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持続可能なまちづくり × エネルギー自立地域をめざす全国ネットワーク

第19回 今泉太爾(CV理事 / 一社日本エネルギーパス協会代表理事 / 株式会社アールデザイン代表 )

不動産仲介業に携わってきた今泉太爾さんは、家の築年数で価値が決まってしまう建物評価制度に疑問を抱いてきました。そして、2008年にドイツを訪問したことをきっかけに、中古マンションの断熱リフォームを手がける傍ら、世界基準のエコハウス開発に乗り出します。

また、建物の性能を客観的に評価する基準を広めようと、「日本エネルギーパス協会」を設立、国や自治体などでも発言を続けてきました。クラブヴォーバン設立当初から中心的な役割を果たしてきた今泉さんに、日本が持続可能な社会になるためのポイントを伺いました。

住宅に付加価値をつけたい
Q:
中古マンションのリフォームをされるようになった経緯を教えてください

父が浦安で不動産業をしており、ぼくはそれを引き継いだ二代目です。何か明確な目標があって、この世界に入ったわけではありません。仕事をしながら気がついたのは、不動産業界は金儲けのことだけを考えているずる賢い人が得する構造になっていることでした。いま問題になっているレオパレスは完全に違法ですが、そこまでいかなくても、法律スレスレの所を狙えばすごく儲かる。でもぼくは、そこを目指そうとは思いませんでした。

 

ぼくの父は、弁護士を目指していた真面目な人です。そういう人が不動産をしているのは珍しいと評判になり、コツコツやっていたので信頼してもらえるようになった歴史があります。だからぼくも、儲からないし苦労はするけれど、人に喜んでもらえるような仕事をしたいと思うようになりました。

 

不動産業で何ができるかと考えると、品質のばらつきが大きい建物に興味が湧きました。単に土地や建物を受け渡すのではなく、自分が付加価値を付けて、良質な住宅にして売ることで、住む人の生活の質を向上させることができるようにするには建物を高品質化することが欠かせない。そこで、中古マンションのリフォームを手がけるようになりました。ぼくがこういうことをやり始めた当初、リフォーム業者で断熱の大切さを掲げる会社は皆無でした。いまでは徐々に増えてきていますが、まだまだ少数派であることに変わりはありません。

 

ドイツとの差は、建物の性能だけではなかった
Q:
本業と並行して、世界基準の省エネ、長寿命なエコハウスの建築も手がけるようになりました。そのきっかけを教えてください

 

建築の勉強をして、それなりにレベルの高い新築やリフォームができるようになってきたと思っていた頃、早田宏徳さん(現クラブヴォーバン代表理事)と出会いました。2008年に、彼に誘われてドイツの建築を視察した際、日本の住宅との圧倒的な差に驚かされました。

 

日本の住宅のスタンダードはレベルが高くないので、ちょっと勉強をすれば割と簡単に国内トップレベルのものを作れてしまう。でもグローバルな視点で見ると、日本のトップはまったく低いレベルでしかないことを思い知らされました。

 

ドイツで受けた衝撃は、それだけではありません。社会全体の環境意識とか、外部コストへの意識がまったく異なっていました。どういうことかと言うと、日本だってハウスメーカーはそれなりに快適な住宅をめざしてきました。でもそれは、エネルギーをいっぱい使って全館空調をガンガン回して、室温を快適に近づけるといった発想が主流です。ドイツでは、環境負荷をたくさんかけるそのような住宅はまったく評価されていませんでした。

 

建物に限りませんが、持続可能かどうかを評価する基準として、「外部コスト」という考え方があります。外部に迷惑をかけて、負担させているコストも含めて、その建物なり設備が本当にエコかどうかを評価するものです。日本人は、自分たちは環境意識が高いと思い込んでいますが、このような外部コスト(環境負荷等)に無頓着な方が多いように感じます。自分たちの見えないところで影響が出ていても気が付かない、というのは環境意識が高いとはとても言えません。ドイツでそのことに気付かされました。

 

ドイツから帰国して、国際的にも評価されるような「暮らしの質が良くなる家」をつくりたいと考えました。当初はどこかのハウスメーカーやパワービルダーと一緒にできればと考えましたが、2008年当時、そのようなビジョンを共有できるメーカーを見つけることができませんでした。そこで、早田さんたちと共に自分たちでエコハウスを開発したのです。それがウェルネストホーム(旧低燃費住宅)になります。

■家の性能を測る共通のものさし
Q:
「エネルギーパス」について教えてください

「エネルギーパス」は、EU全土で義務化されている「家の燃費」を表示する証明書です。ぼくたちは2011年に日本エネルギーパス協会を発足させ、日本でも「家の燃費」という概念を広めようと活動してきました。

 

自動車を例にとると、「月のガソリン代が1万円」と言っても、走った距離がわからなければ燃費が良いかどうか判断ができません。住宅もそれと同じで、「うちの光熱費は年間10万円」と言っても、燃費についてはわかりません。年間を通じて快適に過ごした光熱費が10万円だったのか、あるいは暑さや寒さを我慢してギリギリまで節約した結果が10万円なのかで質が変わるからです。そうした家の燃費性能を、公平に評価をするための共通の「ものさし」として開発されたのが「エネルギーパス」です。

 

日本では住宅の価値は築年数で決まりますが、エネルギーパスが義務付けられているEUでは、家の燃費が重要視されています。消費者が燃費を判断基準にするため、燃費の悪い家は、賃料や販売価格が割安になります。そこで家の貸し手やつくり手は、できるだけ家の価値を高めようと、燃費向上に熱心になります。日本にも共通のものさしを導入することで、誰もが住宅の価値を判断できる社会にしていきたいと思います。

 

なおエネルギーパスとは内容が異なりますが、国交省が住宅の省エネ性能表示として「BELS(ベルス)」という基準を設け、2016年から運用を始めています。表示の義務化がされていないので物足りない面はありますが、このような共通のものさしが広まることは意味のある動きだと考えています。

■誰かに迷惑をかける生き方を選ばない
Q:持続可能な社会を実現するために、住宅の分野ではどのようなことをすべきでしょうか?

大切なことが2つあります。ひとつは、日本の住宅のレベルを上げていくことです。質の高い住宅に住むことで、人生の質もまた向上します。建築関係者は、そういう住宅を供給し続けていく責任があります。例えば、2020年に国が義務化を予定していた住宅の省エネ基準は、一転して見送られることになりました。それほど高くないこの基準でさえ義務化できないというのは、住宅産業に関わる人間として非常に残念です。

 

とはいえ、義務化されようとしていたレベルは最低限度のもので、住む人の健康を害さず、一年を通して快適に過ごせるレベルの建物というわけではありません。その意味では、国が義務化するかどうかに関わりなく、事業者はレベルの高いものをつくったり提案し続けていく必要があるでしょう。

 

もうひとつは先程お話した外部コストの話で、住宅をつくる際に他の誰かに迷惑をかけないことです。例えば日本の建築業界では、建材のトレーサビリティが義務付けられていません。どこから伐ってきた木材かをはっきりさせる必要がないのです。そのため、中国やロシア、東南アジアなどで違法伐採された木材が安く大量に売られています。それに対して、流通ルートのはっきりしたまともな木材を適正な価格で販売しても、対等な競争ができないので、まじめにやっている方が負けてしまいます。

 

そういう無茶なことを続けていると、いずれ大きなひずみが来ます。違法伐採をしている業者は、伐ったあとに植林や森林管理をしないので、いずれ木がなくなることは明白です。さらに森林がなくなることで、地球規模で生態系や気候変動にマイナスの影響を与えてしまいます。

 

外部コストを考慮せずに目先の利益のために木材を不当に安く手に入れることは、他の誰かや将来世代に対して確実に損をさせることになります。未来への影響を考えたら、木材にも適正な価格が存在しています。適正な価格とは、植林して次の収穫まで管理する育成コスト等の外部コストを含めた、持続可能な森林を維持した上での木材価格のことです。そして、その価格でも買ってもらえるような方向で値付けすることが、プロとして社会に迷惑をかけない最低限度の仕事ではないかと考えています。

 

住宅に限ったことではありませんが、持続可能な社会とは、そんな誰かに迷惑をかける生き方をやめようということです。みんなが「自分だけ良ければいい」と思って行動し、誰かに迷惑をかけていると、全体を見たら、みんなが損をする社会になってしまう。残念なことに、いまの日本社会はその悪循環の中にいます。ぼくはクラブヴォーバンの仲間たちとともに、その風潮を自分が関わる住宅の分野で是正することができればいいと思っています。