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6月18日 PJ80セミナー「ニセコ町における気候温暖化対策計画の策定とその背景」を開催しました

一社クラブヴォーバン(CV)は、2018年度に国より「SDGs 未来都市」に選定された北海道・ニセコ町からの委託で、気候温暖化対策5か年計画である「第2次環境モデル都市アクションプラン」の策定にかかる調査研究業務を昨年度遂行しました。

 

国際スノーリゾートとして世界的に名を知られる、人口約5千人のニセコ町は、観光客数・宿泊数ともに年々急増しており、宿泊・観光関連施設の建設も拡大中で、それに伴って日本の小規模自治体では珍しく人口が増加しています。つまり、 人口・経済のパイが縮小し続ける日本の一般的トレンドとは異なり、温室効果ガス排出量の増加圧力が非常に強いことが欧州北部の国々と似ています。長い冬季期間には毎日新雪・パウダースノーが楽しめる豪雪地域。日射量は国内最低レベル、かつ地形上の理由から風況にも恵まれないにも関わらず、暖房には莫大なエネルギーが必要です。

 

気候温暖化対策を行うには、国内では最悪の前提条件と言えるでしょう。しかしニセコ町は「住民自治」を掲げたまちづくりの過程で、「環境・自然保護対策の充実」と「豊かな町民生活の実現」を両輪で目指すことを宣言し、意欲的なCO2排出量削減の目標を設定しています。(2030年▲44%、50年▲86%)

 

 

 

満席となったこの日のセミナーでは、EU議会やドイツ議会をも大きく動かした若者による運動「Fridays for Future」の紹介や、最新のIPCCの第5次報告書内容、ニセコ町が上記目標を達成するために、クラブヴォーバンが委託を受け、ドイツで使われている演繹的かつ民主的な手法を使い、どのような順序や過程を経て策定し、最終的にどんな提案をしたのかの説明がありました。

 

去年クラブヴォーバンが、ニセコ町の町民とともに一年かけて策定した気候温暖化対策「第2次環境モデル都市アクションプラン(H31~35年度)」は、日本の先進的な自治体の中でも画期的だと思うので、今日聞いたニセコの取り組みの中でこれは使えるコンセプトだというものがあれば、皆さんの活動や地域の中でぜひ取り入れて考えていってほしいと考えています。

(ニセコ町HP: https://www.town.niseko.lg.jp/chosei/kankyo/model/ )

 

※ニセコ町HPより

 

ニセコ町では過去5年間「第1次環境モデル都市アクションプラン(H26~30年度)」を進めてきたものの、宿泊観光産業増、人口増の圧力によってCO2削減の結果が出ていないため、従来の方法の踏襲ではなく、「やり方を変える」ことがまず重要だと認識されました。それゆえ、日本での一般的な「帰納法(現状から、できることを探し、とりあえずまずやれることからやってみる)」ではなく、ドイツなど欧州の温暖化対策では効果が上がっている「演繹的な方法」を使うということを、ニセコ町の行政、議会や住民に、理解してもらう作業から始めました。

 

計画策定時において、帰納法・演繹法のどちらがよい悪いという話ではなく、何をするためにどちらの方法が適しているかを、よく吟味する必要があります。中期的な期間を前提に、何年までに、CO2排出量を何%削減する、という明確な目標を達成しようとする場合には、演繹法の考え方で進めてゆくほうが、方針がブレず、手戻り作業や有意義でない作業に人的、金銭的なリソースが割かれにくいので、効果的です。したがって、計画策定の手順として、①目的を定義し ②枠組みを確定し ③自分の立ち位置を確認することで方針を整理し ④方法 (取組内容)を確立し ⑤あとは邁進するだけ、という手順で検討を進めました。

 

そして①目的の定義では、【住民一人当たりの付加価値額の増加と温室効果ガスの排出量抑制の両立】と定め、長期にわたって取り組み続けることになる計画だからこそ、難解な文字だけではなく、町民が自分事として捉えられるような物語(ナラティブ)、絵(グラフィックレコーディング)としてこのアクションプランのビジョンを表現する試みも行いました。

 

また、③を精査する際、住民ワークショップ、アンケートを開催しましたが、その狙いは、経験やノウハウがあるプロのコンサルタントと、地元に密着し町民に開かれているはずの行政の、「推測や仮説に対する答え合わせ」であるべきだとの前提で実施しました。もし、ワークショップ等で出てきた声・回答 (真実)が、統計情報等を分析し、過去のアンケート結果などを踏まえた私たち(コンサル・行政)の想定内 (推測・仮説)であれば、ワークショップにおける収穫はなかったことになります。ニセコの住民ワークショップでは、私たちの推測・仮説では分からなかったこと、分かってはいたけれど、予想以上だったことなどの収穫がありました。

 

④の過程において、取組内容を吟味する際には、地方自治体において、環境関連の計画の立案をするとき、多くは審議会や検討会などを作りますが、そのメンバーの人選が非常に大事です。きちんと目標や費用対効果を考え、総合的な計画を立てること。また、立派な計画を立てたものの、人が足りない、実行に移されていない、ということは全国どこの自治体でもある話。何かを始め成し遂げる際には、それまでの何かをやめなければならないという覚悟も必要。また、計画の内容の詳細については、技術の革新や社会状況の変化などで更新することは構わないが、「策定方針」については、今後30 年間ぶれないものを決めることが必要です。

 

さらにこうした機会に、地方の大学の先生だからという理由で、その分野に精通していないにもかかわらず、あるいはある偏った技術ばかりを信仰していることが明確な大学教授を入れるなどすると、全体の計画内容に多大な影響が出てきます。中立で、地域に何も関係しない、その分野の信頼できる専門家に、委員会に入れる学術識者の候補について、事前ヒアリングなどを実施することは非常に有効です。

 

ニセコ町でのワークショップやアンケートや調査を実施し、さまざまな視点から状況を鑑みて、対策が可能なCO2削減の各部門における対策と、それによる削減量概算を積み上げたところ、2030年までに、産業部門 41t / 業務部門 1911t  /家庭部門 1183t / 運輸部門 2811t /転換部門 29587t の CO2 を削減、2050 年までに、産業部門 41t /業務部門 5531t /家庭部門 1933t / 運輸部門 11398t /転換部門 42553t の CO2削減が可能という結論になりました。

 

そしてその計画を確実に実行するためにはやはり、ある程度の拘束力、条例が必要と考えました。計画の中で提案をしている条例は、「1.建物の低炭素化を促進する条例」「2.自転車の適切な利用を促進する条例」「3.事業活動の低炭素化を促進する条例」「4.再生可能エネルギーの適切な導入を促進する条例」「5.エネルギー情報の提供を求める条例」です。

 

そして、CO2削減目標に向けて現在、新庁舎や町立温泉の省エネ化や、新規開発のNISEKO生活・モデル地区の事業構想省エネ化、地域エネルギー会社の設立、家電や設備の省エネ化、宿泊環境税の導入など、さまざまなプロジェクトがニセコ町で進行されることとなっています。