次の世代に迷惑をかけるようなことになるのは避けたい。例えば日本では、すでに年金などの負担を子どもの世代に押し付ける構造になっています。このままでは、さらに住宅まで負担になってしまう。できるだけその悪いサイクルを食い止めたいと思います。

 

持続可能な住宅をつくるハード部分の仕事はクラブヴォーバンで建築を手がける方たちにお任せして、私はFPという立場からソフトの部分で、ライフサイクルコストを考える大切さを一人ひとりにお伝えしていきたいと思っています。また、みんながみんな新築住宅を建てる必要はありません。将来的には、リフォームや賃貸で住む場合のライフサイクルコストを研究するなど、多くの方が選びやすい選択肢を増やしてさまざまな提案をしていきたいと考えています。