〈連載〉メンバー インタビュー

 

クラブヴォーバンは、「持続可能なまちづくり」を実現したいと願う、様々な人たちの情報交換のためのサロンです。ここには、都市計画や不動産・政策・住宅設計や再エネなど、様々なジャンルのプロフェッショナルで、職業も年代も様々でユニークな人たちが集まってきています。

 

”ここに魅力を感じて集まりコアメンバーとなる人たちが、それぞれどんな思いで仕事をし、クラブヴォーバンに関わっているか、ぜひ多くの皆さんに知ってほしい” ということで、エネルギー分野のライターとして活躍中の高橋真樹さんによる、インタビュー連載をスタートします!

 

2017年

12月

25日

第4回 石川 義和(CVPTメンバー・(株)Wellnest Home代表取締役)

今回の石川義和さんは、香川県高松市で建設業を営んできた会社の社長です。デザイン住宅を手がけ、「施主の夢をかなえる」ことをやりがいとしていた石川さんは、早田宏徳さん(クラブヴォーバン代表理事)との出会いやドイツ訪問が転機となり、今後の家づくりの方針を明確にします。

 

その後、ウェルネストホーム(旧低燃費住宅)を設立した石川さんは、なぜ寒さとは無縁に思える香川県で、高断熱高気密のエコ住宅を建て続けているのでしょうか? 地域で省エネ住宅をつくり、エンドユーザーに広めていく実践者から話を伺いました。

 

 

■日本の住宅に共通する問題点とは?

 

Q:ウェルネスとホームと出会う前は何をされていましたか?

 

ぼくは、香川県で昭和6年から建設業をやってきた会社の3代目になります。ウェルネストホームと出会う前は、デザイン住宅を手がけてきました。お客さんの要望をすべて聞いて、その夢を実現する仕事です。年間の受注棟数は、香川では多い方でした。

 

家が完成してお客さんに引き渡す時は、「夢の家をありがとう!」と、めちゃくちゃ喜んでくれました。でも、時が経てば経つほど満足度は低下して、クレームが増えるようになりました。当時、ダントツに多かった不満は、「暑い」「寒い」です。うちの会社は木の品質や施工、見映えにはこだわっていました。でも、暑さや寒さといった温熱環境について知見がなかったので、「日本の家なんてこんなものですよ」としか答えられませんでした。

 

それから、「間取りが悪い」と言われました。お客さんの望みどおりにしたのに、なぜそう言われるのか不思議ですよね? でも必要な間取りは、お客さんの生活スタイルとともに変化するんです。おばあちゃんと同居したり、お子さんが大きくなって出ていったりする。本人たちは、その時点の生活スタイルで100点満点の家を望むのですが、数年経つと発想が変わることを気づかないのです。これについても、当時は対応のしようがないと思っていました。日本の住宅に共通するこれらの問題を解決したのは、のちにウェルネストホームを一緒に立ち上げる、早田宏徳との出会いでした。そして、彼とともに行ったドイツへの視察です。

工務店がカビの研究をするドイツ

 

Q:早田さんの話やドイツ視察で気づいたことは何でしょうか?

 

早田と出会ったのは、ある建材メーカーのセミナーです。彼は、住宅の温熱環境や間取りに関して、ぼくが悩んでいた点を明快に答えてくれました。そこで、うちの会社でコンサルタントをやってもらえないかとお願いしました。コンサルをしてもらって特に印象深かったのが、2011年に彼の案内で訪れたドイツへの視察でした。驚いたのは、最初に「カビ」の研究所に連れて行かれたことです。ぼくは「こんな研究所じゃなくて早く家を見せてくれよ!」と思っていた。でもこれがすごく大事でした。

 

結露がカビを生み、カビのせいでアトピーを始めとするアレルギーが起きやすくなる。だからドイツでは、快適な住まいづくりを考える工務店は、まずカビを生やさないための研究を徹底的にするのです。ドイツではそれが常識でしたが、日本では自分も含めて、当たり前のように結露する家をつくり続けてきました。

 

それから1月に行ったので外は寒いのですが、建物の中はそれほど暖房器具が多くないのに暖かくて快適でした。そこからもわかるように、ドイツで家をつくる人たちの間で、断熱や省エネへの意識も常識になっていたんです。工務店の人からは、「ドイツで寒い家なんかつくったら、裁判に訴えらたら負けるよ」と言われました。日本の工務店とは、考えていることやこだわるポイントがぜんぜん違う。悔しいけれど、住む人の事を考えているという意味で向こうのほうがプロの仕事をしていることを実感しました。

 

■健康によく、長持ちする家

 

Q:なぜウェルネストホームを設立したのでしょうか?

 

ドイツから戻り、これまで自分がつくってきた家について考えました。その差は歴然です。ぼくは、お客さんの夢を実現してきたつもりだったのですが、将来にわたってお客さんの幸せをちゃんと考えていたわけではなかった。ドイツの基準で考えると、ぼくが建ててきたデザイン住宅は、素人の意見をそのまま取り入れて建てた家でしかなかったんです。

 

欧州では、家づくりを熟知したプロ中のプロが、健康で長く快適に暮らせる家を建てていました。だからお客さんに引き渡した後も、100年以上にわたって快適性に自信が持てる。ぼくもプロであるなら、せめてお客さんがローンを返す期間に何が起きるか予測して、健康によく長持ちする、住む人のためになる家づくりを手がけたいと、心の底から願ったのです。

 

香川の高松という地域は暖かいとされ、温熱環境なんて誰も考えてきませんでした。そういう土地でも、冬の寒さで人が家の中で倒れています。だから、この香川で温熱環境の素晴らしい住宅を建てて、なおかつビジネスとしてもうまくいけば、日本中の人にその重要性が理解してもらえるのではないかと考えました。そこで、早田と一緒にウェルネストホームの前身である低燃費住宅を、香川で設立しました。

 

■「売るための住宅」から、「日本を良くする家づくり」へ

 

Q:実際につくりはじめて、それまでとは何が変わりましたか?

 

ウェルネストホームを建てるようになって、一番変わったのはお客さんの満足度です。冒頭でデザイン住宅は、歳月とともに満足度が低下するという話をしました。でも、「暑くない」「寒くない」というウェルネストホームの温熱環境についての満足度は、1年目も5年目も変わりません。むしろ評価が高くなるんです。

 

またシンプルな設計にこだわっているので、生活スタイルの変化に対応して間取りを変更しやすいという特徴があり、その点でもご満足いただいています。その利点は、結露やカビが発生せず、長持ちする住宅だからこそ発揮できるのだと思います。お客さんからの紹介率が、デザイン住宅の時は2割ほどでしたが、いまは7割を越えていることからも、満足度の高さが伺えます。

 

また、つくり手としての意識も劇的に変わりました。自分の建てた家が、お客さんに喜んでもらえるだけでなく、世の中をよくすることにつながるなんて、こんなに素晴らしいことはありません。デザイン住宅をやっていた頃は、想像したこともないことです。当時は自分の会社を存続させることが大事で、お客さんに売れるものが正解だと思っていましたから。

 

ぼくはこれまでの日本の家づくりで見過ごされてきた、「健康」や「快適さ」という価値を高めていきたいと思っています。クラブヴォーバンを通じて、このような高性能な家の意味が全国に広がれば良いと思いますし、日本で間違いなく必要とされていると確信しています。そしてこれからは、住宅の基本性能が担保され、デザインに優れた住宅を造っていきたいですね。

 

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2017年

12月

19日

第3回 西村 健佑(CVPTメンバー・在ベルリン調査員)

今回は、クラブヴォーバンのプロジェクトメンバーの一人であり、在ベルリン調査員・環境政策研究者の西村健佑さんです。

 

西村健佑さんは、ドイツ・ベルリンに在住し、ドイツを始め欧州の環境・エネルギー政策について調査、通訳、翻訳を手がけ、日本に正しい情報を伝える活動をされています。西村さんがドイツに留学した理由から、欧州で起きている環境政策の中で、いまもっとも興味深い動きについても伺ってきました。

 

Q:西村さんは、学生のときになぜドイツへ留学されたのでしょうか?また、現在特にエネルギーの分野を専門としている理由について教えてください。

 

日本の私立大学で環境経済を学んでいた2004年に、ドイツが太陽光発電の導入量で世界一になり、それまで一位だった日本を抜いたというニュースを聞いて驚きました。そこでドイツの政策を詳しく調べると、環境を守ることと経済は両立が難しいので上手く回さなくてはいけないという考えではなく、むしろ環境について取り組むことで経済がうまくいくという考えのもとに政策がつくられていることがわかりました。そこで、英語もドイツ語もままならない状態でしたが、修士課程からドイツの大学で学ぶことにしました。

 

エネルギー政策の分野に関わった主な理由は、ドイツに行くきっかけが、太陽光発電がドイツでなぜこんなに伸びたたのかという理由を知りたかったからです。そしてドイツの指導教官がたまたま、気候変動を含めて環境、エネルギー政策の分野で著名な専門家であるミランダ・シュラーズ教授になったのも幸運でした。

 

Q:ドイツではどのような仕事をされていますか?

 

主にやっているのは、通訳と調査活動です。2016年までは貿易商社に就職して、調査部門で働きました。ドイツのエネルギー転換は、ドイツに住む人すべてが関わりを持ち、社会のあり方を一緒に変えていく壮大な取り組みです。そのため、政治、政策、市場、社会のすべての視点を持ってエネルギー転換を見ていく必要があります。こうした視点から、ドイツを中心としてエネルギー転換の動きを調査しています。

 

お客さんは、日本の政府関係、シンクタンク、民間のコンサル事業者などさまざまで、ドイツだけでなくヨーロッパ各国の環境政策の実態や、マーケティングに関わる市場の動向など、必要な情報をお客さんに提出しています。日本では、エネルギー政策を単体で考えることが多いのですが、ドイツは国にせよ地方自治体にせよ、まず気候変動政策があって、その下でエネルギー政策を決めていきます。その考え方を伝えることも大切だと思っています。

 

2017年からは独立して、基本的には個人で仕事を受けることにしています。最近は、大学の先生からの問い合わせも増えています。大学の場合は意義はあるのですが調査費が限られている場合が多い。そのようなときには企業では難しいですが個人なら引き受けることもできますから。

 

 

Q:クラブヴォーバンとの関わりや、どんなことをしているかについて教えてください。

 

クラブヴォーバンに参加したのは、2013年にメンバーがベルリンで合宿をするときからです。その数年前から村上敦さんや早田宏徳さんにはお会いしていましたが、実際に行動を起こして実践していく姿勢が魅力的に感じました。また、省エネ建築などについては詳しくなかったので、それも勉強になっています。

 

クラブヴォーバンの中では、メンバーがプロジェクトチームに分かれて取り組みを行っています。ぼくは再生可能エネルギーについてのチームに入っています。まだ立ち上がったばかりですが、ドイツにいなければわからない重要な動きを日本の皆さんに伝えていきたいと思います。

 

Q:いま、西村さんが特に興味を持っている分野は何でしょうか?

 

大きく言うと2つあります。ひとつはバーチャル発電所(VPP)です。小さな発電所をインターネットでつなぎ、まるで大きな発電設備のように使う技術です。再生可能エネルギーの設備は、ひとつひとつでは発電する量が不安定ですが、バーチャル発電所の技術を用いることでその不安定さを小さくすることができます。また、小さな発電所でも電力のやりとりができるようになることで、一般市民が参加できる仕組みになるというメリットもあります。

 

2つ目は、ドイツでは自治体が出資して地域のインフラに関わる事業をまとめる都市公社が、大きな存在感を持っています。これは「シュタットベルケ」と呼ばれます。日本でも、自治体が出資する新電力会社が生まれてきたので、その動きをサポートしながら、地域活性化に役立てていければいいですね。日本とドイツとでは社会環境もかなり違うので、いまは日本でできることを整理していく段階です。

 

エネルギーを含めたインフラは、暮らしに欠かせないものです。欧州では、単に短期的に得だからとそれを民間事業者に譲るくらいなら、多少負担しても自分たちの地域で運営していこうという覚悟があります。日本でも、自分たちの地域に適した選択肢を選ぶことで、身近な人たちから信頼される組織に育っていくのではないかと考えています。それをお手伝いできたらいいですね。

 

 

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2017年

12月

08日

第2回 早田 宏徳(CV代表理事・(株)ウェルネストホーム創業者・CEO)

今回は、村上敦さんとともにクラブヴォーバンを創設した、代表理事の早田宏徳さん。

 

早田さんは長年、日本でトップクラスの「高品質の住宅」を手がけてきました。ところが、ドイツへの視察を機にその自信がもろくも崩れます。クラブヴォーバンの住宅部門である「ウェルネストホーム」誕生のきっかけから、ドイツで受けた衝撃、そして今後の目標などについて伺いました。

 

 

Q:性能の良い住宅づくりをめざすきっかけは何だったのでしょう?

 

もともと父が、塗り壁などを担当する左官屋でした。子どもの頃からその姿を見てきたので、ぼくも自然と家づくりに興味を持ちました。そして18歳から建築業界で働きはじめます。最初に就職したのはいわゆるローコストメーカーだったのですが、すぐに何かおかしいなと感じました。父が手がけていたのは数寄屋造りなど立派な家で、100年以上長持ちするものでした。一方、この会社の建てる家は30年くらいで壊れてしまうのです。当時の社長に「ぼくはこんな家を売りたくないから、長持ちする家をつくらせてほしい」と言ったこともあります。

 

22歳のときに、仙台にある別の会社の素晴らしい社長さんと出会い、そこで望んでいた地震に強くて長持ちする家づくりをさせてもらえるようになりました。東北大学などと共同で研究しながら、当時の日本ではトップクラスの「高品質な家」をつくり続けたことで、国からも表彰されましたし、地元でも評判が高かったんです。実際、その後の東日本大震災の地震では、ぼくらが建てた家の被害はほとんどありませんでした。

 

そんなことで、自分たちが世界に誇れる高性能な家を建てているという自負はありました。ところがドイツ在住の村上敦さんとの出会いが、その培ってきた自信を打ちのめします。講演会を通じて出会った村上さんに案内してもらって、ドイツの建築を視察しました。

 

そしたら、ぼくが12年間かけて研究して建てた最高レベルの家だと思っていたものが、ドイツでは温熱環境では建築基準法以下の、つくってはいけないレベルの家だったんです。日本のトップは、ぜんぜん世界のトップじゃなかった。日本人はいつからか、自分たちが世界のトップだと勘違いして、世界から学ぶことをやめてしまったのかもしれません。日本はこんなに遅れているのかと気づいたことで、家づくりでめざす方向性が定まりました。

 

Q:なぜクラブヴォーバンを立ち上げたのでしょうか?

 

住宅よりも驚いたのは、まちづくりです。村上さんが暮らすフライブルクという町にあるヴォーバン住宅地があまりに素晴らしくて、「自分が生きているうちに、こんな町を日本で作りたい」と夢を語りました。そうしたら村上さんから、世の中を変えたいと思っている仲間たちが集まる非営利のサロンを一緒につくらないかと言われ、一緒に資金を出し合ってクラブヴォーバンを立ち上げることになりました。

 

ヴォーバンの町のすごさは、まず住民が生き生きしていることです。車が走っていないから、お母さんが見守っていなくても子どもが安全に路上で遊べるし、住民間のコミュニティがしっかりしていて、どの世代の人でもにこにこして暮らしている。しかも、その町を住民たち自身が議論しながらつくっていったというのがさらにすごいと思いました。たくさんの緑の中で安心してのびのび暮らしている雰囲気が、閉塞感にあふれ不安だらけになっている日本の町とはぜんぜん違うと感じました。こんな町がいつか日本にもできたら、もっと幸せになるんじゃないかって思ったんです。

 

Q:早田さんは、クラブヴォーバンで何をしているのでしょうか?

 

ぼくとしては、村上さんが提案するような持続可能な社会を、日本に迅速に広めるサポートができればいいと考えてきました。私の専門は建築なので、特にその分野で進めています。これからのカギを握るのは自治体です。「持続可能な発展を目指す自治体会議」でも、省エネ建築や改修について勉強したいという要望を受けて、それぞれの自治体さんに説明にいくなどの協力をしています。

 

例えば北海道のニセコ町さんなどは、もともと省エネ改修をやっていたのですが、クラブヴォーバンと関わったことでそのスピードが上がり、自分たちのやってきたことに自信を持てるようになったと言っていただきました。自治体が積極的に動くことで、その地域の工務店も省エネ建築にシフトせざるをえなくなりますから、非常に大きな効果が期待できます。このようなネットワークを広げることで、日本で持続可能なまちづくりを実現できたらいいと思っています。

 

ドイツを始めとする欧州では、ITの利用はもちろん、電気を熱に換えたり、EVなど交通に利用したりといった部分で、凄まじい進化をしています。クラブヴォーバンには、村上さんを始め、ドイツのエネルギーや交通、建築、まちづくりなどさまざまな分野で活躍する方が携わっているので、日本にはまったく届いていないドイツの一次情報をものすごく早く手に入れることができます。それも自治体会議などに参加していただくメリットになっています。

 

 

Q:日本の建築業界では、省エネ住宅は増えてきたのでしょうか?

 

社会で省エネ住宅の必要性とか、省エネ意識を変えるという意味では、クラブヴォーバンを立ち上げた2008年の頃と比べると確実に変わったという手応えがあります。そしてその一翼を、私たちも担えたのではないかという自負もあります。とは言え、本当に社会に浸透しているかというとまだまだたくさんの課題があるので、この歩みを止めるわけにはいきません。 

 

先日、旭化成ホームズさんと資本提携をして、結露やカビの発生しない家づくりのためにデータを共有することになりました。あんな大企業が、うちみたいな小さな会社と組んでくれるなんて、通常では考えられないことです。これも、これまで行ってきた先進的な取り組みが評価された証なのかもしれませんね。

 

 

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2017年

11月

10日

第1回 村上 敦(CV代表/設立者・環境ジャーナリスト)

ノンフィクションライターの高橋真樹です。これから、各地で活躍されているクラブヴォーバンの中心メンバーがどんな人物でどんなことをやっているかについて、インタビューを通しておひとりずつ紹介していきます。

 

1回目となる今回は、クラブヴォーバンの設立者の一人である村上敦さんです。ドイツ在住の環境ジャーナリストとして活躍されている村上さんが、ドイツで働いて感じた日本とのギャップや、クラブヴォーバンを設立した思いなどについてお聞きしました。

 

Q:まず、村上さんがなぜドイツで働こうと思ったかについて教えて下さい。

 

ドイツに行ったのは今から20年前の26歳の頃です。もともと、海外の会社で働いて見識を広めたいという思いはありましたが、何か具体的な明確なビジョンがあったわけではありません。当時たまたま社会的なテーマになっていた環境やエコロジーといった分野で、調べるとドイツが最先端を行っていたことが、興味を持った最大の理由です。

 

Q:長年ドイツ社会で暮らして、日本との違いを感じるのはどんな所でしょうか?

 

環境やまちづくりといった分野で仕事を続ける中、もっとも大きな違いを感じるのは、「演繹的な考え方」です。まずは目標を設定して、それを実現するために逆算して、今何をすべきかを決めるということですが、それが社会全体に広く浸透しています。

 

環境、エネルギーの分野についても、ドイツは数年間の議論を経て2010年には、2050年の段階でどんな社会を目指すかというビジョンを決めています。それに向かって各分野で目標を達成するために行動することが決まっているから大胆動くことができています。もちろんドイツだって完璧なわけではありませんし、経済界への配慮による妥協や行動が足りていないところも多々あります。ただし、この分野において何らかの物事を進める際に、2050年のあるべき姿に1ミリでも近づいているような手ごたえがあります。

 

日本社会はどちらかといえばいきあたりばったりというか、「今がこうだからこれくらいできるだろう」、という積み上げる発想でやっているように思います。どちらが良いというわけではなく、トヨタ社の「カイゼン」に代表されるように細かい改良をするのは得意なんです。でもそのやり方では2050年のビジョンを包括的に決めて社会を動かしていくのは難しいと思います。

 

Q:クラブヴォーバンを立ち上げた理由は何でしょうか?

 

統計を見れば明らかですが、日本の状況は持続可能な姿とはとても言えません。とくに人口減少なんて、いま40代半ばのぼくが生まれたときには少子化が始まっていて、将来的にドンドンと減っていくことが確実だったのに、結果につながるような対策が何もほどこされてきませんでした。他の国でも同じような課題に直面しながら、対策がそれなりの成果を上げている例もある。そうした取り組みを参考にしながら、持続可能なまちづくりについて提案したいと考えました。

 

クラブヴォーバンで目指したのは、何らかの事業を営む団体を立ち上げるというよりも、サロンのような場づくりです。名門大学や大手企業の一部には、学生や社員、OB・OGが特に目的がなくてもその場所に来れば、多様な分野で活躍している異業種の人たちと関係を築ける集いの場があります。そこから新しいビジネスが生まれてきたりする。

 

持続可能性をテーマにしている人たちが、そういうことをやれる場所があったら、新しい動きにつながるのではと思いました。当初は仲間に住宅や建築の関係者が多かったことから、省エネ建築の分野でいろんなノウハウを提供したり、各社が協力して共同出資による会社やブランドを立ち上げることに発展しました。

 

 

Q:設立からまもなく10年ですが、どのような手応えを感じているでしょうか?

 

この10年間で最も大きく変わったのは、省エネ建築の分野です。高断熱・高気密、日射取得・遮蔽などそれに関わる工務店や建築家の数は確実に増えていますし、社会的に注目されるようにもなりました。その意味では、ぼくたちも社会を変える一翼を担えたのではないかという手応えはあります。

 

ただ、マイカーのみではない徒歩・自転車・公共交通の充実や緑地設計を含めた都市計画の分野では、社会が良い方向に進展したとは言えません。今後は、その分野に力を入れていきたいと考えています。 

 

Q:2015年に、「持続可能な発展を目指す自治体会議」を立ち上げたのも、そうした背景からでしょうか?

 

クラブヴォーバンではこれまで、持続可能な社会を願う民間の企業家の人たちが集まり、サロンとして盛り上がって様々なプロジェクトが実施されてきました。もう一つの柱として、先進的な自治体が出会い、学び、交流できる場をつくろうと考えました。特にそれほど人口が多くない自治体は、情報がなかったり、環境やエネルギー政策の担当者、専門家もいなかったりする。そこで、ぼくらがノウハウを投げ込んで、エネルギー問題や都市計画を含めた地域の課題解決につなげてもらえればと思ったのです。

 

2017年11月現在、熱心に参加いただいている全国でも先進的な小規模の自治体さんはすでに7自治体になります(オブザーバー含まず)。

 

日本社会の課題は明確で、解決策も多くのケースであるのです。その方向性が経済性を持たなければ実現が難しいかもしれませんが、これも多くの場合で経済性をすでに持っています。やろうとすればやれることはあるのに、なかなかそういう方向に動いていきません。国全体が動いていかない中で、まずはすでに動いている、あるいは動こうとしている自治体の人たちと一緒に、できることからやっていこうということです。でも本当は、すべての自治体、あるいは全ての分野の人たちが持続可能な方向に舵を切らないといけないときが来ているのではないでしょうか。

 

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 高橋 真樹(たかはし まさき)

 

ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。世界70ヶ国以上をめぐりながら、サステナブルな社会をめざして取材をつづける。著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)、『そこが知りたい電力自由化〜自然エネルギーを選べるの?』(大月書店)、『観光コースでないハワイ』(高文研)、『ぼくの村は壁に囲まれた〜パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)など多数。地域のエネルギー事業を伝える「全国ご当地エネルギーリポート」、低燃費住宅での暮らしを実況リポートする「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」を連載中。