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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

10月21日「第14回・持続可能な発展を目指す自治体会議」を開催しました

前回は、住宅の省エネについての現状と今後の展開について、埼玉県横瀬町から取り組みの発表と悩みの共有があり、クラブヴォーバン(CV)のメンバーやオブザーバーの省庁関係、地域電力、大学や研究所などの専門家の方々から、補助金など制度設計についてのアドバイスや意見の交換がありました。今回は、北海道ニセコ町の高気密高断熱の新庁舎が5月に完成したこともあり、急遽片山町長の呼びかけでニセコ町現地とオンラインにて持続会が開催され、クラブヴォーバン正会員自治体だけでなく、羊蹄山麓の5町村からも参加がありました。

また翌日には、現地にて視察も行われました。環境モデル都市・SDGs未来都市に選ばれ、2020年には気候事態宣言も出したニセコ町にとって、町の脱炭素は急務の課題です。今回は、ニセコの超省エネの新庁舎建設やSDGsモデル街区開発の取り組みを通して、CO2排出量を抑えた持続可能なまちづくりのために、地域で取り組みやすく効果が高い政策、また公共施設更新で高性能な建築を考える場合に、将来的な設備更新についても考慮し、基本的に押さえるべきポイントなどをインプットしました。

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今回ニセコ町の片山町長より「持続可能な発展を目指す自治体会議 ようこそSDGs未来都市ニセコ町へ」について。ニセコ町のこれまでの民主主義や住民参加と情報共有によるまちづくりの取り組みの事例として、まちづくり町民講座や、人気施設となった道の駅や町の図書館、日本初の自治基本条例となる「ニセコ町まちづくり基本条例」があり、これらの20年に及ぶ政策が2013年には環境モデル都市に、2018年にはSDGs未来都市に、国より選定されたことにつながったとのこと。2020年には気候非常事態宣言・ゼロカーボン宣言を行い、環境基本条例の改正や、再エネ条例、自転車条例制定などを実施、温室効果ガスの排出量を2015年比で2050年までに86%削減、2050年温室効果ガス排出量実質ゼロを掲げ、取り組み中。CVとの付き合いは、代表の村上の著作を読み、いいことがたくさん書かれているなと感心して始まった。その中に、「日本からドイツのヴォーバンの取り組みを視察に来た人は、素晴らしい取り組みだが日本は法律など状況が違うからできない、と言い訳して皆何もしない」のような下りがあったので、皆がやらないならば、ニセコ町がやってやろう、と思った(笑)とのこと。CVと2015年「持続可能な発展を目指す自治体会議」を一緒に設立し取り組みを進めているとして、町長が付箋をたくさん貼られた村上の「キロワットアワー・イズ・マネー」の本を、会場で回覧していただきました。

 

次にCV代表の村上から、「新しい段階に突入した気候非常事態と小規模自治体で実施すべきこと」について。脱炭素社会に向けて、世界の経済界ではどんどんゲームチェンジが進んでいます。ドイツでは日本の311後を受けて再エネ投資が急速に進み、2020年の電力消費量に対して、再エネ発電の割合は45%に!ちなみにドイツの再エネ電力は、大手エネルギー会社によるものは3割程度で、32%が市民、11%が農家、24%が地域の中小企業の出資によって運営されています。つまり、再エネによる利益の約7割は、地域に配分されています。高断熱・高気密の省エネ建築も進み、現在はUa値0.3W/㎡K以下、C値0.2cm2/m2以下の高断熱・高気密の建物でないと、ドイツでは新築することができません。日射遮蔽対策や、樹脂か木製サッシのトリプルガラスは必須・標準となっています。

ドイツでは建物エネルギー法が施行、すべての暖冷房する建物を対象として、2021年以降に建築確認を申請するすべての建物はnZEH、nZEBとなり、既存建物に対しても、高断熱・高気密への改修が進んでいます。自家用車の販売はEV車に完全にシフト。電力の需要/供給のバランスの柔軟性の追求により、皆が一斉に暖冷房せず、一斉にEVに充電しないインフラができた上で、再エネで余った電力を交通でEV車や鉄道に使ったり、熱にしてヒートポンプや電熱線に使うなど、セクターカップリングを行っていく必要があります。例えば、人口5千人、世帯数2200のA町において、1世帯あたりの年間エネルギー支出を30万円とすると、ざっと毎年15億円ものお金が域外に流出していることになりますので、このうちの一部でも域内に循環させるために、各地域で、省エネ・高効率化・再エネを絶対的に推進する必要があります。皆さんの自治体でもぜひ取り組んでください、とのことでした。

 

次に、ニセコ町都市建設課課長の黒瀧氏より、「公共施設で飛びぬけた断熱性能を創る~ニセコ町庁舎のご紹介」について。2011年の震災時以来始まった、防災を含めた、新庁舎をどうするかという議論について、町長・議員・町民・町民などあらゆるステークホルダーとの間で丁寧な話し合いを重ねてきた経緯が語られました。5月にスタートした新庁舎の円形の議会室は、年に4回の議会以外は町民のイベントで使えるようにし、2回の羊蹄山やアンヌプリなど山々の見える眺望のよい空間は、フリースペースということで町民に開放されています。地元の木材や、地元の方が作った机や椅子などを極力使い、窓はアルゴンガス入りトリプルガラスの白樺の集成材を使った木枠、外断熱は北海道の通常の2倍以上の23.5㎝の断熱材を使い、躯体外皮性能0.18W/㎡Kを実現し、全国の庁舎でもトップレベルのかなり高性能の躯体となり、夏も冬も最小限の光熱費で職員・町民が快適に過ごせる庁舎となりました。

 

次に、株式会社ニセコまち 事業推進室長の宮坂氏より「SDGs未来都市の取り組み~NISEKO生活モデル地区構築事業の進捗」について。ニセコ町が2018年に「SDGs未来都市」に選定され、その中核事業になるのが、NISEKO生活モデル地区構築事業で、その事業に携わっています。経済の面では地域内経済循環を促進、社会の面ではコミュニティの活性化、環境の面では省エネ・再エネに取り組むこと。ニセコ町では2000年頃から移住者が増え、核家族化も進み世帯数が急増しており、住宅不足がひっ迫した地域課題です。また、20~30年前に町内に大きい家を建てたが、子どもが独立して夫婦二人だけとなりメンテナンスが大変など、住宅の需要のミスマッチも課題であり、住み替えができる形での分譲・賃貸の集合住宅の供給が必要になっています。9haの用地に、将来的に400~500人が居住できる街区を10年かけて段階的に開発していきます。建設時において、通常の街区開発よりCO2排出量を半減、2040~2050年には街区からのCO2排出量がゼロになっていくような街区開発を行っていきたい。具体策としては、世界的にも通用するような高気密・高断熱の集合住宅を建設していきます。それに加え、電気自動車のシェアカーや、太陽光パネルの導入なども考えており、エネルギー部門に強い民間企業などと、包括連携協定を結び、CO2削減について深堀り検討しています。

 

次に、CV代表理事の早田より、「これからの小規模自治体における住宅インフラ~高性能集合住宅」について。早田は2007年から一般社団法人クラブヴォーバンを始めました。2012年、ウェルネストホームという住宅メーカーを創業、ドイツの村上から教えてもらったノウハウを、日本の気象条件に実際に合わせてカスタマイズし、主に戸建て住宅を販売、設計、施工しています。今関東では大体Ua値0.8W/㎡K、北海道は0.46W/㎡Kが省エネ建築の基準なので、関東よりは約2倍の厳しい性能が求められる。だが、私のつくっている住宅は、全国で0.2~0.23W/㎡K。この数値は、ヨーロッパのスタンダードです。ニセコ町の新庁舎0.18W/㎡・Kというのは、日本最高の省エネ庁舎だと思う。今(10月下旬)外がかなり寒くなってきたが、まだ暖房は入っていないそうです。再エネと省エネは、両輪、セットです。

SDGs街区で、なぜ高性能集合住宅か? 戸建住宅を複数建てて外皮面積が多いと、外気に接する面積が大きくなるため、熱効率が悪くなります。集合住宅を活用した街区では平均的な戸建て住宅に比べて約2.5分の1の面積で済みます。北海道では、一般住宅の暖房の熱源はほぼ灯油。1L灯油を燃やすと、CO2が2.3kgも発生します。上下水道の距離も短くなるし、コンパクトなまちづくりをする利点は他にもたくさんあります。その集合住宅のモデルとなる1、2階各4戸、8世帯の高気密高断熱の集合アパートが、2020年12月に完成。このアパートに翌3月から計測システムを入れ常時管理していますが、関東の冬と同じくらいの寒さのニセコ町の3月で、上下階計4台の共用エアコンのみで各戸の室内は常時22℃±1℃で推移(角部屋を除く)。この期間、1戸あたり暖房費が50円/日でした。外皮性能のしっかりした家だと、真夏にエアコンの設定温度を24℃にしても、わずかな電気代で快適に過ごせ、仕事の生産性も上がります。集合住宅での騒音の問題も、横だけでなく上下の騒音にも配慮して建築し、木造住宅で日本最高レベルの防音性能を出しました。

市街地に高性能の集合住宅を少しずつでも建てて、そこに大きい一軒家で住んでる高齢者が、快適に住めるからと賃貸で引っ越し、空いた家を断熱改修して若い大家族に貸し出す。これを、ヨーロッパでは国の取り組みとしてやっています。それで海外から買う化石燃料を減らし、その分でまた高性能住宅を建てています。日本では国全体でやるのは難しいかもしれないが、ここにいる皆さんの自治体では、少しずつでもこういう方向性でチャレンジしてください、とのことでした。

 

最後に、対談形式「ここ10年間が正念場。公共や建物のインフラでできること」(司会:村上 登壇者:ニセコ町/山本副町長・黒瀧課長・CV/早田・(株)ニセコまち/宮坂)と質疑応答がありました。ニセコ町では、高気密高断熱の庁舎ができ街区で高性能の集合住宅を作ろうとしているが、さらに今新しい条例を作ろうとしています。新築で家を建てる人には、家を建てる前に燃費性能を確認し、役場に届け出をしなくてはいけない、ということを今後実施していくそうです。断熱材や気密性能、躯体の強度や窓ガラスは、いったん作ってしまうとその後使う60年間はランニングコストがかからないので、そこにまず手を付け、設備が少なければ少ないほど、その後のメンテナンスコストも少なくて済みます。ZEBに飛びつけば補助金を頂けるのかもしれないが、それが本当に自分たちの身の丈に合っているのか?が重要ということをクラブヴォーバンから学び、二セコ町は、最初はZEBと言っていたが、最後はZEBにこだわらなかった、とのことでした。過大な設備を最初から付けなければ、設備更新時に、補助金のない中での更新の心配をしなくて済みます。