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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

10月21日「持続可能な発展を目指す自治体会議 第6回自治体相互視察 in 二戸市」を開催しました

2022年10月、第6回目となる自治体相互視察は、クラブヴォーバンの自治体正会員の岩手県二戸市が受け入れをしました。今回は正会員自治体の下川町、ニセコ町、葛巻町、横瀬町、北栄町とクラブヴォーバンスタッフで、25名ほどの参加でした。

 

20日の持続会開催の後、参加者が宿泊したのは、今春オープンしたばかりの温浴・宿泊施設「カダルテラス金田一」。江戸時代初期より地域で親しまれてきた歴史ある金田一温泉のシンボルである、金田一近隣公園内にある市営の温浴施設の老朽化を受け、市は緑地等公園施設・プールの整備と合わせて温泉施設のリニューアルを行いました。衰退しつつあった温泉地の活性化を図ることを目的に、地域内外の人が温泉・宿泊・食事などを楽しめる拠点整備の一大事業です。特徴は、市が策定した公民連携基本計画・公民連携事業構想に基づき、Park-PFI制度と民間主導のまちづくり会社を設立し、最適な民間投資を呼び込むPPPエージェント方式を採用し、従来の指定管理に頼る運営からの脱却と、地域の魅力をビジネスとして再構築し、エリアの持続的な発展を目指すプロジェクトとして約10年の構想と準備を経て完成しました。工事費は市中や政府などの金融機関から融資を受けながら、二戸市も出資して資金調達。運営会社として、地元企業と二戸市の出資で、まちづくり会社(株)カダルミライを設立し、できるだけコストを抑えながらの民間主導の自立運営をはかっています。この取り組みについては、構想段階から持続会で話を伺っていたため、ぜひ相互視察で訪ねたいとの希望がありました。外観も内装もシンプルかつ美しいデザインで、温泉の施設も含めとてもくつろげる素敵な施設でした。

夜の懇親会では、近隣の老舗旅館、おぼない旅館にて、二戸市長より差し入れをいただいた南部美人の純米酒をいただきながら、旅館の心尽くしの地場料理をいただきました。このエリアの魅力が描かれた「金田一温泉郷てくてくマップ」は、ここのおかみが作成されたそうです。

 

21日朝、JRE折爪岳南第一風力発電所へ。ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社の神山氏と東北電力株式会社の佐藤氏にご案内いただきました。ここは3市町にまたがる西からの風況の良い場所で、一基3.6MWの風車13基の設置が進んでいます。年間発電量は一般家庭の約24,000世帯分。現地調査や環境アセスメントに約3年かかり、開発から2年半たちようやく最近1基目が回り始め、発電を始めたとのこと。ヒメボタルの生息地があったことから当初予定から開発範囲を変えたり、また地権者の地元のステークホルダーの方々との話し合いを重ねながら事業を進めているとのことでした。開発のために作った林道はいずれ一般に開放し、また保安林の安全面もしっかり行い、公共の利益となるようにしたいとのことでした。バスで林道を登りながら風車に近づくと、車窓からはその林道の整備規格や施工が良質なことが伺え、災害の起点になりやすいケースもあるこうした開発も、丁寧な設計と施工をするなら、より良い空間を提供することも可能だと感じられました。発電事業者と施工を担当した清水建設株式会社の良い環境をつくるという決意がうかがえた開発でした。

 

二戸市は、風況に恵まれた地域でもあり、早くから県営による風力発電の開発が行われ、現在も民間による大規模な陸上風力発電の開発がここ以外でも複数個所で同時進行で進んでいます。こうした積極的な風力の取組み、太陽光発電やそのほかの再生可能エネルギーを活用するべく、大都市圏と二戸市周辺の再エネに富むエリアとの連携を強化するため、2019年には横浜市と「再生可能エネルギー活用を通じた連携協定」を締結しています。

 

次に訪れたのは、二戸市生活改善センター。二戸市総務部防災安全課長の荒谷氏より、ここに開設される予定の防災施設についてのお話を伺いました。市内中央に位置する御返地地区では、安比川沿いに居住区が形成されており、度々水害の危険にさらされてきました。そのため、災害時の避難所や消防屯所機能のほか、備蓄や停電対策を備えた防災施設の整備を計画しており、現在基本設計を進めていて、令和6年にオープン予定です。防災施設は、普段は研修施設・地域コミュニティーセンターとして使用します。防災施設なので、札幌の省エネ基準程度の高断熱仕様で建設し、屋根には太陽光パネルを載せ、蓄電池やEVなども設置予定です。ただ、ハザードマップの浸水エリアの見直しにより、この施設自体も1mほどの浸水リスクがあるため、予算との兼ね合いや住民との話合いを重ねた結果、この施設は一次避難所として基礎をその分高くすることとなりました。もし1mを超す浸水が見込まれる場合には、ここではなく高台に避難するなど、防災手順などについての課題があるとのことでした。

 

次に、昭和55年設立の二戸市立浄法寺歴史民俗資料館を訪問。二戸市教育委員会の鈴木氏、野辺地氏、資料館長の中村氏にお話を伺いました。平成18年に、浄法寺漆として知られる浄法寺町は二戸市に合併されました。国産の漆はとても希少ですが、令和元年には、国内で流通する国産生漆の約75%を二戸市が生産しています。漆の木は数年しか持たないので、市有地を活用し、漆の林づくりサポート事業を、漆苗の生産から育成管理、漆搔職人の育成や漆器の生産販売まで一貫で二戸市が行っています。この資料館の収蔵庫には、主に浄法寺町内で用いられてきた漆掻関係・木地師関係・塗師関係の用具など約3,800点が収蔵されています。この収集は、浄法寺の漆掻きと浄法寺塗の全貌を網羅しており、浄法寺通りで生業として繁栄した漆掻き及び浄法寺塗の実態と変遷を理解する上で重要なものだとされており、重要有形民俗文化財に指定され、また令和2年にこれらの取り組みが「日本遺産認定」「ユネスコ無形文化財遺産登録」につながりました。これらの収蔵品を保護しながら、どのように活用していくかが課題です。

 

最後に、滴生舎を訪ね、二戸市浄法寺総合支所次長兼漆産業課の田口氏、小田島氏から漆の生産工程や二戸市の漆産業関連の取り組みについてお話を伺いました。国宝・重要文化財で使用する漆について、平成27年に文科省から国産漆の使用の通知を受けたことにより、国産漆の需要が増加。漆の器ができるまで、漆の林づくりのほか、うるし掻き職人、塗師、木地師など、たくさんの工程があり職人が必要であるため、漆の原木の管理や後継者の人材育成などが急務です。最近は全国の若い世代より、漆掻きに携わりたいと訪ねてくる人も増えているそうです。漆は新しい芽が出てから漆掻きができるようになるまで、15~20年もの時間をかけて木を育て、たった1シーズンで漆を掻ききったら切り倒すそうです。切り倒したところから萌芽が出てまたその芽が育ち、漆が取れるようになるまでまた10年ほどかかるため、漆の原木不足が懸念されています。そのため、持続可能な漆林の育成に取り組んでおられます。ここでは漆器の販売も行われているため、参加者は漆器の手触りを確認しながら、各々気に入った漆器をお土産に買い求めていました。