今回は、現在各省庁や自治体の脱炭素や地域エネルギー、まちづくりなどの検討委員やアドバイザーとして活躍中の稲垣氏を講師に迎え、全国で進んでいる脱炭素社会に向けた脱炭素施策の自治体事例などについてお話いただきました。稲垣氏は元東京都職員として在職中に「脱炭素・再エネ・まちづくりが好きすぎて」、働きながら京都大学大学院で地球環境学を研究し博士号を取得したというユニークな経歴をお持ちの方。公務員を辞職し、‘20年より、環境省・経産省・内閣府や自治体の各種検討会等委員、アドバイザーなど、全国の地域エネ事業支援、環境・まちづくり支援に取り組まれています。
セミナーのタイトルは「自治体の脱炭素施策成功事例」について。最初に自治体が脱炭素に取り組むべき5つの理由を説明します。
理由1)地域におカネが留まるから!(外貨を稼ぐことと同様に重要)
地域での再エネ導入は地域が比較的手堅く収益を確保できる可能性の高い取組で、コスパがよい! 私がこれまで見た中で一番好きな環境省のデータより引用します。地域に太陽光発電を5,000kW(5kW/世帯としたときの1,000世帯分)を導入すると、地域に年間最大1.8億円程度の経済波及効果があります。同じレベルの経済波及効果を地域にもたらすためには、空き家対策をして188人の移住者が増加した場合、あるいは観光振興で18,880人の観光客の入れ込み増加に相当します。これだけ増やすのは、大変ですよね? それゆえ、再エネを地域資本で導入するのは大きなインパクトがあります。
出典:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/datsutanso/hearing_dai4/siryou2.pdf
理由2)地域のレジリエンス向上につながるから!
避難所となる公共施設に太陽光・蓄電池を設置することで、災害時の非常電源として利用が可能です。
理由3)再エネが地域の競争力・ブランデングにつながるから!
石狩市の事例として、電力需要の100%を再エネで供給することを目指す区域 「RE100ゾーン」を設け、企業誘致による地域活性化を目指していること。すでに某企業が同エリアへのデータセンター建設を決めています。その他、福知山市や尼崎市の事例を紹介。企業が地域に進出する場合、単なる再エネではなく「地域に貢献する再エネ」が選ばれる事例が増えています。
理由4)地域課題の同時解決ができるから!
宮津市の事例ではイノシシの獣害が発生しており、所有者がバラバラだった土地に対して、行政と地域企業と自治会、地域金融が一緒になって、獣害対策を兼ねたメガソーラーを設置。その他、自治体によっては、畜産糞尿やもみ殻や竹林など、地域課題の解決と再エネを結びつけて導入している事例が紹介されました。
理由5)快適な暮らしにつながるから!
断熱によるヒートショック予防、車をEVにしてカーシェアに取組んでいる自治体の事例などが紹介されました。
地域エネルギー事業&脱炭素は「まちづくり」の王道です。全国では「ゼロカーボン宣言」をしている自治体がほとんど、という状況になりましたが、一方、コンサルに計画書づくりをお任せして、「再エネを推進」「省エネを推進」と抽象的な言葉のみが書かれた計画書が完成し、計画だけできて脱炭素事業がほとんど実施されない、という自治体が多いのが実情です。「実際の」脱炭素のプロジェクトを進めることが重要です。一方、たくさん考えられる脱炭素につながる施策メニューを全て一つの地方自治体でやるのは無理です。地域特性をふまえ、効果の高い脱炭素施策からプロジェクトとしてやることが大切です。
続いて、家庭部門・運輸部門・業務部門・産業部門別に、自治体が優先して取り組むべき脱炭素施策と事例、官民連携での成功事例も数多く共有されました。それらに取組もうとするときには「伝え方」が大事とのこと。住民・事業者への伝え方として、「脱炭素のため」では、残念ながら多くの人には刺さりません。他に存在するメリットをしっかり伝える工夫が必要です。
例えば、鳥取県の家庭部門の脱炭素施策として、「とっとり健康省エネ住宅」があります。鳥取県は、国の基準を上回る独自の住宅性能基準(高断熱・高気密)を設定し助成金を拠出。県民には、「省エネだから」とアピールするのではなく、「住む人のアトピーや喘息や手足の冷えなどが改善します」と「健康」面をアピールし、併せて、鳥取県基準の省エネ住宅だと国の基準に比べ、「長く住めば住むほどこれだけ光熱費が安くなりますよ」と「経済性」面でアピールをしました。また、せっかく高い基準を設定しても、地元工務店が施工できなくては地域におカネが循環しないので、地元工務店で施工できる体制を構築するために、地元の工務店がきちんとした高性能住宅を建てられるよう技術研修なども県が実施し、地元企業を育成しました。さらに省エネ計算サポート事業も実施しています。
電気料金平均単価の推移グラフで2011年の震災前と比べると、2023年の平均単価は家庭向け約35%、産業向けは約74%も上昇しています。公共施設の省エネ診断が約1~2万円で可能ですので、省エネ診断を受け施設の省エネにも取り組むべきです。
「自己決定理論」によると、自分の行動を自己決定するのに、いくつかの段階があります。自分も、部下も、調整相手も、できるだけ「外発的動機」→「内発的動機」に近づけることが、自分や周りの幸福感のためにも大切です。そのためには、「意義・ビジョンの共有」や伝え方が大切です。それゆえ冒頭の5つの理由を丁寧に説明し、再エネ導入の意義・ビジョンを共有する必要があります。地域エネルギー・脱炭素分野は、自治体としても前向きなことが多くあり、それが地域発展につながる「楽しい」分野のはずです。ぜひ地域のために一緒に楽しんで、取組みを進めましょう!という締めくくりでした。
その後、活発な質疑応答、議論が行われ、閉会となりました。