前回は「km=¥」の考え方や方法論をおさらいしながら、自治体が考えておくべき将来の公民連携のあり方や、昨年末に国から出されたばかりの第7次エネルギー基本計画案の内容の概要説明と、それを元に、今後の脱炭素社会に向けた社会変化に応じて、そして先んじて、どういったことを地域や自治体でやっておくべきか、といった話が共有されました。
今回は「少子化社会における教育移住と住宅インフラ」をテーマに、教育を主な目的として若い世帯の移住希望者が継続的に流入しているニセコ町におけるこれまでの取組みについて、役場の担当の方からお話を伺い、今取り組んでいる町立高校の魅力化、高校改革の内容についてニセコ高校の校長先生にお話を伺い、少子化過疎化が進む地方において、子育て世帯や若い人に選ばれるこれからの教育の在り方、若い世帯が住める住宅インフラや行政のあり方について、議論を行いました。

最初に代表理事の早田より開催の挨拶。昨日は高校改革に取り組んでいるニセコ高校や建設中の寮など建物を視察したが、今日は教育改革の中身について本谷校長先生にお話を伺います。本谷先生がニセコ町に来られて2年半の間に、総合学科、2クラス体制になる新設の高校として開校されることが矢継ぎ早に取り決められ、来春から開校ということで、4月から学生を迎え入れられるよう、寮の建築工事も3月には引き渡しできるよう急ピッチで進めている。都市部で学力重視の教育環境になじめず、地方によりよい住環境と子どもの教育を求めて移住する若い世帯が今増えているが「若い世代に魅力のあるまちづくり」「教育改革」について今日はぜひ学んで地域に持ち帰り、今後の参考にしていただきたい、との挨拶でした。
次に、本谷一氏氏(ニセコ高校校長)より「ニセコ高校の魅力化とニセコ町の新しい高校づくり」。地方の地元にそれほど特別に通学したいと思える中学や高校がなく、さらに私立も無償化されてしまうと、都市部でも定員割れする高校がたくさん出てくる。授業料が無償になったり、倍率が下がったりすると、都市部の進学校に進みたい地方の子たちや親は流出してしまう。それが出生率の「自然減」と人口流出の「社会減」に影響します。早くから流出してしまうと、若年層や子育て世代の地域に対する誇りや愛着の意識が低下していく可能性があり、それはUターンなど将来にも影響を及ぼし、持続可能なまちづくりが困難になる可能性が高くなります。それゆえ、地方の小規模校は、町村の垣根を越えて、首長(役場)、教育長(委員会)、議会、校長、住民が一緒になって地域の子どもたちの教育を考えることが大切です。
現在のニセコ町内唯一の「北海道二セコ高校」(町立)は定時制・農業科で、時代や地域の学びのニーズとのミスマッチ、少子化により、入学希望者が年々減り定員割れし、統廃合の危機に直面しました。令和5年4月に赴任してから改革に着手、2年半たつが、今年春には定員40名に対し、東京や札幌など都市部からの希望者併せて61名の出願者数があった。令和5年度には総合学科に転換することを発表し、あたらしい教育についてのSNS発信スタート、令和6年度には「ニセコ国際高校」の新設・全日制70名募集・学生寮の建設を決定(令和8年度春からスタート)。現在の高校を完全にクローズしてから新しい高校にするのではなく、数年は2つの高校の生徒たちが一緒に同じ校舎や寮で学生生活を共にします。新しい高校の最高目標に「シビックプライドを持ったグローバル人材の育成」を掲げ、全国・全世界から学ぶ意欲の高い生徒が集まりつつあります。大学進学や国際教育、起業家教育にも力を入れ、またニセコのまちづくり「SDGs未来都市」「環境モデル都市」とも連動した教育を行います。
わずか2年半で具体的にどのような広報をされてきたのかの詳細や、特徴のある学校のプログラムについての説明、また学生が積極的に地域の企業などでアルバイトやボランティアをしたり、ここで「一生の友」をつくってほしいと、家族のように暮らせる寮の工夫を実施、京都大学や神戸大学、小樽商科大学などとの連携、他地域の高校との共同研究、海外の大学との連携など、様々な側面からの「高校の魅力化」の取組みについて詳しくお話を伺いました。
続いて、川埜満寿夫氏(ニセコ町企画環境課)より 「ニセコ町の概要とまちづくり~教育移住の視点で~」。家族で子育てを考えニセコに移住したいと思ってニセコを選んでもらえる大きな理由は以下の3つであると思われる。①環境・自然景観、②教育、③国際的な雰囲気・多文化。ニセコ町では45年前に人口減少が止まり、20年ほど横ばい、25年前からはコロナ禍の影響があるものの、5年単位でみると、2.5~3%程度ずつ人口が増えています。これは人口5千人程度の日本の小さな町としては珍しい。人口増の原因は、移住者の増加。家族単位での移住者が多いので、子どもや生産年齢の数も安定しています。
2021年の大手新聞で「ニセコ町は子育て世帯の移住が多い」と取り上げられましたが、実は町としては、「子育てしやすい町」というアピールはあまりしていなくて、まちづくりや地域づくり、暮らしている方の生活がより豊かになる、ということに比重を置いて取り組んでいます。自身も移住者であるニセコ町移住支援相談員の方も、「移住してくる若い世帯に土地や家の助成金を出すといった支援は他の自治体に比べて乏しいが、地域の誇りや、地域社会の向上に関わる気持ちを高めるような場所づくりや仕組みの整備は進んでいる」とインタビューで答えています。
ニセコは外国人が多いと言われるが、季節労働者や休暇などで、人口約5000人の町で、外国人登録者数は夏には500人、冬には約2倍の1000人。観光客としての外国人のみならず、生活者としての外国人に対する支援、相互尊重・理解による共生のまちづくりがより重要になってきています。外国人登録者の国籍は、どこか特定の国籍の人が多いわけではなく、様々な国籍の人。町内に外国人住人が多い要因は、町内にインターナショナルスクールがあること。2012年に議会の承認を経て、旧ニセコ幼稚園舎を改修し、校舎を北海道インターナショナルスクールに無償貸与し誘致、開校。この4月にも2校目のインターナショナルスクールが開校しました。大学で日本語や日本文化を学び、日本語検定も1級を持っているような国際交流員が現在5名役場で従事しており、町の国際交流事業開催や児童生徒との交流、役場での翻訳サポートや誘客、町パンフや町内飲食店の多言語化などさまざまな業務に携わってもらっています。
続いて、参加自治体の担当者から若い世帯を意識した移住や山村留学などの取り組みについての説明、移住者への支援がなかなか移住・定住につながっていきにくい、など課題の共有があり、またニセコ町の住宅政策担当の方から、現在進めているニセコ町の公営住宅政策についても解説がありました。代表の村上からは、ニセコではここ数年の建築費の急高騰や民泊による需要などで、古い物件が新築より高い価格で売買されているようにまでなっている。ニセコ町で子育てしたい若い世帯の人々がニセコ町に住むのが非常に厳しい状況であること、住宅不足という状況は、他の農村部の自治体でも今後起こる可能性が高いこと、行政のあり方についての話がありました。
最後に理事の中谷より閉会の挨拶。町のこれまでの取組み、またニセコ高校の改革、国際教育や起業家教育など、魅力的なプログラムを作ってこられて、それが入学希望者数の増加につながったことに感銘を受けた。それが町の未来の発展に、ここまでリンクしているんだということを今日の話で思い知らされた。皆さんの自治体でも参考にして地元の高校などの魅力化に取組まれ、またそこに視察に伺って議論できるというサイクルができていったら良い思う、と締めくくられました。
