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1月15日PJ100セミナー「2050年 脱炭素戦略社会に向かって 建築物のLCA評価の進捗状況は?」を東京とZoomにて開催しました

20227月に日本政府が「GX (※1)実行会議」を設置してから2年半。『GX推進戦略』が閣議決定されたのが2023年7月。GXでは建築物のLCA評価 (※2) について、評価方法の構築がスケジュール化されています。それでは実際のところ今、どんな段階まで来ているのでしょうか? 今回は、2050年CN(カーボンニュートラル)となっている社会を目指し、国として進めているGXの中で、建築の分野でどのような動きがあり、近い将来、私たちにどんな影響があるかについて、村上より解説がありました。またこのLCA評価についての取り組みで先んじているEU内においての状況や具体的な規制について紹介しました。さらに、この建築物のLCA評価について詳しい晝場氏をお招きし、現在日本で公開されているホールライフカーボンを算定できるツール「J-CAT」について解説いただき、参加者の皆さんと共に日本の脱炭素未来についてディスカッションを行いました。

1 GX:グリーントランスフォーメーションの略。化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動。日本政府は 2022年7月に「GX実行会議」を設置、2023年7月にGX推進戦略が閣議決定している

2 LCA(ライフサイクルアセスメント):製品やサービスの原材料調達から廃棄に至るまでのライフサイクル全体における環境への負荷を定量的に評価する手法

 

まずは村上よりレクチャー。日本政府はこれまで脱炭素目標を、2030年までにGHG(温室効果ガス)排出量を46%削減し(可能なら50%の高みを目指す) 50年までにネットでCN(カーボンニュートラル)を達成する、と国際公約でうたっていました。しかし、’30年まであと残り5年しかないので、’24年12月に提示された第7次エネルギー基本計画案では’40年バージョンになっています。その中で、追加で中間目標として、’35年までに60%削減、’40年までに73%削減する案が検討されています。

 

建築業界ではここ数年、脱炭素社会に向けて大きな変化が起きています。GXリーグ”と呼ばれるGXを先行・率先して行う約750の企業(日本のGHG排出量の50%を占める)が、’23年から自主的にGX-ETS(排出量取引制度)をスタートさせており、26年にはGX-ETSが本格稼働する予定です。24年度には、「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」がスタートし、25年からは省エネ法の改正により、「小規模も含めた建築物の省エネ基準適合の義務化」がスタートします。建物の省エネ性能における断熱等級は、これまでの5段階よりさらに上位等級の「6,7」が創設され、これまでの「ZEH」にとどまらず、より省エネ性能の高い「ZEH+」「次世代ZEH+」といった住宅に対し手厚い補助が付くようになっています。「ZEHが平均になる」という社会が到来すると、建築物の利用時に排出するCO2はネットゼロとなっていくので、利用時のCO2排出量だけでなく、今後は新築時や維持管理の補修時、取り壊しの際のCO2 排出量も含めた建物全体の生涯のCO2排出量を、設計時に計算しゼロにしていくことが求められる社会になっていきます。

 

CVに関係の深い会社が建築している断熱等級7の標準的な戸建て住宅において、Ua値やC値、BEIを元にCO2 排出量を実際に計算する方法を説明しました。さらに「LCA評価」「ライフサイクルカーボン(LCC)」「ホールライフカーボン(WLC)」「エンボディドカーボン」「アップフロントカーボン」など、建築分野の脱炭素関連で最近よく使われる用語について、それぞれの定義や意味を解説しました。また、日本より10年以上先んじて脱炭素政策が進むEU諸国の建築業界で、脱炭素建築の義務化やLCA評価の義務化など、最新状況についても解説。日本でも脱炭素社会にむけて、建築業界で同じような変化が起きていくでしょう。

 

また、昨年に公表された、非住宅の建築物のホールライフカーボン算定ツール「J-CAT(Japan Carbon Assessment Tool for Building Lifecycle )」が作られた背景や概要についても説明を行いました。ホールライフカーボンの算出プログラムは、ドイツなどの欧州や北米と、日本で作られているものとはアプローチ方法が全く違う(間違いではない)、という点にも言及がありました。

 

次に晝場氏よりレクチャー。WLCの国内外の状況や、J-CATの実際の使い方について、解説がありました。また、英米やドイツであれば、図面作成途中にLCA評価を行うことができ、それを減らすための検討を行うことができるが、日本のLCA評価の方式だと、図面が完成し、施工前に請負業者が見積りを作らないとわからない(設計をしながら、算定ツールの値を確認しながら、LCAを下げられるよう改善して設計することができない)、というところがネックである、など、日本のLCA評価の課題点がいくつか共有され、参加者と質疑応答が行われました。