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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

1月23日「第11回・持続可能な発展を目指す自治体会議」を開催しました

持続会を設立して5年。会員自治体の多くが今、老朽化した、あるいは廃止になった庁舎や学校、福祉センター等の公共建築の更新や再活用、今後の在り方等について悩まれています。人口減少問題が顕在化していく過程において、自治体の将来の「負の遺産」ではなく、将来の「資産」となるべき「公共建築の更新の考え方」について、これまで持続会では議論をしてきました。

 

今回の会議では、施設の立地や建物の性能、メンテナンス等の維持管理等について、公共から離れて、民間が(マンションなどの)不動産をどのように運用しているのかについて、学ぶ機会としました。また、前回の宿題であった、各自治体内における、公共施設別の、電気・ガス・灯油・ガソリン等エネルギー使用量の「kWh=¥」への単位統一、㎡あたり、月あたり、利用者一人あたりのエネルギー使用量の見える化調査について、発表を行いました。またそれを行うにあたっての困難等を共有し、そのデータを活かした各自治体での今後の展開について、議論を行いました。

 

① 民間不動産(マンション)の長期修繕計画と建物の寿命、更新について(大西 倫加:(株)さくら事務所 代表取締役社長)

② 民間不動産の経年変化による価値の決め方と建物の寿命について(今泉 太爾:(株)明和地所 代表取締役)

③ システムズ・エンジニアリングによる課題整理とアプローチ(陶山 祐司:(株)至真庵 代表取締役)

④ 気候危機の時代の地域からの挑戦―「世界首長誓約/日本」(杉山 範子:名古屋大学 大学院環境学研究科 附属持続的共発展教育研究センター 特任准教授)

⑤ 公共インフラにおけるエネルギー消費量の集計と見える化の取組について(自治体会員、村上 敦:(一社)クラブヴォーバン代表) 

まず、代表理事早田より挨拶。庁舎など公共建築を建築すると、少なくともこの後50年や70年は使っていくもの。小規模自治体さんにおいては、おそらく「最後の新築」になると思われるので、更新を計画されている自治体さんでは、永続的に利用できる建物を建ててください。また、一昨年からニセコ町に年に6~8回くらい訪れ、ニセコ町の新庁舎やまちづくりに、楽しく関わらせてもらっている。ぜひまた皆さんに発表できるタイミングが来たらお伝えします、とのことでした。

最初に(株)さくら事務所代表取締役社長の大西氏より、「民間不動産(マンション)の長期修繕計画と建物の寿命、更新について」 。さくら事務所は、不動産コンサルタントの長嶋修が1999年に設立した、おそらく業界で初めてと言われている、不動産の売買に関わらず中立的な立場でアドバイスをする会社です。この10年でめざましく相談が伸びているのが、建物とその資産の維持管理を行う分譲マンションの管理組合の人たち向けのコンサルティングです。中古マンションを買うとき、買主は「駅からの距離」「部屋の状態」「相場より割安か」ということで買うことが多いが、「管理組合がどういう状況か」ということが非常に大事。「管理会社に全てお任せ」状態の管理組合は、要注意。さくら事務所では、管理の状態がいい中古マンションだけを選別して、顧客に紹介しています。人口減少で空き家率も高くなる中で、マンションを建て替えられるのは、立地など好条件の揃ったごくごく一部の物件。ほとんどの物件は、買主がそこで、できるだけすみやかに、寿命まで長持ちさせて住まうことになります。これから数十年、そのマンションに住み続けるための、長期修繕計画や修繕積立金の注意すべき考え方やポイントについて、レクチャーをいただきました。

 

次に、(株)明和地所代表取締役でクラブヴォーバン理事の今泉氏より、「民間不動産の経年変化による価値の決め方と建物の寿命について」 。日本の住宅の問題は、住宅ストックの半数以上が戸建て、次に民間賃貸が40%です。日本は、賃貸に占める公的割合がたった16%と諸外国に比べ圧倒的に低く(EUだと公的割合が約半分)、近年世帯主の年収が500万円以下、ここ10年では300万円以下、という世帯が圧倒的に増えたのに、公的な賃貸住宅がないので、「戸建てのローコスト住宅を地価の安い郊外に建てる」「買えない人は民間の賃貸を借りる」という流れができ、都市のスプロール化(道路・上下水道などのインフラ維持費の増加)と空き家問題の悪循環が起こっています。本来は、安い土地に安い住宅が建つのを、行政がきちんと阻止していかなくてはなりません。また、駅近など立地がいい物件は建て直しをしても収益が見込まれるので、融資も受けられ建て直しできるが、ほとんどのストックは建て直しができません。建て替えや修繕資金が捻出できない物件は「廃墟」となり、その後始末が行政に降りかかってくる可能性が大きいので、自治体におかれては、空き家問題への早めの対処と、また公共で所有している建物全てにおいて、それぞれ現況であと何年使うかを決め、なるべく早く修繕の長期計画を立てて予算を確保すること。何年使うかを決め、最後にはその後は建て替えするのか、売却するのか、の出口戦略も決めて、建物利用計画と資金計画の策定をすみやかに行ってください、とのインプットでした。

 

次に、前回の経産省のエネルギー政策担当を経て、今はソーシャルビジネス立ち上げ支援を行いつつ、大学院博士課程でシステムデザイン・マネジメントを研究している(株)至真庵代表取締役の陶山氏より、「複雑巨大で多様な人が関わる“仕組み”をどう作るか~システムズ・エンジニアリング入門」 について。システムズ・エンジニアリング(SE)とは、「多数のステークホルダー(利害関係者)との連携でどのようなエコシステム(生態系)を形成していくかを考えるための、設計図の作り方」。あらゆる“つながり”の中で、各社の責任分解や全体の安全性・信頼性の担保をどのように考えるべきか、のツールです。SEの具体的な考え方は、「目的指向」。つまり、何を作るか?ではなく、なぜそれが求められているか?に注目します。そのために、求められる成果物に関する文脈・背景の理解が必要となります。SEの背景、考え方、手順などの概要の説明後、SEを実際に使って、「市町村の中で“廃校の再利用”について検討する」という例題についても紹介があり、皆さんの課題解決に活用してください、とのことでした。

 

次に、名古屋大学 大学院環境学研究科 附属持続的共発展教育研究センター 特任准教授の杉山氏より、「気候危機の時代の地域からの挑戦―『世界首長誓約/日本』」について。名古屋大学が今、欧州委員会から委託を受け、世界首長誓約の日本事務局を行っています。地球温暖化に起因するとみられるものも含め、各種の自然災害が頻発しており、レジリエント(強靭)な地域づくりが大きな課題です。そしていま日本のあらゆる「地域」では、世界のどの国も経験したことのないような高齢化、人口減少が進行しており、「地域創生」「持続可能な地域づくり」「地域循環共生圏づくり」が急務となっています。地球温暖化・気候変動に対処する国際的枠組みの「パリ協定」達成に向け、国だけでなく「地域から」の挑戦が求められています。その意味では、国の取組を待つのではなく、地域から、という熱気が加速しているようにCOP25に参加して感じましたが、日本に帰ってくるととても温度差があります。

世界首長誓約においては、専門知識が足りない、という自治体さんには、欧州委員会の事業からの予算を使って専門家を派遣することもできますし、人口規模の小さな自治体さんで、インベントリーを新たに作るのが大変、と思われている場合は、名古屋大学の事務局でサポートもしているので、新たな事務負担も少ないのを特徴としています。お問い合わせください、という紹介もありました。

 

最後に、クラブヴォーバン会員自治体より、「公共インフラにおけるエネルギー消費量の集計と見える化の取組について」ということで、自治体の公共建築物等の電気・ガス・灯油・ガソリン等エネルギー集計データと、担当者が集計にあたり「気づいたこと」「難しかったこと」「今後の活用予定」等の発表がありました。

 

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統括として代表の村上より、今は2020年、これから新築あるいは、大規模改修をしていく公共建築において、2040年や2050年にはゼロエネルギー建築というのは当たり前の世の中になっているでしょう。それを踏まえて、今から動いていかなければなりません。そのために、今回の課題の「公共建築等のエネルギー消費量集計」は役に立つはずです。単なる施設ごとのエネルギー消費量集計というだけではなく、kWhや金額への単位統一、「利用者数」「延べ床面積」という指標も用いて、施設の利用者1人当たりや1㎡あたりでの検討もしていただきました。例えば寒い時期に1人当たりのエネルギー消費量の多い施設を、その期間は締めるとか他の施設で総合的に運用するなどの代案も検討できるはずです。こうしたデータがあるという前提の上で、自治体内の公共建築を今後の2~3年でどうするかという方針を決めてしまわないといけません。あと5年もしたら民間から大量の空き家、空き施設、廃墟が出てきて、その対応に皆さんが追われるようになります。その前に公共建築には道筋をつけておくべきです。再来年度の予算組みの時期にあたる次回10月の持続会においては、会員自治体の皆さんからなんらかの取組みの発表があることを楽しみにしています。