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                 持続可能なまちづくり

10月15日 PJ80セミナーin東京「わたしたちのめざす“持続可能な”未来に向けた『まちづくり』への取組み」を開催しました

10月15日、わたしたちのめざす“持続可能な”未来に向けた「まちづくり」への取組み in 東京 を開催、満席となりました。SDGs(持続可能な開発目標)というキーワードを耳にする機会が増えてきました。

クラブヴォーバンは2008年に設立し、子どもや孫の世代までも豊かに暮らしていけるために、低炭素型の「持続可能なまちづくり」に取り組んでいる専門家たちが集う“場(サロン)“です。第一線で活躍しているメンバーや仲間たちが東京・大阪で一堂に会し、最新の取組みやトピックについて発表しました。

 

 

まず代表理事の早田宏徳から挨拶。311の前から、持続可能な低炭素型の社会にしていきたいという志で、ドイツに学び、ドイツのヴォーバン住宅のようなまちづくりしたいとの想いでクラブヴォーバンをやってきてもう11年。甚大な被害をもたらした台風19号で浸水したエリアは、やはりハザードマップで危険が予測されていたところがほとんど。私は工務店をやっているが、新築の家を建てるお客さんには、ハザードマップをまず見せている。今後、毎年のようにあのような巨大な台風が来るようになるだろう。今日ここで聴いた話を、ここにいる皆さんがどんどんアウトプットして拡げてほしい、とのことでした。

 

CV理事で日本エネルギー機関代表の中谷哲郎氏は「FIT切れ直前2019年問題対策総ざらい&自家消費モデル研究」についてレクチャー。日本で2009年に大々的に始まった固定買取価格48円/kWhで太陽光発電を購入した第一期生約56万件の人たちが、今年10年の固定買取価格期間を終了。

今後の選択肢として以下の紹介でした:

①引き続き余剰電力を買い取ってもらう場合 買取りサービスを始めている大手電力会社や大手ハウスメーカーなど約60社の、サービスや価格などの比較研究発表

②EUでは主流となりつつある自家消費モデル(蓄電池、エコキュート利用)

 

ヨーロッパでは、蓄電池の価格がここ数年で急激に安くなり、太陽光発電を購入する人はほとんど蓄電池とセットで購入しているので蓄電池が品薄状態。EUの蓄電池市場でNo.1シェアのSonnen社は、サービス内容だけでなく、デザインを意識したマーケティングでシェアを伸ばしています。また、暖房設備や給湯設備と一緒に仮想発電所(VPP)のサービスを行うスイスのtiko社のビジネスモデルの紹介もありました。

 

ドイツでは2014年にFITが終了し、いったん太陽光発電の導入数は減少傾向になりましたが、自家消費での導入が増え、2016年からまた右肩上がりで上昇しています。その背景にあるのは、再エネの大量導入や、電力価格の高騰、FIT価格の下落、太陽光システム価格の低下などです。ドイツでは明らかに、電力会社から電力を購入するよりメリットがあるので、自家消費モデルが爆発的に増えています。市庁舎やホテル、スーパーやオフィスなど、大型施設での自家消費モデル導入の事例紹介もありました。

 

※EUでは2021年1月1日以降は、商業建築も含めて、ニアリーゼロエネルギーの建築以外は建ててはいけないことになっています。とりわけ建物内の消費エネルギー量が大きな商業施設などが、こぞって自家消費モデルにシフトしていくのは自明の流れです。(村上)

 

次に地域政策デザインオフィス代表の田中信一郎氏より「公共施設の維持管理と更新の考え方」について。まず公共施設から高断熱・高気密へのシフトを始めることが大事。日本では1970年代に公共施設が最も増加、今築50年を迎え更新が必要な公共建築が急増します。

公共施設の更新を考える場合には以下の点に注意しなければなりません:

①長期にわたる利便性・公共交通の利便性・冗長性・人口減少を考慮した立地

②用途・時間・立地・空間を併存させ、床面積当たりの稼働率を高めること

③(災害が起きにくいエリアに建てることを前提に)建物の寿命を延ばす方法を取り入れること

 

パリ協定では、2050年に公共建築はゼロエネルギーでなくてはいけないので、新築にしても改修にしても、断熱・気密の考えを今から取り入れるべきです。建物のエネルギー性能を高める優先原則は、まずは断熱。次に、気密>日射コントロール>換気>通風>設備>再エネ熱>再エネ電気。この優先順位を間違えないことが大事です。化石燃料に莫大なお金を払い続けていては地域が貧しくなる一方なので、まずはエネルギーを使わない公共建築を建てて、地域の経済を回していきましょう、という話でした。建築費1割増しで新築された、ドイツ・ベルリン近郊のプラスエネルギーの公立小学校の事例も紹介されました。

 

次に建築家の二瓶渉氏からは「群馬県沼田市役所のコンバージョンについて」。古くなった沼田市庁舎を更新するにあたり、衰退した大型商業施設の既存の空き店舗施設を再利用して「減築」して改修整備された事例が共有されました。基本方針は、①規模の適正化(適正な規模に縮小)、②既存ストックを使い魅力ある空間を創出、③まちに開かれた建物、となっており、コストも抑えた形で、地域の木材も使い、改修された評価の高いプロジェクトとのことでした。

 

代表理事の早田は「SDGs未来都市ニセコ町モデル街区における新しい住宅地開発について」紹介しました。昨年クラブヴォーバンがニセコ町から委託を受け構想、コンセプト策定に関わった概要です。ニセコ町は人口が増加している数少ない自治体であるにも関らずCO2を’90年比で86%削減するという野心的な目標を掲げています。ニセコ町では公営住宅が少なく住宅の空きが少ないため、町外から通勤している人が多く、また冬寒く、車社会で、光熱費やガソリンの家計負担も小さくありません。

新規で街区を開発するにあたり、開催した町民ワークショップ・アンケートでは、さまざまな町の課題が見えてきました。「安心して住み続けられるコミュニティ」を掲げたモデル街区の基本方針について説明がありました。

 

社会起業家で(株)至真庵代表の陶山裕司氏より、「複雑巨大で多様な人が関わる“仕組み”(システム)をどう作るか〜システムズ・エンジニアリング入門〜」について。システム・エンジニアリング(SE)は「システムを成功裏に実現するための複数の分野にまたがるアプローチおよび手段」と定義されます。SEについての概要や考え方、適用範囲、背景などについて説明があり、「何をつくるかの前に、なぜ作るのか」「全体を俯瞰的・多角的に設計しながら」「必要に応じ多領域の専門家を巻き込み」「適切な評価を行って、求められている成果物を出すこと」などについて事例を交えながら解説されました。

 

最後に、代表村上から「欧州で加速する気候危機対策を求める動き」について。欧州ではすでに「気候変動」ではなく「気候危機」と報道されるようになっています。IPCC第5次報告では、日本近海の海水温上昇率は、世界平均の0.5℃の2倍を上回る1.08℃であったことなどが報告されました。2014~16年にかけていったんピークアウトしたかに見えた世界のCO2排出量が、2017年にはまた大きく上昇傾向に転じ、これが欧州の若者たちの運動のきっかけに。

 

2018年に国会前でデモを始めたグレタさんから始まった“Fridays For Future”。毎週金曜日に学校をスト&デモを行う動きがSNSを媒体として西ヨーロッパから世界に拡散。2019年3月には世界120万人超の若者が、さらに2019年5月欧州議会選挙前に行われた世界規模の呼びかけには、世界1700都市180万人以上の若者が参加。この動きに刺激され、欧州議会選挙では『緑の党』が大躍進、右派ポピュリズム政党の進展を抑制し、ドイツでは第二党の座につくこととなっています。

 

またドイツではこの動きに刺激を受け「気候保護法」が閣議決定され、年内に成立予定、来年春に施行予定です。エネルギー戦略で明記されていたドイツの2050年までの段階的な削減目標をさらにアグレッシブな目標に更新し、2050年に’90年比CO2削減量を100%にするために、2030年までにはマイナス55%の目標を厳守すると決め、それに向け発電/燃料、産業、交通、建物、農業、廃棄物処理の6つの分野でそれぞれ毎年の排出許可量を明記している厳しい法律です。

同時に、そうした規制、義務化に向けて産業界は着々と動いている、との話でした。