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                 持続可能なまちづくり

5月19日PJ100セミナー「“ロゴだけ”“フリだけ”にしない ホンモノのSDGs」をZoomにて開催しました

今やあちこちで見かけるようになったSDGsのロゴマークやビジネスマンの襟元のSDGsバッジ。日本国内でもSDGsが広く知られるようになると同時に、一方で「SDGsは企業の宣伝のための都合のいいツール」とか「政府のアリバイ作りのようなもの」だといった批判も聞こえてくるようになってきました。

「SDGsって、なんだかモヤモヤする・・・」そう思ったのがきっかけで、ノンフィクションライターの高橋真樹氏は取材を重ね、SDGsが形だけになりがちな理由を解き明かし、8つの論点と7つの先進事例から、ホンモノのSDGs・ホンモノの持続可能性について考えました。

今回のPJ100セミナーでは、高橋氏から日本のSDGsについてレクチャーをしていただき、その後に、先進的な実践事例の1つとして紹介された北海道ニセコ町のSDGsモデル地区の構築・開発にクラブヴォーバンが深く関わっていますので、代表の村上よりその進捗について情報提供をしました。

まず代表の村上より挨拶。

2030年までにCO2排出量▲45%と、ついに日本政府も言い出しました。ドイツでも、2030年までに目標値▲55%だったものが、▲65%に引き上げられ、気候中立目標も、2050年までだったものが2045年までに前倒しに。世論的にも、かなり圧力が高まっています。私たちは、「低炭素型社会の実現」を掲げ長い間活動してきたトップランナーの団体の一つとして、「持続可能なまちづくり」ということで、日本でやれることをやっていきたい。

国連の掲げた「SDGs」だが、日本だけ、“SDGs”という言葉が突出して一人歩きしているように思います。取組みの進んでいるドイツでも、その言葉はほとんど知られていません。高橋さんが、日本のSDGsを取材し、本を出されたので、内容をお話いただきます、とのことでした。

 

ノンフィクションライターの高橋氏より 「“ロゴだけ”“フリだけ”にしない ホンモノのSDGs」について。

 

SDGsに関する本が既に数百冊出版されている中、自分が書く意味は何か?を考え、「日本のSDGs それってほんとにサステナブル?」という本を執筆。私自身、日本でSDGsの話を聞くにつけモヤモヤしていたので、取材して整理し、モヤモヤを紐解くことにしました。

 

SDGs = 持続可能な開発目標:17のゴール(目標)と169のターゲット(手段)。ヨーロッパでは、市民の意識の中に「持続可能」という意識が根付いているが、日本では根なかなか付いてきませんでした。「持続可能」とは?・・・国連では、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現代の世代の欲求を満足させること」と説明しているが、言い換えると「いまの世代のニーズを満たすことを優先して、将来世代の可能性を奪ってはならない」ということと思います。いま、必要以上の資源を使って、次世代へのツケをこれ以上残してはいけません。

 

SDGsの正式名称は「我々の世界を変革する 持続可能な開発のための2030アジェンダ」。これは、国連が「持続不可能ないまの世界を変えなければいけない」という宣言をしたということ。半端な覚悟じゃできません

 

新型コロナ(=人獣共通感染症)が社会問題になっていますが、一時的におさまっても、今の世の中の在り方を変えていかなければ何度も繰り返されます。今、地球上には、家畜が60%、人間が36%、そして野生の動物はたった4%しかいません。96%が人間の都合で増やしてきた動物。こうして人間は、例えば、広まりやすいウィルスが急激に広がりやすい環境を作ってきてしまった。この構造を変えることは、ものすごく大変。日々の食肉を減らすなどの視点でも考えなくてはいけません。人間、生態系、動物の健康を「ワンヘルス(ひとつの健康)」という考えで、守っていくことが大事

 

前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)などでも、貧困や環境などが取り上げられてきたが、専門家だけではなく、やはり全ての人たちを巻き込まなければ広まらない、ということでSDGsになってきました。なので、特に目新しいことはSDGsで言われてない。SDGsの「新しさ」は、実は内容ではなく、「古くて新しい人類の宿題」が「バラバラだった」ものを、まとめた、ということ。クラブヴォーバンがSDGsを掲げず、これまでずっと取り組んできたことも、SDGsです。

 

SDGsには、いままでの国際目標とは異なる「特徴」があります。それは「ウェディングケーキモデル」で、経済、社会、環境は一体だが、並列ではなく、土台となる地球環境が崩れると、社会も経済も崩れてしまう、というモデル

 

SDGs二大コンセプト:①トランスフォーメーション ②誰一人取り残さない

トランスフォーメーション、社会の大転換をやっていく過程で、犠牲になる人がいてはいけないということだが、それはとても難しいことです。

 

これらを踏まえた上で、日本のSDGsを検証してみたところ、何かおかしいと感じました。SDGsは、「バッチをつけること」ではありません。よくないことをやっている企業名とSDGsと検索すると、みんなで手を取り合ってより良い未来をつくろう、みたいな取組みが出てくる。SDGsを“ウオッシュ”として使っているのでは?となってしまう

 

SDGsで“タグ付け”や“トレードオフ”をしてはだめです!例えば、不祥事を連発しているある企業が、CO2削減をしている一つの取り組みを切り出して、SDGsを使って企業イメージを形作るというのは、通用しません。トータルで考えてプラスにならない産業を、社会や消費者側から、「それは違う」とプレッシャーかけていかないといけないが、そこが日本社会の弱いところ。現状でやっていることを変えないで、SDGsに合う都合のいい面だけを、タグ付けするのはよくない

日本は啓発が好きだが、啓発だけでなく、社会の仕組みを変えることが大事。日本の政府の与党党の4役の平均年齢70歳以上。一方、フィンランドでは、連立5与党のうち、3つの党首が30代女性で、閣僚19人中女性が12人です。

 

最新技術ではなく、ローテクを広げることが大事。「炭素貯留」「スーパーシティ」など、最新技術だけでは課題解決はできなません。そんなことより、私はエコ住宅に住んでいるので、各家庭の太陽熱発電や内窓を変えること、これだけで世の中がかなり変わるのではないかと思っています。

本物のコスト(外部コスト)を意識する!「安い」とは何か?例えば、目先の発電単価とかではなく、隠されたコストなどをちゃんと考えて仕組みを作っていかないと、結局みんなが損をしてしまいます。企業・自治体と消費者との緊張感が必要。SDGsは、おいしいところ取りではだめ!

 

SDGsの実践事例として、2018年にドイツ・ドレヴィッツ(旧東ドイツ)の、団地の省エネ改修・地域再生の取組みを取材しました。ドイツでは、旧東ドイツでさえも、「寒くない、熱くない、うるさくない家」は元々当たり前でした。そうした家を、さらに進めて低所得者や貧困世帯まで広げようというのが、このガーデンシティプロジェクト。貧困世帯の増加や建物の老朽化で地価も下がっていた団地が、外断熱と樹脂製サッシのトリプルガラスを導入、地域熱供給・再エネ100%にする改修で、エネルギー消費量が改修前の50%に削減されました。その他にも、高齢者対応のバリアフリー化、レンタサイクルや公共交通を充実させ駐車場だったスペースを緑化して、子どもたちが遊び高齢者が憩える公園を作りました。個人のマイカー利用は60%削減されました。

 

最初住民から反対意見がありましたが、年間60回もの対話集会を開催。その中から開発者側と住民の間に信頼関係が徐々に生まれ、自分たちのことを考えてくれた、と反対の人も理解を示すようになりました。

 

2020年現在、このプロジェクトの35%が完成、7割以上の住民が改修後の団地に戻ってきました。ここに住むことへの誇りが生まれ、若者や中間層の人々も移住してくるようになり、地域の資産価値は上がり、もはや「見捨てられた場所」ではなくなりました。このプロジェクトにSDGsの目標を当てはめてみると、1,2,3,4,5, 7,8,10,11,13,15,16,17に対応していました。これが、本物のSDGsだと思います。でも、ここの団地でSDGsのバッチをしている人はいないし、SDGsをうたっていたわけではありません。SDGsの目標に1個取り組んでいるから、SDGsをやっているというわけではないのです。

 

一方、災害大国の日本の避難所の状況は、今でも体育館に雑魚寝。難民支援の基準以下。100年前と変わらない。そんな状況だけど、できない理由よりできる方法を探すことが重要です。

 

日本でも、高校生が企画し学校を断熱改修するプロジェクトが進んでいたり、木造賃貸アパートを断熱改修してハイグレードなアパートにしたり、という事例が出てきています。京都の亀岡市でも、自治体がプラスチックごみゼロ宣言、レジ袋禁止条例など、町の中心を流れる十津川の環境を守るということで、国に先駆けた取り組みをしてきました。

 

SDGsに取り組む3つのポイントがあります。

①余力ではなく「本業でやる」→ちょっといいことではない、メインの事業でストレートに

②タグ付けで満足せず「ぜんぶやる」→1つのゴールだけタグ付けして、あたかもSDGsをやっているように言わない

③できていない部分を確認する「ツール」に

 

日本でも、ようやく社会が変わってきました。最初からぜんぶやるのは難しいが、SDGsは「答え合わせ」として活用するといいと思います。

 

質疑応答の場で参加者より、「私もモヤモヤしていたがすっきりした」「去年から小学校の教育要綱の中でSDGsが入ってきて、子どもたちが知っているのに、大人が知らないということも起こってきている」「日本はドイツに比べ15年は遅れている。日本の産業界はまだ全然意識が変わっていない。脱石炭にしても電気自動車にしても、途上国、新興国の方が速い。出遅れるほど、ビジネスチャンスがなくなるのに」などの意見が出ました。

 

村上より、「本来、この問題を引き起こしたのは大人の責任。女性の社会進出で、女性が頑張ればいいと言って男性が何も変わらないのは違うのと同じように、この問題を子どもに押し付けるのではなく、大人自身も変わらないといけない」とのコメントがありました。

 

また高橋氏からも「ただSDGsタグ付けをしただけのものを買わされないように、消費につなげていくことが大事」「ルワンダで、レジ袋を輸入していたがやめて国内で紙袋生産したら、国内が潤った事例がある」なのコメントがありました。

 

最後に、代表の村上より「ニセコ町のSDGsモデル街区事業の進捗状況」について。

 

クラブヴォーバンも出資している「株式会社ニセコまち」が進めているニセコ町のSDGsモデル街区事業の進捗について、定期的にサポーターの皆さんにこの場で報告をしています。今開発申請を進めています。人口増で住宅が足りていないニセコ町において、高気密高断熱の集合住宅を作り、一部分譲、多くは賃貸、EVのカーシェア、地域熱供給を行い、という構想で2030年までの期間に450人分の新住居を作る予定です。隣の倶知安には2030年新幹線が開通する予定で、札幌がオリンピック立候補する話もあります。

 

ドレヴィッツの話が先ほど出てきたが、ニセコでも住民の方と隔週で話し合う機会を持っています。ニセコは海外資本家により乱開発されてきたこともあり、開発自体に懐疑的な声もあります。これから開発する街区のことだけでなく、住民からの要望に、どんな法的な枠組みがあるのか、調べて回答するようにしています。行政の総合計画があり、のことも住民の人は知らない。御用聞きでもなく、いろんな意見を聞き、我々も悩みながら、一緒に考えています。

 

ニセコ町では、早くから環境モデル都市ということで、2030年までに2015年比で44%、2050年までに86%、CO2排出量を削減すると目標を立て取り組んできましたが、昨秋に国がゼロカーボンを言い始めたので、数値をさらに上乗せする必要が出てきました。冬場の気温が▲15℃当たり前、太陽や風力や地熱などの再エネもあまりないニセコ町で、経済性も担保しながら、できることを積み上げて、CO2を大幅に削減するまちをつくっていくのは大きなチャレンジです。

 

住民が賛成/反対で分裂するのはよくないことだし、また、全ての要望を叶えることもできません。皆さんの意見も正面から受け止め続けることで、今後何が生まれていくかは楽しみです。この過程がSDGs。我々は本当に苦しんでいますが(笑)、先に出たドレヴィッツの開発でも同じような苦しみを乗り越えて実現されてきたと思うので、我々も皆さんに祝福されるようなまちづくりを、ニセコ町で実現していきたいと思います。

 

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高橋真樹氏の著書・ブログ紹介:

新刊『日本のSDGs それってホントにサステナブル?』(大月書店)  

『僕の村は壁で囲まれた〜パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)

「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」(エコハウス生活ブログ)