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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

10月14日PJ100セミナー「待ったなし!の気候非常事態対策 “ 地域で優先的に実施すべきこと”」を開催しました

今回は代表の村上より、「待ったなし!の気候非常事態対策 “地域で優先的に実施すべきこと”」のレクチャーとディスカッションでした。

 

最初にクラブヴォーバンが現在取り組んでいる、ニセコSDGs未来都市のまちづくりの進捗について紹介がありました。クラブヴォーバンも出資している官民連携のまちづくり会社、(株)ニセコまちが、いよいよ9haの広大な土地を購入し、大きな額の銀行融資も受けるようになっています。今年は開発に関わる各種申請が行われ、雪解けを待って、来春にいよいよ造成工事が始まります。

 

なぜクラブヴォーバンは、ニセコのプロジェクトに関わることになったのでしょうか。そもそもクラブヴォーバンの「ヴォーバン」とは、村上の住んでいるドイツ・フライブルク市で、持続可能な住宅地開発が実現された「ヴォーバン住宅地」から名付けられています。『フライブルクのまちづくり(学芸出版社)』という村上の著書には詳細が描かれていますが、「日本でもこんなまちづくりを実現したい!」という強い想いがあって、共同で代表をしている早田と村上が一緒にヴォーバンのようなまちづくりを実現するため、クラブヴォーバンはスタートしています。

 

その後、まずはエネルギー対策によって、地方創生、地域活性化をしようと呼びかけた『キロワットアワー・イズ・マネー』を出版し、その本が縁で、ニセコ町、下川町をはじめとする自治体の方々と一緒に、2015年、「持続可能な発展を目指す自治体会議」を設立し、毎年2回の定例会と自治体相互視察を行ってきました。その流れで、ニセコ町の新庁舎建設の際の省エネアドバイザー業務を引き受けたり、環境モデル都市第2次アクションプランの調査委託事業を請けたり、SDGs自治体モデル事業に選定された「NISEKO生活・モデル地区構想事業」の構想、基本設計、実施設計に関わってきています。実施設計をする段階で、ニセコ町やニセコ町の地域の会社とともに「株式会社ニセコまち」を設立し、ここ数年はこのプロジェクトを中心にクラブヴォーバンは活動しています。

 

温暖化対策(区域施策編)の5か年計画であるニセコ町の環境モデル都市第2次アクションプランは、他の自治体にはなかなかない、演繹的な手法で対策を積み上げた、実効性のある計画です。(https://www.town.niseko.lg.jp/chosei/kankyo/model/

 

新庁舎は2021年5月からオープンし、Ua値=0.2W/㎡Kを下回る、超高断熱・高気密の庁舎が完成しています。基本的に凹凸の少ない建築躯体に、断熱材をたっぷり使用し、窓は高性能木製サッシで、性能の高いトリプルガラスを使っています。冷暖房をあまり使わなくても、躯体性能と内部で発生する熱だけで快適さを保つ、というしくみになっています。

 

「NISEKO生活・モデル地区(通称SDGs街区)構想事業」における開発は、人口5千人ほどの町に対して400~450人ほどの住宅街を作るインパクトの大きなものです。背景としてニセコ町では、2000年頃から子連れ世帯の転入が増え、人口が微増状態で、かつ、高齢化と核家族化が進み世帯数が激増し、住宅が足りないことが地域課題として挙げられています。とりわけ、子どもが巣立ち、広い一軒家で老夫婦二人で住んでいるが、高齢のため庭のメンテや除雪が難しいなど、住宅と居住者のミスマッチが増えている、という地域課題を解決しなくてはなりません。またニセコ町で仕事をしている、子どももいるような若い世代では、町内で住居を見つけられないため、町外から通勤している人もいます。また農村の持ち家の方であっても、ライフスタイルの変化により、大きな家に住み続けたくない、コンパクトでも手間がかからない家、そして暖かい家に住みたい、という大きな要望があることが住民アンケートでわかりました。これらの地域課題の解決のために、この住宅地開発は行われます。

 

開発の中身についてですが、世界的な気候中立をめざす流れを受け、ここでは最終的な目標を脱炭素に置いています。クラブヴォーバンの代表理事を務める早田の会社でもあるウェルネストホームなどエネルギーに強い数社と包括連携協定を結び、エネルギーをそれほど使わなくても暖かく涼しい暮らしができる高性能の集合住宅を実現し、太陽光発電や電気自動車の導入、LPガスによるコジェネやその他の再エネの可能性を追求してゆきます。建設完了時には、従来の住宅地開発に比べ、CO2排出量を54%ほど削減できる見通しで、残りの必要となる電力やガスについても、再エネ電力を購入したり、再エネ水素を導入したりすることで、2040年には脱炭素化も視野に入れています。

 

ここはモデル住宅地ではありますが、建築家のわがままを受け入れるような突拍子もないデザインなどは排除されます。質実剛健で、高品質、そしてデザインはごくごく普通の、100年経過しても違和感のない、集合住宅エリアを考えています。

 

次に「世界と日本のカーボンニュートラルの状況を知る」というテーマで、クラブヴォーバンのサポーターの方々のように、地域で活動する人たちが何を優先・率先してやるべきか、について、いくつかの視点が提供されました。

 

日本はこれまで、欧米諸国に比べて、地球温暖化対策に消極的でした。公害→規制→省エネ&効率化による経済発展と技術革新を繰り返し、他国との比較で、やるべきことはやっているという認識が、90年代の日本だったと思います。それゆえ、1997年の京都議定書以来、社会をアップデートしてきませんでした。その影響で、気が付くと、電源構成、省エネ、社会のエネルギー効率、再エネなどの新しい分野で欧米諸国から遅れているところが目立つようになり、さらには中国やインドなどの新興国にもキャッチアップされています。それゆえ、日本政府は方針を転換し、2050年までに気候中立(CO2排出量ネットゼロ)、2030年までに45%(13年比)削減、家庭部門で66%削減を、国家方針として打ち出さなくてはならなくなりました。

 

IPCCの第6次報告書が21年、22年と順次発表されてゆきますが、2014年に発表された第5次報告書に比べ、かなり危機感が強まり、踏み込んだ内容になっており、その結果は人類にとって非常に都合の悪い、センセーショナルなものになっています。今世紀末までの気温の上昇の予想は、より深刻なものになっており、日本においても既に1℃以上気温が上昇していると言われています。最近の夏の猛暑では、40℃は珍しくない数字になりました。海外では、カナダやギリシャなどでも、50℃に対する心配がなされるようになっています。

 

メディアを含め、多くの方は、現状とやらなければならないことの隔離が大きすぎて、思考停止になりがちです。そのような中で、もし皆さんのような地域の方々が、アクティブに気候中立、再エネ自立を目指したときに、何ができるのか、それによってどのような効果が得られるのでしょうか。

 

日本のコロナ禍において、GDPは▲4.8%でしたが、電力消費量はたったの▲2.5%。つまり、市民や公共、企業のなどの「行動変容=我慢」で期待できる最大限のCO2排出量の削減は▲3~5%程度です。それでは、脱炭素社会に向かうことはできません。みなさんは、どんな会社の商品を購入するか、どんな自治体にコミットするか、どんな政党や政治家に投票・応援するか、その行為おいて、社会を変えていく効果があることを再認識する必要があります。また、世界ではどんどんゲームチェンジが起こっています。

 

日本においても、家庭や事業所の屋根に乗せる小規模、中規模の太陽光発電がかなり廉価になってきました。1kW当たりの価格で、作業費やパワコンなど全て込みでも15~20万円で設置可能です。数年前には太陽光発電には必ず買い取り制度が必要でしたが、今では自家消費をメインとするモデルが一般的です。この変化は非常に大きいです。政策に左右されず、経済的な太陽光発電の設置が推進できるわけですから。

 

もう一つ、私たちがすぐに取り掛かれるものとしては、省エネ建築(高断熱・高気密)があります。現在ならUA値0.3W/㎡K以下、c値0.2㎠のレベルを進める必要があります。なぜなら、現在新築したり、大規模に改修したりする建物は、2050年まで利用されるからであり、脱炭素のレベルにないといけないからです。

 

15年など長期で見ると、イニシャルコストとランニングコストを合算したものは、こうした高性能の建築でもプラス収支になります。もちろん、窓は樹脂か木製のトリプルガラスが標準です。民生家庭部門において、今ある市場の中で、最高級グレードの断熱・気密の対策をして、屋根に太陽光発電を載せる、ということ以上に、民生家庭部門で効果のある地球温暖化対策はみあたりません。高層の集合住宅や新しい住宅エリアができる場合には、近隣の敷地とトータルでゼロエネルギーになるような、オフサイトPPAなどにも取り組む必要が出てくるでしょう。

 

またドイツをはじめとする世界の多くの国々の自動車市場では、ゲームチェンジが起きて、自家用車はEVに完全にシフトしています。こちらも今すぐに取り組める脱炭素のための対策です。エネルギーコストは毎年値上がりを続けてゆきます。まずは省エネ、そして再エネ、さらには電化、という流れを私たちが市場を作り出すことで、一刻も早く、地域から脱炭素社会への道のりを目指す必要があります。