欧州では、建築物のWLC(ホールライフカーボン)削減を社会的な取り組みとして始めてから既に10年が過ぎようとしています。新築のエンボディドカーボンの排出抑制の取り組みでは、建築の設計時からCADと連携してエンボディドカーボンが試算できるツールが普及し、各種建材の製造時のCO2排出量のデータベース化も進んでいます。
こうした「設計時にCO2排出量の見える化」が定着したことから、高層や商業施設の建築においても、木造を選択するケースも多くなり、さらには基礎のコンクリート使用量を減らす取り組みが進められています。しかし、こうした取り組みをしてもなお、欧州ではいま、住宅や商業施設などの建物の新築時のCO2排出量のほうが、その後40~60年の建物の利用で排出されるCO2排出量よりも多くなることが問題視されています。
そのため、とくにスイスでは、若手の探求心ある建築家が集まりリユースやリサイクル素材、メーカーや商社に返品された新古品、現地調達材(基礎を根切りした際に得られる粘土など)で建築を行うユニークな「リユース・リサイクル建築」の取り組みが広がっています。
ちょうど1年前のこのPJ100セミナーでも取り上げましたが、日本でも「建築物のLCA(ライフサイクルアセスメント)」、WLCやエンボディドカーボンという言葉も定着してきましたが、課題は山積みです。代表の村上が欧州での実例の紹介をし、建築分野でできるだけ廃棄するものを少なくし、資源を持続可能に活用することを目的とした「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」を日本で進めるにあたってどのような課題があるのか、参加者と活発な議論を行いました。
2050年までにネットでカーボンニュートラルを達成するというのが国際公約ですが、日本政府は、これまでの中間目標にさらに昨年追加で、2035年にはGHG排出量60%削減、 2040年には73%削減することを閣議決定しています。カーボンニュートラル実現に向け、日本政府は大手企業に温室効果ガス排出量取引制度(ETS)を導入し、いよいよ今春から本格稼働させます。GX(グリーントランスフォーメーション)対応をしていない製品やサービスは、市場でますます不利になっていくでしょう。
住宅分野でのGXの取り組みも進んでいます。2025年度からは省エネ法改正により、「小規模を含め建築分の省エネ適合基準の義務化」がスタート。ネットで住宅物件検索すると、「建物の燃費」が表示されるようになってゆきます。これまで数年「ZEH」と呼ばれた住宅は、断熱等級が5と低めで、省エネ性能が高くなくても太陽光パネルで発電し相殺されればよい、という基準でした。しかし2025年9月から新たに「GX ZEH」と定義されるようになった住宅は、断熱性能6がマスト。これでようやく、住宅の基準が欧米基準並みの省エネ性能に追いついてきました。
しかし「GX ZEH」が平均、という社会が到来すると、今度はこれまでCO2排出量が「建物の建築・廃棄時<建物利用時」だったものが逆転し「建物の建築・廃棄時>建物利用時」となってきます。カーボンゼロの社会を目指すにあたり、次は建築・廃棄時のCO2排出量が課題になります。
そのため、LCCM建築(ライフサイクルカーボンマイナス建築)の推進を制度として整備してゆくことが重要です。昨年のPJ100セミナーでも取り上げましたが、日本では昨年、住宅も含めた建築物のホールライフカーボン(WLC)算定ツール「J-CAT」がリリースされました。
EU各国では、着実に建築物の脱炭素が進んでいます。国によってばらつきはあるものの、㎡あたりのWLCの値の算出・提示を義務化し、排出量の上限値を設けるという国も出てきています。こうした社会的な動きの中で、EU内には「新しい素材を使って建築をする」ことがクールではない、という考え方に共鳴する建築家、施主、行政が出現しています。
村上より、建築分野でのサーキュラーエコノミーの取り組みがとりわけ進んでいると世界から注目を浴びている、スイス・バーゼル州の事例について、リサイクル・リユース素材で建築された建物の建築途中の現場写真も交えて、詳しく紹介されました。同時にこうした建築における法的な課題、コスト、工期、などについても議論しました。これらを踏まえて、参加者の方々と、日本特有の住宅事情や中古資材市場の現状、日本でリユース・リサイクル建築を進めるにあたり、どういった課題があり解決していく必要があるか、など活発な質疑、議論が行われました。

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