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持続可能なまちづくり × エネルギー自立地域をめざす全国ネットワーク

第17回 梶村良太郎(CVPTメンバー / ドイツ再生可能エネルギー機関研究員 )

ドイツ・ベルリンに生まれ育った梶村良太郎さんは、ドイツのエネルギー転換の状況を分析し伝える「ドイツ再生可能エネルギー機関」で研究員をしています。これまでは、日本に関連する業務として、日本からドイツへの専門視察のコーディネートや専門的な情報提供を手がけてきました。

また最近では、ドイツと欧州各国との間の環境・エネルギー分野での連携をサポートするなど、幅広い取り組みを行っています。「ドイツを資料として、地域に合った最適な方法を検討していくべき」と語る梶村さんに、ドイツのエネルギー転換のいまを伺いました。

ドイツと日本とでは何が違うのか?
Q:
環境・エネルギー問題に関わるようになったきっかけは何でしょうか?

一般的にドイツ社会では環境問題を取り上げる機会が多く、また私の両親も環境運動に熱心だったので、エネルギーのテーマは当たり前のように関心を持っていました。本気で取り組むようになったきっかけは、大学院生のときに起きた東日本大震災と福島第一原発事故です。日本から届くニュースは本当にショックで、当時は何もできない自分に無力感を感じていました。

 

福島の原発事故のあと、ドイツでは脱原発と再生可能エネルギー拡大の機運が急激に高まりました。一方で、事故の当事国である日本はすぐには変わらなかった。メディア学を学んでいた私は、そのギャップに興味を持ちました。特にドイツの世論がなぜこんなに関心を持ったのかという点にスポットを当てて、ドイツと日本の原発事故をめぐる情報提供と世論形成というテーマで卒業論文をまとめました。

 

そして、あのときの無力感を再び味わうことがないように、ドイツで生まれ育った日本人として何ができるのだろうかと考え、現在の仕事を選びました。ドイツでエネルギー転換の言論に関わり、その経験と知識を日本のために活かせたらと思っています。

 

■EU域内で連携して環境・エネルギー政策をつくる
Q:ドイツ再生エネルギー機関では、どのような仕事をしていますか?

ドイツ再生可能エネルギー機関は、市民や行政など社会に再エネについての情報を提供するために、2005年に環境省と企業とが出資して設立した組織です。現在は、ドイツ政府やEUからプロジェクト資金を調達し、情報発信に加えて自治体のキャパシティ・ビルディング(※)や、幅広い地域のネットワークづくりも担っています。自分はその中で、EU諸国の自治体のエネルギー政策のコンセプト作りや、複数の地域における連携のサポートをしています。

 

例えば、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイルランドという四カ国の自治体が共同で行うプロジェクトでは、それぞれが独自に政策のコンセプトをつくるだけでなく、他の自治体と意見交換をしながら、協力してよりよいスタイルを探っています。もちろん国や地域によって、自然条件や得意とする分野、支援制度、そして歴史的背景は異なります。例えば、スウェーデンは木質バイオマスが盛んですし、ノルウェーでは電気自動車が普及しており、いまは新規登録車の半分くらいがEVになっています。それぞれの自治体がどうやってその政策を実現しているか分析して、他の自治体の政策づくりの参考にしているのです。

 

やっていることは違っても、持続可能な地域を目指すという同じ課題に取り組んでいる人々が連携する意義は大きいと考えています。自治体職員や市民にとっても、自分たちのローカルな政策が、グローバルな視点から見ればこういう意味を持つのか、と意識付けすることにもなりますから。

※キャパシティ・ビルディング:組織が目標を達成するために必要な能力を構築すること

■ドイツのエネルギー転換は、まだ第一コーナー
Q:
ドイツは2018年に、消費電力量の40%近くを再生可能エネルギーでまかないました。この状況をどのように評価しているでしょうか?

確かに再エネのシェアは順調に伸びて、すでに新しいステージに入ったと言えるでしょう。とはいえ、目標とするエネルギー転換を達成するにはまだまだ乗り越えるべきハードルは高く、競馬に例えると第一コーナーを回ったくらいだと考えています。再エネで電力の何%をまかなったかという、数字で一喜一憂する時代は終わりました。これからは、増えた再エネを効率的に運用するため、どのように電力供給システムを作り変えていくかといったことなど、より地道で細かい部分が求められていきます。

 

また、40%近くまかなったというのは電力だけの話で、エネルギー全体としては熱と交通という分野が残されています。再エネへの転換率は、熱は13%弱、交通は5%強とまだまだです。電力については、こんなふうに転換していくんだというグランドデザインがあって、長い間の議論を経て、社会の中で大枠のコンセンサスが成立してきました。でも熱や交通に関しては、電力ほどはっきり見えているわけではなく、模索している部分が多いのです。

 

電力については、例えばFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)をめぐって議論が行われ、最初の20年は電気代が高くなるけれど、将来のことを考えれば導入してもいいということが、社会的に受け入れられた経緯があります。でも、熱や交通の分野は、抽象的な電力の話よりも、国民の生活により直接的に、密接に関わってきます。また、暖房や建物の省エネ化、あるいは自動車や公共交通をどうするかといったテーマでは、電力の話以上により多くのステークホルダーが関わることになります。当然、どのように進めるのかをめぐって大きな議論になりますし、簡単に合意形成ができるわけではありません。まだまだこれから大きな山が控えていると考えるべきです。

 

■「ドイツはすごいね」で終わらせてはいけない
Q:環境・エネルギー・持続可能という分野で、日本社会はドイツの取り組みから何を学べるでしょうか?
ドイツのマネをすれば日本でもうまくいくといった、簡単なレシピはありません。私は、日本をはじめ世界各国の方のドイツ視察のアテンドをしてきました。たいてい、参加された皆さんが「ドイツはすごいね」と言って帰って行かれます。でも私としてはそれだけだと不満足なんです。ドイツだってまだまだできていないことが多いし、成功したと言われている部分だって、多くの条件が揃ったからできたという面もある。

 

ドイツを目標に同じことをするのではなく、良い部分も悪い部分もドイツの現状を知っていただいて、自分の地域にどのように当てはめることができるのかを考える一つの資料として利用していただければと思っています。その際、例えば登山に例えるなら、その山がどういう形をしていて、その山へはどこから登るのか、どんな道具が必要なのか、私たちの組織では、そういった分析や消化のお手伝いをしています。

 

日本との比較でひとつ感じるのは、ドイツでは議論のベースとなる情報が徹底的に公開されていることです。エネルギーに関するあらゆる情報が透明になっていることで、オープンな議論をすることができます。もし情報が一部の機関だけに一極集中してしまうと、社会的なコンセンサスは成り立ちません。エネルギーに限ったことではありませんが、信頼できる情報を社会で共有することは何より大切です。

 

■次世代が希望を持てる道筋を
Q:クラブヴォーバンでの役割は何でしょうか?
クラブヴォーバンでは、ドイツやEUの環境・エネルギー政策について情報提供をしています。ドイツが環境・エネルギーの分野で成功したと言われている要因の背景には、国が上からやるのではなく、地域や自治体が地道な取り組みを積み重ねて、既成事実を作っていったことが大きな変化につながりました。

 

日本も国からトップダウンで変わるのを期待するのではなく、地域や自治体を中心にボトムアップでできることを積み上げていくことが大切だと思います。ドイツでは、そのような取り組みを支援する専門家のグループの存在がカギになっていました。日本では、持続可能なまちづくりに取り組む実務家の組織は限られています。そんな中で、クラブヴォーバンの役割はすごく大きいのではないかと思っています。

 

Q:どのような未来をめざしていますか?
私は、具体的すぎる未来のビジョンはあまりもたないようにしています。「こういう社会になるべきだ」と細かく押し付けてもうまくいかないし、「なぜ他人は理解してくれないのか」とストレスもたまる。ひとつ言えるとしたら、残念ながら地球温暖化の問題も含め、いまの世界は未来に対して明るいイメージを提供できていません。自分が高齢になる頃までには、次の世代が希望を持てるような社会になっていればいいし、そのために少しでも貢献できるのであれば十分満足です。もうこれ以上、地球から資源を搾取しまくり、環境を壊すことでしか成り立たない生活モデルを続けるわけにはいきませんから。