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エネルギー自立地域経済好循環 × イノベーション 
                 持続可能なまちづくり

10月20日「第18回・持続可能な発展を目指す自治体会議 in 北海道下川町」を開催しました

前回は代表の村上より、CVの基本的な考え方である「kWh=¥」のおさらいと、昨今の各エネルギー価格の高騰の背景や今後の見通し、自治体において率先して行うべき省エネ対策、脱炭素先行地域の選考状況についてなど話題提供がありました。将来的にまちのコンパクト化や住んでいる人のある程度の利便性・快適性考える場合に、高性能・脱炭素型の集合住宅(できれば賃貸住宅)が今後必須となります。これまで公共からの住居に対する補助は、個人の持ち家か、持ち家が持てない人には公営住宅、という2本立ての支援でしたが、今後は民間賃貸住宅などへの公共の支援も必要になってくるとして、いくつかの事例が共有されました。

 

今回は、第7回目の持続会正会員自治体相互視察を兼ねて、北海道下川町で「人口減少と移住・農村の暮らしのインフラ」をテーマに持続会を開催させていただきました。今回は2015年の第1回自治体相互視察に続き、2巡目の訪問。下川町は2008年に環境モデル都市に、2018年には国からSDGs未来都市に選定されています。町の面積の約9割が森林で覆われ、豊かな自然資源を背景に農林業を基幹産業とした農山村地域です。

下川町は、地域資源の森林を最大限・最大効率に活用することを掲げています。循環型森林経営を基軸として、森林総合産業の構築、超高齢化社会にも対応した新たな社会システムの構築、森林バイオマスなどの再生可能エネルギーを活用した地域エネルギーの完全自給と脱炭素社会構築を目指し、「持続可能な地域社会(森林未来都市)の実現」に向けた取り組みを進めています。(2023年現在、町内の再エネによる熱供給の自給率は56%、再エネによる電力の自給率は104%)

また、全産業の共通課題となっている人材不足などに対応するため、下川町産業活性化支援機構を立ち上げ、毎年約30人(総人口の1%)が移住し、特に同機構が設立した2016年以降は、20代から40代までの年齢階層では転入超過傾向にあります。

今回は、参加自治体の今後の政策立案につなげていくことを目的として、下川町が約20年に渡って進めてきた「持続可能な地域社会の実現」の取組や関連施設などを視察し、その後、持続会を開催しました。

 

最初に、代表の村上より、下川町職員の研修も兼ねている場であったため、持続会の発足理由とその目的をお話しし、今回の定例会の意図やその目的について整理し、開催にあたっての挨拶としました。

 

まず、下川町政策推進課SDGs推進戦略室長の亀田氏より、「下川町の人口減少対策について」。北海道北部に位置する下川町は、最盛期の1960年に人口約1万5千人だったのが林業の衰退などにより急激に人口が減少し、その後20年で人口が半減、現在は人口2,970人で高齢化率は40%を超えています。この急激な人口減少と高齢化に歯止めをかけようと様々な取組を始め、人口減少率は鈍化しています。2016年以前は20~49歳までの年齢階層がずっと転出超過でしたが、2015年にタウンプロモーション推進部が発足して以来の取組みが功を奏し移住者が増え、以降はその世代は転入超過となっています。移住者は毎年約30人(人口の約1%)にも上ります。一方、70歳以降の世代は、高齢になり医療への不安や都市部に住む子ども世代に呼ばれて移住するなどが主な理由では転出する人が増えています。

 

人口減少による影響と懸念は多岐に及びます。後継者不足や担い手不足による廃業、地域経済の縮小、サービス業(商店・飲食店)の減少に伴う住民生活基盤の縮小、高齢者世帯・生活弱者割合の増加、買物・交通・除雪困難者の増加、医療・介護費用の増加、医療・介護人材の不足、子どもの教育環境(学習塾・習い事・スポーツ)の縮小、教育環境の縮小に伴う親の負担増、自治機能の低下、地域コミュニティの低下、災害危険性の増大、空き家・空き地の増加、町税などの減少に伴う行政サービスの縮小など。これら食い止めるために、循環型森林経営を基軸とし、域内で経済が循環するための包括的な取組みをおこなっています。

 

一例では、町の公共施設全体の熱供給の68%が、木質バイオマスによる再エネへ既に転換(10基30施設)しています。これにより地域でたくさんの雇用がうまれ、また化石燃料購入に比べ毎年毎年エネルギー支出費が削減できます(現在は年3800万円)。そのうち一部で基金を積立し、基金はボイラーの更新費用と子育て支援に活用され、子どもの医療費無償化、子育て支援金、給食費補助、保育料軽減、絵本プレゼントなどに充当しています。

 

下川町では、「現在の下川町は住み良いか」「住み続けたいか」といった全町民を対象としたアンケートを節目節目に行い、町の政策に活かしています。また、SDGs未来都市として、下川町がどのような政策に重点的に取り組むべきかを13の選択肢で質問したところ、上位4位は以下の結果でした。①子どもを産み、育てやすくなるための仕組みづくり ②高齢者が活躍でき、暮らしやすくなるための仕組みづくり ③子どもの育成環境(学力・経験(文化・スポーツ)など)の仕組みづくり) ④再生可能エネルギー(バイオマス・太陽光・雪氷など)の推進

 

回答者の半数が高齢者なのに対し、町優先事項が子育て支援が上位になっているのが特徴です。今年度は総合計画の見直しもあるので、この結果を踏まえ、より具体的な数値目標を掲げた計画を策定していきたいとのことでした。

 

続いて下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部統括の樋口氏より「下川町の移住定住施策について」。民間の日本創成会議により2014年、下川町が「消滅可能都市」とされ、これを受けて2015年「下川町産業連携会議」を創設、地域産業の課題と今後について議論、人口減少と高齢化による地域課題が明確化され ①高齢化・担い手不足 ②人材不足・住宅不足 ③通年雇用・雇用拡大 ④人材育成 ⑤ブランド化人口減少対策に取り組むようになりました。地域経済はいったん落ち込んでしまうと、景気が回復してもなかなか人は戻ってこないという体験を、下川町は過去に何度もしているので、こういった時代の変化に迅速かつ適切に対応していかなければならないと認識。「全産業連携により地域産業の活性化と雇用の維持・創出」を町の総合戦略に位置づけ、移住者の誘致を通して地域課題を解決していこう、ということになりました。

 

この推進のために2016年「タウンプロモーション推進部」を創設、稼動し、現在は、町の職員2名と、移住・空き家の専門コーディネーター3名を配置した任意団体で、町の観光協会や農協、森林組合、商工会、建築業協会、福祉医療窓口、金融機関、外部アドバイザーなどと連携して運営しています。平成28年7月発売の「田舎暮らしの本(宝島社)」の50歳から住みたい田舎ランキングでは、下川町が全国で15位、2万人以下の町では1位にランキングされ、地方の田舎に移住したい人にとっては人気の高い町となっています。昨年度では ①総合移住促進機能 ②地域人材バンク ③起業塾 ④空き家対策 の4本柱で取り組みを行っています。そして、まず①PR、下川を知っていただき ②受け皿整備、下川町を体験していただき ③仕事の紹介、確保 ④住宅の紹介/確保、移住のフォローアップ まで、ワンストップで移住者誘致をし、移住希望者や移住してきた人に丁寧で細やかなサポートをしているのが特徴です。町の取り組みや町内の企業が求める人物像をイメージしながら、下川町に関心を持ってくれる方々と多く接点を生み出し、地域につないでいけるよう活動しています。この具体的な活動内容や町で起業し活躍している移住者の事例が共有されました。

 

下川町の空き家バンクは、移住者の購入希望登録が多く、成約件数の約7割、その他は町民の住み替えニーズですが、成約率は31%と低いです。住宅の需要に対し、適切な供給が不足し移住希望者に住宅の供給が間に合っていません。移住希望者がいるのに住宅が供給できないという現状を踏まえ、住宅政策は緊急の課題と捉え、取り組みを強化したい、また、移住者の定着率100%を目指し、これまで以上に継続して効果的な移住・定住政策を進めていきたい、とのことでした。

 

最後にクラブヴォーバン代表より、これまでの持続会設立の背景や意義、考え方や取り組みの紹介の後、下川町の職員研修も兼ねて、「これからの日本の農村人口と暮らしのインフラについて」お話しました。最近ようやくSDGsという言葉をよく聞くようになりましたが、それはSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、元々この「持続可能な開発」という言葉は、1987年に国連の「環境と開発に関する世界委員会」で、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」と定義されました。「今日のニーズを満たすような開発をしながら、余裕があれば将来のニーズを考えましょう」ということではなくて、順番が大事です!2015年の国連総会では『持続可能な開発のための2030アジェンダ(Transforming our world: the 2030 Agenda) 』が起草され、SDGsはその具体的指針として記述されました。その後、世界に遅れた日本ではようやくプロモーションに成功し、SDGsという概念が普及してきました。Transforming our world、つまり「変身」がキーワードで、SDGsを掲げて仕事をするならば、昨日と同じ仕事を今日していたのでは、「変身」はできず、SDGsの目標に達成することは到底できません。

 

今後10年間で最も影響が大きいグローバルリスク(ダボス会議参加者のCEOへのアンケート)では、2022年トップ10ランキングを気候変動問題が独占しています。気候変動のリスクを最小限に留めるために、世界では「ゲームチェンジ」が起こっています。まず取り組むべき3本柱は、「太陽光発電」「省エネ建築(高断熱・高気密)」「電気自動車EV」の普及促進です。どの自治体においても、域外に毎年流出している光熱費(電気・ガス・石油・ガソリン等)は相当な金額に上ります。このおカネの一部でも、地域で省エネ建築・設備高効率化・地域の再エネを使ったりして、地域の企業や雇用におカネが還流するしくみを作っていけば、地域が豊かに持続可能になる、というのがクラブヴォーバンの基本的考え方です。

 

これからの温暖化対策は、あまり効果が期待できない啓蒙・普及などの「教育的手法」ではなく、例えば「誘導的手法」で補助金などを町で考えるとか、事業的手法で何かインフラを町で作ってしまうとか、条例等の規制的手法と誘導的手法を組み合わせるなど、地域課題の解決と温暖化対策を同時に、強い強度で進めてほしい、との話でした。

 

また、移住者希望者の多い下川町やニセコ町でも、住み替えをしたい町民や移住希望者が「町内に住宅がない」という住宅難が起きつつあります。既存の住宅ストックは、1970~80年代の高度成長期に建てられ、そろそろ寿命を迎えるストックが増えていく一方、人口は減っているものの核家族化が進み世帯数はそれほど減らない、または増えてゆき、住宅が足りていません。皆さんの自治体では、「公共施設や住宅などのインフラは大丈夫で、将来、町の子どもたちがそこに住みたい」というニーズを満たす自治体であってほしいです。町内に住宅が足りなければ、近隣の都市部などに町民が移り、人口ビジョンよりさらに人口減が加速することが想定されます。この「住宅難」という地域課題解決に向けて、まず「町内の全住宅ストック」を把握し「世帯数」を推計して備え、「住生活基本計画」を見直していきましょう、ということで次回定例会までの課題としてそれらの統計の出し方を解説しました。