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持続可能なまちづくり × エネルギー自立地域をめざす全国ネットワーク

第23回 田中健人(CVPTメンバー / (株)ノースアンビシャス代表取締役)

東京のITベンチャーで活躍していた田中健人さんは現在、北海道札幌市を拠点に企業や自治体などの情報発信をサポートする事業などを展開しています。

ニセコ町とクラブヴォーバンが委託した構想にも携わっている田中さんに、地元である北海道へのこだわりや、持続可能なまちづくりについての想いを伺いました。

■お金が地域の外に流れ続けている
Q:田中さんのお仕事は多岐に渡っている印象ですが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?

 

僕は北海道札幌市を拠点に、企業や自治体、金融機関などを対象に、主に情報発信のお手伝いをしています。そこには、WEBや映像、VRなどのコンテンツ制作や、SNSやWEBを活用したマーケティングなどのコンサルティングも含まれます。

 

またそれとは別に、北海道で独自のメディアを立ち上げたり、地方の中小企業の情報発信を支援するWEBサービスをつくっています。また、映像分野では、一緒に創業した仲間制作した作品が第一回SDGsクリエイティブアワードで部門大賞を受賞するなど、活動の幅を広げています。クラブヴォーバンの関係では、代表の村上敦さんや代表理事の早田宏徳さんの出演するYou Tubeチャネルの製作支援もしています。さらに今後は、主に北海道の企業の事業継承や事業再生なども手掛けたいと構想しています。

 

Q:東京のITベンチャーで活躍していた田中さんが、出身地である札幌に戻ってこのような事業をやろうと思った理由は何でしょうか?

 

地元の本当の良さを感じたのは、東京で働くようになってからです。いつのまにか、札幌に戻って僕を育ててくれた地域に恩返ししたいと思うようになっていました。札幌は、都市と自然とのバランスがちょうどいい場所だと思います。海も山もあって、車なら30分でスキー場に行けます。食べ物は美味しいし、自然も豊富。住んでも家賃が東京と比べて安く住みやすいなど、良い所を挙げればキリがありません。 

 

一方で、北海道はよく日本の縮図と例えられることがあり、「課題先進地域」という言葉でも表現されています。他の地域と比べて人口密度が少ないため、日本全体で起きている高齢化や過疎化、公共交通の破綻などの諸問題が、地域で顕著になっていくことが避けられません。

 

経済面の課題で言えば、例えば、農業や漁業など一次産業が盛んですが、多くの場合は原材料を供給するだけで、お金が地域に落ちる仕組みが十分ではない。例えば、三重県伊勢市の名物で知られる赤福の小豆の原料は、100%北海道産、もち米も北海道のものがほとんどです。ただ、赤福といって北海道を思い浮かべる人はいないと思います。

 

北海道は昔から「素材は一流」と言われるのですが、原材料だけでは十分に地域が稼ぐことができません。その素材に、より高い付加価値をつけることで、生産者を始め地域にも経済循環が生まれ始めます。もちろん、そんな商売っ気のなさも北海道人の魅力のひとつと言えるのかもしれませんが、お金が地域外に流れるという観点では、持続可能な地域づくりにはつながりません。その仕組みを変えることができれば、北海道はまだまだポテンシャルがあるはずです。

 

このような地域の課題を解消するカギの一つは、見せ方、届け方といった情報発信です。特に地域は、情報が不足していることが多い。そういった意味で、僕がやってきたIT分野の技術や知識が活かせるのではないかと考えています。

 

見方を変えると、これらの課題を解決できれば、これは日本の他の地域、あるいはアジア世界の他の地域がこれから直面する課題の先進事例を創ることできるチャンスだとも考えています。

 

■内側から町を広げていくためのサポートを
Q:クラブヴォーバンが手掛けているニセコ町とのプロジェクトで、田中さんはどのような役割を担っているのでしょうか?

 

クラブヴォーバンのメンバーとは、東京にいた頃から仕事をご一緒させていただいていました。3年前に札幌に戻ってからは、しばらく疎遠になっていましたが、2018年6月にクラブヴォーバンが、本格的にニセコ町と協力してまちづくりの仕事をすることになったことがきっかけで、再び一緒に仕事をさせていただくようになりました。

 

ニセコ町に限りませんが、自治体が新しいまちづくりをしようとか、新しい取り組みをしようとしたとき、一番弱いのは情報発信の部分です。すごく良い取り組みをしていても、それが伝わりきれなければ効果は半減してしまいます。

 

実際ニセコ町は、持続可能なまちづくりを目指すという、先進的で素晴らしいビジョンを持っています。でも現地で話を聞くと、大半の町民にはまだその想いやコンセプトなどが正しく理解されているわけではありません。

 

町に住んでいる人たちに話を聞くと、自分の町に誇りを持っていたり、愛着のある人がとても多いのも特徴です。この町を守っていきたい、住み続けたい人が多い、というのは大切なことです。持続可能な町にするためにはどうしたらいいか、というアイデアや意見を出し合いつつ、町民の方がどのようにしていきたいか、その想いを元に、僕らのような専門家たちがアイディアを形にして、町内、そして町外へ、その情報を発信していくことが大事だと考えています。

 

Q:自治体や地方の仕事を手掛ける上で大事にしていることは何でしょうか?

 

「町を変えよう」という話をするとき、僕らみたいな外部の者が「こういう町にしよう」「他の町で成功した方法だから」と、押し付けるやり方はたいてい上手くいきません。理想のまちづくりは、その町に住み関わり続ける人がどうしていきたいのかという所から着想する必要があります。

 

僕らの役割は、それをサポートして叶えることです。まちづくりというと外から何か持ってこようだとか、他の町で成功した事例を何も考えずにやろうとかなりがちですが、内側から町を広げていこうという考え方が必要だと思います。

 

■小さな町でも驚くほどの人の賑わい
Q:クラブヴォーバンが目指すまちづくりの原点であるドイツのヴォーバン住宅地にも行かれたそうですね。どのようなことが印象に残りましたか?

 

2018年11月に、村上敦さんの案内ではじめて南ドイツのフライブルク、そしてヴォーバン住宅地を訪ねました。一番驚いたのは、市の人口が20万人ちょっとなのに町で見かける人の数がめちゃくちゃ多かったことです。何かのイベントでもあるんですか?と聞いたら、平日の夕方の日常だと言われたんです。「人間ってこんなにいるんだっけ?」と思いました(笑)。

 

都市部でばかり生活していると、わからないことかもしれませんが、地方では本当に人を見かけないことに驚きます。人の気配がしない廃れた商店街、空き家だらけの町、という現実が確実にあるのです。

 

地方で人が集まるのは郊外のショッピングセンターで、そこにはナショナルブランドの変わり映えがしないお店ばかりが並んでいます。フライブルクでは地元の商店とか小さなショッピングセンターも活気があって、町によってお店も町並みもガラッと変わる。そこでは、確実に地域での経済活動が行われていまし、地域外にお金が流れるかどうかという意味では、その違いは大きいと感じましたし、今でもその衝撃は残っています。

 

■一人ひとりが多様な選択肢を持てる社会を
Q:最後に、どんな未来をつくりたいとお考えですか?

 

ドイツのような国の地方都市には、東南アジアのようなこれから急激に成長をしていくエネルギーとは違う活気を感じました。他方で日本の地域は人も減っていき、経済基盤も縮小していくばかりで、負のスパイラルが着実に進んでいます。ドイツでは、地域のお金が域外に逃げずに地域内で循環する仕組みがあることはもちろんですが、それだけではないように感じました。住民には人生のゆとりがあって、やりたいことに打ち込める環境が整っているようにも思ったのです。

 

日本でも、もっと一人ひとりが選択肢を持てるような社会をつくることができるはずです。僕は、生まれ故郷でもある北海道という地域から、様々な事業領域を通して課題を解決し、理想の社会の実現に向けて、挑戦を続けていきたいと考えています。

 

まずは、今関わっているニセコ町で、地域のモデルとなるような形をつくりたい。微力ですが一つでも二つでも、掲げているコンセプトのまちづくりの実現に近づけていきたいと考えています。ニセコ町の役場の職員やまちづくりに関心の高い住民の方は、ドイツに学びに行くなど、高い熱量で持続可能なまちを本気で目指しています。その思いをサポートできるように、僕も力を出し尽くしたいと思っています。