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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

10月20日「第16回・持続可能な発展を目指す自治体会議」を開催しました

前回は、クラブヴォーバン正会員の自治体の担当者の方々より、各自の自治体で新たに取り組んだ事例や課題、対処法の共有がありました。公共施設の再エネ化や省エネ化の取り組み、再エネによる乱開発の抑制、省エネ建築を促進するための条例づくり、超省エネ新庁舎の実際のエネルギー消費量計測報告、民間による風力発電開発やバイオガスプラントと公共との連携、空き家を活用した省エネ住宅促進のための補助金事業、公共施設個別施設計画策定や地球温暖化対策実行計画(事務事業編)の改訂、中学校の断熱改修、断熱ワークショップの動画作成と発信による省エネ改修の申請件数の増加、地球温暖化対策実行計画の推進新体制、来年度に向けた脱炭素ロードマップ策定(いわゆる区域施策編)の準備、次年度の「地球温暖化対策」を入れた予算編成、地熱発電における民間の地熱資源活用に関してなどでした。

 

今回は、第6回目の持続会正会員自治体相互視察を兼ねて、岩手県の二戸市で持続会を開催させていただきました。国の動きより先駆け平成27年より始まった、二戸市における省エネ高性能住宅「二戸型住宅」の取り組みや、官民連携による温泉・宿泊施設再興の「カダルテラス金田一」の事例についてお話を伺いました。また代表の村上より、今年2月に始まったばかりの環境省による「脱炭素先行地域」の内容や選定のポイントや、環境省から温暖化対策区域施策編などの策定にとても役立つ、最近できたツールの概要紹介と使い方などのレクがありました。国もどんどん進化しているので、本当に便利なこれらのツールを活用して、ぜひ自らの自治体の脱炭素の実行計画に役立ててほしい、とのことでした。

 

 

まず、代表の村上より、開催にあたっての挨拶。1ドル約150円という、円安が進む中、円安になると、国際社会の中で円の購買力が落ちるということなので、海外から購入する燃料も当然高くなります。海外では急激にインフレが進み給与水準も上がっているのに対し、日本ではずっとインフレがないまま物価が横ばいだったので、同じ1万円で海外から購入できるものが非常に少なくなってしまい、資源を海外に依存し、その資源で毎日の生活や経済が成り立っている日本にとって、現在は由々しき事態です。

クラブヴォーバンでは長年、「脱炭素社会、CO2排出を減らしていきましょう」「省エネ&再エネを両輪で回していきましょう」という活動を続けているが、その本筋は「外に出ていくおカネを減らして、地域の中でおカネを回し、地域の雇用などにカタチを変えていきましょう」ということを言い続けてきました。今日紹介のある「二戸型住宅」も、そのような想いが元で作られ、地域の工務店や設計士さんが、地域の中でより付加価値の高い建物を作ることで、後々に外に払うことになるエネルギーコストの分を、前借りして地域の雇用・給料として落とし、地域内の経済循環を高めていこう、という考え方です。持続会に参加する自治体の担当者の方も2,3年で担当が変わることが多いので、メンバーも変わっていく中で、今後もここで横のつながりをつくり、各自自治体での脱炭素の取り組みを進めていってほしい、とのことでした。

 

次に、二戸市総合政策部長の泉山氏より、「人が輝き 未来をひらくまち にのへ」と題して、二戸市の概要について。タイトルは、30年後の二戸がどんなまちであったらいいかと地域の皆さんと話し合い、決めた二戸市の未来像。二戸は山林が多く、川沿いの平地に少ない宅地があるという地形で、夏場は暑く冬は寒く、降水量は少なめ、比較的雪も少ないという気候。農業や食産業の割合が高く、東北最古と言われる城壁が残る九戸城跡、瀬戸内寂聴さんが住職を務めた天台寺など、歴史的な遺産も多く、国内外で活躍する人材も輩出しています。東京から新幹線で2時間40分、高速道路のICもあり、交通アクセス良好だが、人口は現在約25000人、いろいろな対策をしているが、人口減少が進んでいます。

行政だけでなく民間も一緒に、地域全体でまちづくりをしていこう、まちをよくしていこう、という考えのもと、公民連携事業で、金田一温泉、九戸城跡、天台寺を拠点都市、地域資源と民間力を活用しながらエリア価値の向上をはかっています。令和元年には、国内で流通する国産生漆の75%を二戸市が生産し(浄法寺漆)、これらの取り組みが「日本遺産認定」「ユネスコ無形文化財遺産登録」につながりました。漆の木は数年しか持たないので、市有地を活用し、漆の林づくりサポート事業を、漆苗の生産から育成管理、漆搔職人の育成や漆器の生産販売まで一貫で二戸市が行っています。

 

また町営の温泉センターが老朽化し、温泉をどのように再生していくかが課題でしたが、地域の若い人も入ってこのエリアの活性化ということで10年の計画を一緒に立て、その話の中でできた官民連携の温浴宿泊施設「カダルテラス金田一」は、晴れて今年3月26日にオープンしたばかり。温泉郷の方が、「金田一温泉郷てくてくマップ」を制作。地域全体の活性化をはかっています。

二戸市のエネルギー政策としては、岩手県の風力発電導入構想(平成27年)の中で、県内で大規模陸上風力発電の導入可能性が高い4つの地域のうちの二つに二戸の稲庭高原や折爪岳のエリアが選定され開発が進んでいます。

 

次に、一般社団法人 岩手県建築士会二戸支部の支部長高橋氏と、事務局の馬淵氏より「二戸型住宅」についての紹介がありました。最初は、平成27年、二戸市の総合計画の中のエネルギーに関する意見交換をしたいということで、二戸市より建築士会にお声がけがあり始まりました。当時、建築士会としても従来型の家づくりから、「次世代型」「高性能で健康的」な家づくりにしていかなければならないのではないか、という問題意識があり、また大手ハウスメーカーに押されていたため、地場の工務店が生き残るためには、ビルダー側やお施主さんの、今までの価値観や意識の変革が必要という意識がありました。そんな中で、二戸市からのエネルギーシフトというキーワードをきっかけに、「住宅にかかるエネルギーの削減」をキーワードに新たな家づくりを考えようということで、方向性が同じだったので一緒に取り組んでいくこととなり、「二戸型住宅」 で地場の工務店が「地元での仕事を請け負うことで経済循環を回していこう」「健康的な住宅を作ろう」ということになりました。

平成27年に意見交換が始まり、我々自身も勉強していかなくてはならない、ということで、クラブヴォーバン村上氏や早田氏、日本エネルギーパス協会の今泉氏や加藤氏らを講師とし、省エネ建築やエネルギーパスについてのセミナーを開催したり、ウェルネストホームの超高気密高断熱のモデルハウスを視察したりなど勉強を重ね、平成29年には二戸市市長へ「二戸型住宅ガイドラインの策定」の要望書を提出しました。建築士会としては、ガイドラインを策定したのち、それを理解し施工できるビルダーを育てる、ということと、一般向けには、住まいが健康に与える影響や住まいにかかるエネルギーや経済循環について、知ってもらう機会をその後も毎年作っています。今年度にはフリー情報誌「ィエサ」発行、今後新築あるいはリフォームを考えている一般向けに、市と共催で、現場の見学会も入れた「これからの住まいづくり講座」も開催しています。

二戸型住宅概要ガイドラインは、二戸型ガイドラインは「次世代省エネ基準よりワンランク上の断熱性・高気密性能」とし、「地域木材の活用」「地域企業の活用」「人材・定住・雇用」「木質バイオマスエネルギーの活用」など二戸らしさのある住宅、としました。コンセプトは以下の5つです。

① 雇用・・・地域の工務店や業者を活用することと地域材の活用で雇用が生まれ経済が循環する

② エネルギー・・・省エネ住宅を建てることでエネルギーの減少また、バイオマス利用で化石燃料を削減する

③ 健康・・・室内温度を18℃以上に保てる住宅を作ることによりヒートショックや疾患による病気を少なくできる

④ 長期優良・・・断熱性、耐震性、維持管理など根拠のある設計で価値のある建物ができる

⑤ 環境・・・地域材を活用することで、輸送で使われるCO2削減及び山林整備により土砂災害の減少

 

この地域は夏暑く冬寒いので、様々な疾患が起きやすいにも関わらず、ヒートショックも起きやすくバリアフリーもない家で、在宅介護ができるか、という問題が背景にあるため、二戸方住宅の断熱基準として、BELSを基準とし、新築とリフォームでそれぞれ3基準を設け、参考のUa値はハイレベル0.28、スタンダードは0.38、ベーシックは0.46、C値は新築が0.5、リフォームが2.0と定めました。建築士会としては、二戸市への提言や、「二戸型住宅登録工務店」認定制度、登録工務店への指定講習会、登録工務店マーク、一般向けの二戸型推奨セミナー、快適住まい講座などを実施しており、登録工務店が現在8社あるが、建て方や建てるための素材も変わってきているので、大手ハウスメーカーに負けないような力を我々もつけ、建築士としての資質の向上をはかり、そのような工務店を増やしていくという活動を今後も続けていきたい、という内容でした。

 

次に代表の村上より、「推計と計画からの地方自治体の脱炭素戦略」について。昨年12月に第一回説明会があり、2月締め切りで応募が始まった環境省の「脱炭素先行地域」という制度に手を挙げたり、今後何らかの地球温暖化対策措置やエネルギー対策を行っていきたい自治体さんにおいては、今後は国の補助メニューをと考えると、事務事業編だけでなく区域施策編、つまり実際に自治体で排出するCO2に対してどういう対策を取るのか策定していかないとなかなか難しいというのが現状です。

この2,3年で国の環境行政が様変わりし、環境省が驚くほど便利なツールを一般向けに出しているので、これまでのように高いおカネを払ってコンサルに依頼しなくても、自治体職員自身で戦略や対策を立てられるようになっています。そのため、「脱炭素先行地域」の制度の概要や応募条件について、その立案に役立つ環境省のサイト「地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト」「自治体排出量管理カルテ」「REPOS」「地域経済循環分析」などの概要やツールの使い方などについて、レクがありました。その他に、民間で出されているシミュレーターツールなども紹介し、こういったツールも活用し、必ず今出ているツールの最新のデータのバージョンのものを見た上で、具体的な作業にかかると、かなり予想するより手間も減り精度も上がるので、今後ぜひ活用していってください、という内容でした。

 

最後に理事の中谷から、閉会の挨拶。東京都の「東京ゼロエミ住宅」の制度を参考にしたり、国の「こどもみらい住宅支援事業」の補助金などを活用して、ぜひ二戸型住宅や、その他の省エネ住宅政策を進めてほしい。これから30年後のカダルテラス金田一、温泉郷の発展をとても楽しみにしています、と締めくくりました。

 

そのあと宿泊のために移動したカダルテラス金田一にて、二戸市健康福祉部課長五日市氏より「二戸市の公民連携まち再生事業」 についての発表がありました。古くから栄えた金田一温泉地区の課題として、かつての賑わいを失っている温泉郷であるが、旅館数は減少しながらも奮闘する旅館や、活性化に向けた賑わい創出を地域の若者中心で開催し、機運が高まっていました。この地区にかつて二十数軒あった旅館は6軒ほどとなり、温泉郷として、大口の団体客のニーズに応えるのも難しくなりつつあったことや、町営の日帰り入浴施設、隣接する市民プールなどの老朽化による施設の更新と、指定管理に頼る運営からの脱却が急務でした。また、市全体の課題として、急速に進む人口減少などに伴う財源不足、公共施設の維持管理など多くの課題を抱え、縮退社会のなか、地域価値の向上に繋がる持続可能なまちづくりを進める必要がありました。

そのため、市と民間事業者が、それぞれの役割を分担して事業を行うこととし、ここの有効な空間資源活用と併せ、地域が潤い活気のある地域となるよう再生するために、平成28年度より地域再生計画による公民連携まち再生事業がスタートしました。平成28年度から、「地域の宝」である金田一温泉地区、九戸城跡地区、天台寺周辺地区を対象地域として、アドバイザー招聘によるまち再生ビジョンの策定や主体的役割を担う事業体の設立、事業構想の策定、事業実施を行いました。平成29年度には、再生ビジョンとしての「公民連携基本計画」「公民連携事業構想」を策定するにあたって、地域のポテンシャルをリサーチして再生の可能性を探るワークショップを市が開催。ここに、温泉地域の振興を担っていた金田一温泉地域活性化プラン実行委員会青年部メンバーが参加。このワークショップを契機として、本事業を通じてエリアの価値向上を図ることが、金田一温泉の未来を創ることになると決意し、この参加者が後に事業者としてまちづくり会社の経営に参画することにつながります。地域で暮らしてきた由縁のある方々が、自分たちの未来のために考え、地域の衰退への危惧と地域経営課題解決への強い動機が、事業を動かす強いエンジンとなりました。そして平成30年度「二戸市公民連携基本計画」の策定となりました。

この事業のコンセプトは、地域にあるものを活用して楽しんでもらおう、ということで“まいにち贅沢。まいにち楽しい。“ この地に描く、近未来の日常。デザインとして、「公園の延⾧にある室内空間」を目指し、できるだけシームレスな設計を採用し、しっかり安定したシンプルな切妻屋根の存在感と、水平に広がり、公園となじむバランスに配慮。外壁は、デッキとプールとのバランス、そして冬の雪景色を意識して、落ち着いた黒(自然素材の焼杉)で統一。カダルテラスで過ごすゆっくりと流れる時間にふさわしく、自然素材である焼杉を採用。工事費は市中や政府などの金融機関から融資を受けながら、二戸市も出資して資金調達。運営会社として、地元企業と二戸市の出資で、まちづくり会社(株)カダルミライを設立し、できるだけコストを抑えながらの民間主導の自立運営をはかっています。この後、エネルギー面や構法、事業スキームや資金調達などの説明があり、この事業を通してよかったこと、また課題についても情報共有されました。