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持続可能なまちづくり × エネルギー自立地域をめざす全国ネットワーク

〈連載〉メンバー インタビュー

クラブヴォーバンは、「持続可能なまちづくり」を実現したいと願う、様々な人たちの情報交換のためのサロンです。ここには、都市計画や不動産・政策・住宅設計や再エネなど、様々なジャンルのプロフェッショナルで、職業も年代も様々でユニークな人たちが集まってきています。

”ここに魅力を感じて集まりコアメンバーとなる人たちが、それぞれどんな思いで仕事をし、クラブヴォーバンに関わっているか、ぜひ多くの皆さんに知ってほしい” ということで、エネルギー分野のライターとして活躍中の高橋真樹さんによる、インタビュー連載をスタートします!

2018年

11月

01日

第14回 田中信一郎(CVPTメンバー / 地域政策デザインオフィス代表理事 / 千葉商科大学特別客員准教授)

田中信一郎さんは、横浜市や長野県などの自治体職員として、環境エネルギー政策を実践してきた政策づくりのスペシャリストです。その経験を活かして、現在は全国の自治体に自らのノウハウを提供するコンサルタント事業に取り組んでいます。

また、自然エネルギー100%を宣言した千葉商科大学では客員准教授を務め、持続可能な大学をめざす斬新な提言を行っています。長野県をエネルギー先進地域にした立役者のひとりである田中さんに、自治体が持続可能なまちづくりに取り組む意義を伺いました。

持続可能なまちづくりをサポートする
Q: 田中さんが創設した「地域政策デザインオフィス」は、どんなことをしているのでしょうか?

自治体が、持続可能な地域づくりをする際のサポートをしています。その考え方は、クラブヴォーバンがめざしている所と同じです。具体的には、全国の自治体の職員や住民の方に対して、どうやったら持続可能な地域づくりの第一歩を踏み出せるかについてお話しています。通常は、自治体の職員が新しい政策をやりたいと思っても、何をどうクリアして実現していいのかわかりません。

 

自治体によっては、これまでそういう分野で経験の少ない行政と住民とが、いきなり高いレベルのことをやろうとすることもあるのですが、たいていはうまくいきません。一歩ずつ段階を踏んで成功体験を積み重ねていく必要があります。そのための考え方ややり方を、お伝えしています。

もうひとつは、役所では体系的に政策のつくり方を学ぶ機会がありません。そこで環境・エネルギーの分野に限らず、政策づくりの研修も手がけています。

 

Q:持続可能なまちづくりを進めるポイントは何でしょうか?

もっとも大切なのは、環境部門の担当者だけではなく、役所全体がエネルギーと地域経済についての基本的な考え方を理解することです。地域は、外部にお金を払ってエネルギーを買っています。そのお金を地域内に投資したり、地域でエネルギーをつくって外に売れるようになれば、地域の中でお金が循環することになります。それが地域経済を豊かにします。

 

これまでは、この考え方をしっかりと理解しないまま、漠然と何かをやろうとしていたり、やっていた自治体が多いのですが、それでは成果を得られません。持続可能な地域をつくることは、経済だけでなく健康や他の様々な分野でメリットがあります。だからこそ、行政は縦割りではなく横で連携して一緒に取り組んでいく必要があります。

 

ではどう動けばいいのでしょうか?まずは、公共施設の建て替えや改修から検討してほしいと思います。いきなり条例などをつくるのは、ハードルが高くて困難です。しかし、一つの公共施設を変えることならできるはずです。行政と住民、建設業界などが一緒に、持続可能な建物になるよう研究し、小さくても結果を出すことがまちづくりの第一歩になります。

長野県で省エネ住宅はなぜ普及したのか?
Q:長野県では、田中さんが退職された後も環境・エネルギー政策を着実に進めています。長野で成功した秘訣は何でしょうか?

私は、2011年より5年間、長野県庁の環境エネルギー課で任期付き職員として働きました。長野で一番大きいのは、さきほど説明した地域経済というキーワードをみんなで共有できたことです。環境の部署以外の人たちも納得して、自分の仕事に落とし込むことができるようになったので、縦割りではなく部署を横断して共同歩調で動くことができるようになったのです。そのため、私が全てにかかわらなくても、あるいはやめた後でも、他の人たちが面白いプロジェクトを提案してくれたり、そういう政策が進化するようになっています。
 

Q:長野県で取り組んだ環境政策の一例を紹介してください。

例えば建物を新築するときに、その建物のエネルギーや環境性能を施主が評価して検討することを、条例で義務付けました。ただ、施主が事業者ならともかく、個人の場合は自分で評価することができません。そこで、建築事業者に対して施主に説明することを義務付けました。

とは言え、すべての建築事業者が客観的に評価、説明ができるわけではありません。そのため、県がすべての建築事業者を対象に、評価ソフトの普及と講習会を無料で行いました。それにより、どの業者も評価、説明ができるようになりました。

 

現在は長野県で建物を新築するとき、例えば建築費2000万円で年間光熱費20万円の普通の家と、建築費2200万円で年間光熱費10万円の高断熱の家と、どちらが良いですか?と選べるようになりました。最終的にはどちらを選んでも良いのですが、高断熱で光熱費が少ない家の方が、長く住めば経済的にも得になるし、室内環境も快適です。

いままではそういう選択を求められることがほとんどなかったので、選べるようになったことは大きいと思います。現在の長野県では、新築では国が定めた次世代省エネルギー基準以上に断熱された家が、8割を越えるようになっています。全国平均が3割程度ですから、驚異的な成果だと言えます。この政策はごく一例ですが、長野県の環境政策に刺激を受けて、真似をする県も出てきています。これはどの県でもできることなので、長野県としても積極的に情報提供をしています。どんどん真似をして広げていって欲しいですね。

都市戦略としての環境

Q:長野県で取り組んだ環境政策の一例を紹介してください。

2008年に横浜市の職員をしていた際、環境モデル都市のプランニングをする機会がありました。そこで世界の動きを学び、衝撃を受けました。世界の先進的な大都市では、持続可能なまちづくりを打ち出すことが、都市の価値を左右する重要なポイントだと認識されていたのです。例えば、当時はオリンピックを控えていたロンドンであったり、ニューヨークなどの主要都市が気候変動対策のリーダーシップを取っていました。それに続いて東京都も動いていた。

 

環境に優れた都市は住みやすく、安心して住める都市でもあります。そういう所に人や企業が集まってくるのはごく自然なことです。その価値に早く気づいた大都市は環境に力を入れていました。日本では、環境を熱心にやると経済にマイナスになると考えられてきましたが、それは逆だったのです。

日本の役所で環境政策と言えば、マイナーな部署の人たちが市民の苦情を受けてやっているイメージでしたが、世界ではかなりポジティブな都市戦略として捉えられていました。それが驚きだったし、現在の自分の取り組みにもつながる原点にもなっています。

 

■100年後も安心して暮らせるまちづくり

Q:自治体がまちづくりをする意味はどんなところにあるでしょうか?

日本のほとんどの自治体では、人口減少は絶対的に避けられません。特に小さな自治体は大きな影響を受けるはずです。それでも、その地域に暮らす人たちが、50年後も100年後もそこで安心して暮らせるようにするのが、持続可能なまちづくりです。

 

多くの自治体ではそのためのビジョンがなく、企業を誘致しようとしたり、移住者を大勢呼ぼうとするなど、一発逆転を狙います。でも、そんな都合の良い方法はありません。地域住民が幸せに暮らしていけるための地道な方法を模索する地域にこそ、活路が生まれます。しっかりしたビジョンをもとに、そういう政策を積み上げていくことが、地域の魅力を高め、人口増や移住者の増加につながるのです。クラブヴォーバンと連携して、確かなビジョンを持てる自治体を増やしていきたいと考えています。

2018年

9月

28日

第13回 高橋彰(クラブヴォーバン広報室長 / 一般社団法人ZEH推進協議会運営委員 / 住まいるサポート株式会社・住まいるハウジング株式会社代表取締役)

高橋彰さんは、大規模なビルから住宅まで、建物のエネルギー性能を評価するプロフェッショナルとして活躍してきました。さらに、省エネ建築について住宅のつくり手と話し合ってきた経験を活かして、一般の消費者が高性能住宅を選ぶ際にサポートをする新会社を設立しています。

「世界の先進国に比べ、著しく劣っている日本の建物の省エネ性能を上げたい」と語る高橋彰さんから、省エネ性能表示制度や、これからの建築のあり方について伺いました。

日本にはなかった建物の省エネ性能基準
Q:高橋さんがご専門の、建物の省エネ性能基準について説明してください。

住宅も非住宅も同じですが、日本の建築物の省エネ化は、先進国の中でとても遅れています。制度面で言えば、主要先進国の中で日本だけ、省エネ基準が義務化されておらず、やっと大規模な非住宅建築物についてのみ近年に義務化された段階です。

また、現在使われている日本の省エネ基準そのものが、主要先進国の中でとても低い水準にあります。欧米にはより厳しい基準があり、しかもそれが義務化されてきました。日本と欧米とでは、住宅・建築物の性能の差が大きく開いてしまっています。

建物の省エネ性能が低いと、エネルギー問題だけでなく、その建物で住んだり働いたりする人たちの健康や快適性にも悪影響を与えます。そのため、最近では国も省エネ性能を上げようとしています。例えば経済産業省、国土交通省、環境省の三省が連携して、省エネ性能の高いZEH(ゼロエネルギーハウス)を推進しています。

そのような動きの中で、世界的には建物の省エネ性能を共通の基準で表示することが欠かせなくなってきています。ドイツなら「エネルギーパス」、米国なら「エナジースター」というように、省エネ性能に特化した評価基準を義務付けてきました。ところが、日本では指標となるような省エネ性能表示制度が長年ありませんでした。そこで、国土交通省が旗振り役となって、BELS(ベルス)という表示制度が導入されました。BELSは、非住宅部門では2014年から、住宅部門では2016年から始まっています。私もごく最初の段階からBELSの制度設計や普及促進に携わってきました。

 

BELSが新しい基準に
Q:BELSとは、どのような基準でしょうか

BELSが登場する以前から、日本にはCASBEE(キャスビー)という建築物の環境評価ツールはありました。しかしCASBEEは、音環境や廃棄物、生物多様性など、環境性能を総合的に評価するものなので、そこで良い評価を得たとしても、省エネ性能の良し悪しの判断はできませんでした。

BELSは、省エネ性能に特化した新しい基準としてつくられました。建物の一次エネルギー消費量に基づいて、☆の数で評価をするもので、☆1つから始まり、最高ランクが☆5つです。私が務めていた日本ERIは、BELSの認証を行う機関のひとつです。私はその省エネ推進部で、BELSを始めとした建物のエネルギー認証を行ったり、ハウスメーカーや工務店向けに省エネ化について情報発信するセミナーを開催してきました。

 

消費者が賢くなる必要性
Q:ハウスメーカーや工務店は、建物の省エネ性能を上げることについてどのような反応をするのでしょうか?

BELSや建築物省エネ法ができた当初は、各社とも関心はあるので話は聞いてはくれるんです。でもなかなか住宅・建築物の性能向上にはつながりませんでした。設計者やゼネコン等の方々が言うには、省エネ性能の価値が施主や借主、消費者に知られていないということでした。事業者側が、一生懸命に省エネや断熱をやったら建築コストは上がります。その価値を理解してもらえなければ、住宅が売れません。非住宅も同じで、ビルのオーナーさんや入居するテナント企業がわかっていないと売れない。「卵が先かニワトリが先か」という話と同じで、事業者側としては、エンドユーザーの側で評価してくれないと、アクションを起こせないというものでした。 

 

Q:そんな状況で、建物の省エネ性能の表示の努力義務が始まったことにはどのような意義があるのでしょうか?

BELSという共通のモノサシができたことで、消費者側も建物の性能の違いがわかるようになりました。これを活かせば、消費者が性能の良い家を手に入れる可能性が増えます。これまで消費者は、何も知らずに立地や見た目、価格だけで住まいを購入してきました。また事業者側は、「ニーズがないから」という理由で、性能の低い住宅を供給し続けてきました。そういう悪循環を変える良いきっかけになるのではないかと考えています。ただし、今のBELSの評価基準は、国際的に比較するととても低いレベルなので、最高等級の5つ☆の性能で十分と考えられてしまうことが少し心配ですが。

 

■企業や自治体を通じた環境教育を高気密高断熱住宅を建てるサポートを
Q:持続可能な社会を実現するには、何が大切だと思いますか?

そのとおりです。そこで、「住まいるサポート株式会社」を設立しました。私はこれまで、主に住宅のつくり手の側との接点が多かったのですが、この会社では、一般の消費者を対象に高気密高断熱の住宅を建てるお手伝いをしていきます。

土地選びや売買の仲介も行いますが、単なる仲介業者ではなく、消費者が自ら高性能な家を選べるようになる視点を養い、賢い消費者になるためのセミナーを開催するなど、多角的な情報発信を行います。それにより、たいした性能でもないのに「高断熱高気密」をうたっている工務店の誇大広告を見抜けるようになります。これからの消費者は、家のつくり手の言いなりではなく、営業マンをギクっとさせるような質問をするようになって欲しいですね。消費者側が賢くなり圧力をかけることができれば、ハウスメーカーや工務店側の意識も必ず変わっていくはずです。

日本ではまだ、ちゃんとした高気密高断熱の住宅をつくれるハウスメーカーや工務店は、極めて限られています。当社では、高性能の住宅をつくれる信頼できるハウスメーカー・工務店と提携して、消費者に紹介していきます。

■トータルで整合性の取れるまちづくり
Q:どんな未来をめざしたいですか?

私は都市計画のコンサルタントの経験もあるのですが、ドイツと比較すると、残念ながら、日本のまちづくりは、非常に場当たり的です。縦割り行政の弊害なのか、総合的、戦略的にまちづくりを進めるということが行われていません。

また、設計者やゼネコン等の専門家の省エネ建築についての認識が低いことも残念な点です。建築物省エネ法が施行された際に、彼らと省エネ建築の話をする機会が多かったのですが、「日本は省エネ先進国なのに、なぜ省エネ建築を義務化されないといけないのか」とよく反発されました。多くの専門家も日本の住宅・建築物の省エネ性能が先進国の中で非常に劣っていることを認識していないのです。日本は確かにエアコンの機能とか、設備機器のレベルでは効率が良いものをつくります。しかし、住宅・建築物躯体性能など、根本的に変えないといけない部分が残っています。

これまで、建築業界は省エネ基準を高めることに消極的でした。でも、高性能な家をつくってその価値を消費者と共有することができれば、住宅の経済的な価値が高まりますし、事業者も工事単価も増え、売上も増加します。建築業界と消費者側の両者にとってプラスになるはずです。私はクラブヴォーバンと連携しながら、ドイツのようにトータルで整合性の取れる仕組みに変えていくことにすこしでも貢献できればと考えています。

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2018年

8月

16日

第12回 市瀬慎太郎(クラブヴォーバン理事 / そらべあ基金理事 / エネルギーパス協会理事 / イーソリューション株式会社代表取締役)

クラブヴォーバンの拠点、新橋のオフィスで活躍する市瀬慎太郎さん。彼は、場所の提供からさまざまなイベントの企画、運営、そして教育コンテンツのプロデュースまで、裏方としてグループに欠かせない存在になっています。

かつて老舗の紙の卸業をしていた市瀬さんが、なぜ持続可能なまちづくりに携わるようになったのでしょうか。現在の主要な仕事である環境教育にかける思いについても伺いました。

■紙屋から環境活動へ
Q:紙の販売を広げるためのツールだった「環境」が、どうして本業になったのでしょうか?

環境活動を手がける流れの中で、環境NGOや林野庁、林業家の方などとも協力して、日本の森林を守りながら紙の新しい可能性を探る、さまざまな活動に力を入れるようになりました。そのうちに、本業よりもそちらをメインにしたくなりました。

そして2007年に独立して、「㈱イーソリューション」を設立することになります。イーソリューションの主な収入源は、企業からの企画料とコンサルタント料です。企業の社会貢献活動(CSR)について相談を受け、場合によっては企画も実施しています。

例えば会社の設立当初には、コンビニエンス・ストア「ミニストップ」の割箸を国産材にするプロジェクトを実施しました。最近増えているのは、企業が主催する子ども向けの環境教育の開催です。大手セメント会社の例ですが、その会社では、ビルを解体する際に出る廃棄物や焼却ゴミの灰、一般家庭から出るゴミなどを、セメントの原料に利用しています。それを子どもたちにわかりやすく解説するための授業や教材をつくります。子どもたちにわかりやすい教材は、大人からも好評を得ています。

 

人と人とをつなげる
Q:クラブヴォーバンとの関わりや、現在の役割について教えてください。

主に、クラブヴォーバンでは、メディアやイベントなどを通じて、人と人とをつなげる役割をしています。当初は、住宅とかまちづくりについては興味がありませんでした。2005年、環境活動を通じて知り合った早田宏徳さんが作ったモデルハウスを訪れ、耐震性や断熱性能を体感したとき「これはすごいな!」と価値観が変わりました。

また、村上敦さんの話を聞いて、「持続可能なまちづくり」という概念にすごく共感しました。自分がやってきた環境の分野と住宅やまちづくりが、こんなにつながっているのかと驚いたんです。だから早田さんや村上さんたちがクラブヴォーバンを立ち上げて、日本にも持続可能なまちを作ろうと言ったときに、自分も参加しようと決めました。

 

とはいえ、村上さんはドイツ、早田さんは名古屋というふうに、中心メンバーは東京にいません。そこで、東京に会社を持っているぼくがクラブヴォーバンの東京事務局も兼ね、東京でイベントをする際にお手伝いするという形で始めました。具体的には、イーソリューションの事務所と共有する形で、クラブヴォーバンやエネルギーパス協会など、さまざまな関連会社がオフィス機能を置いています。クラブヴォーバンには、暮らしやまちづくり、エネルギーなどに関する世界最先端の情報が集まってきます。それをいかに広めていくことができるか、という意味でぼくが貢献できる部分もあるのかなと思っています。

人と人とをつなげるSDGsを広めるカードゲームを製作
Q:社会の環境意識を高めるためのゲームも作成されたそうですが?

2015年に国連で、SDGs(※)という持続可能性を高めるための17の目標が定められました。このSDGsの認知度を高めていくことで、環境教育とか持続可能なまちづくりが進んでいくと考えています。企業でも、CSRの部署の人はSDGsについてだいたい知っているのですが、それを本業に照らしてどう活用すればよいかはわかっていません。また、その会社の管理職の方は、SDGsというキーワードそのものをほとんど知りません。一般の方はなおさら知らないと思います。だから、まずはその認知度を高めることが大事だと思います。

多くの方に知ってもらうツールがあればという面白いのではと考えて、クラブヴォーバンが主体となってSDGsをテーマにしたカードゲームを開発しました。現在は、自治体版と企業版の2種類ができたところです。中でも自治体版は、村上敦さんの書籍『キロワットアワー・イズ・マネー』をベースにしたもので、自治体の方にも意見を伺ってつくりました。

 

適切な政策を実施しないと人口がどんどん減っていくという、人口減少社会のリアリティを反映したものになっています。財政が破綻したり人口が50%以下になったら負けになります。やっていただいた方の反応はかなり良いですね。こういうゲームを通して、どうすれば自分の町が持続可能になるのかと真剣に考えてもらえればと思います。ゲームは、自治体が主催して市民に参加してもらうという使い方もできます。こんなふうに、世の中に今までなかったものを生み出していくのは得意だし、好きですね。

 

※SDGsは、2015年に開かれた国連サミットで採択された、2030年までに達成するべき持続可能な開発のための17の目標。17の目標では「貧困をなくそう」「気候変動に具体的な対策を」といった大枠を定められ、さらに具体的な169のターゲットが挙げられている。

■企業や自治体を通じた環境教育を
Q:持続可能な社会を実現するには、何が大切だと思いますか? 

特に大切なのは教育です。これまでは、企業から依頼されて環境教育をしてきたのですが、先日、クラブヴォーバンの自治体会議に参加している熊本県小国町の中学校で、環境教育の授業をさせてもらいました。小国町は、森林の効果的な利用や持続可能なまちづくりに取り組んでいますが、子どもたちは自分の町の活動を知りませんでした。

でも、中学生はその活動の意味をちゃんと理解すれば、すごく良い反応をしてくれます。地域の将来を担う子どもたちが地域の環境を意識することはとても大切なので、今後もこのような機会を増やしていければと考えています。

2018年

7月

05日

第11回 ラウパッハ・スミヤ・ヨーク(CVPTメンバー / 立命館大学経営学部教授)

立命館大学で国際経営学を教えるラウパッハ・スミヤ・ヨーク教授は、ドイツのご出身です。ドイツと日本で、20年以上にわたってビジネスの世界で生きてきたラウパッハさんが、「再生可能エネルギーの地域経済効果」を研究するようになった理由は何でしょうか?

疲弊した地域を立て直すため、エネルギーという視点から何ができるか? 日独の橋渡し役として、日本社会に提言を続けるラウパッハさんに伺いました。

■ドイツと日本との橋渡し役に
Q:ビジネスを営んでいたラウパッハさんが、大学でエネルギーを教えるようになった経緯を教えてください。

エネルギー問題を手がけるようになったのは、2011年の原発事故がきっかけです。当時はドイツにいて、ドイツの大学で国際経営学について教えていました。原発事故のあと、ドイツに残るか妻の故郷である日本に戻るかとても迷いましたが、日本の大学とのご縁があって日本に戻ることにしました。ただ、日本に戻るのであればいままでと同じことをするだけではなく、エネルギー問題を手がけなければという使命感が芽生えました。

特に再生可能エネルギーは、巨大な集中システムから小規模分散型システムへと、産業革命のようなダイナミックな変化が起きています。ドイツはその分野で世界をリードしているので、私は日本との橋渡し役になれるのではないかとも感じました。ドイツと日本でさまざまなビジネスに携わってきた私にとって、国際的な産業であるエネルギー分野は、経営学そのものです。別の分野をやっているという意識はありません。

 

再エネの地域経済効果
Q:大学ではどのような研究をされていますか?

主に、再エネと地域経済の関係性を研究しています。いままでは、エネルギーを手に入れるために地域から富が流出してきました。地域資源である再エネを有効活用することで、そのお金を地域の中で循環させられれば大きなプラスになります。研究ではそのメカニズムを定量化して、成果を各自治体に紹介していこうと考えています。

すでにいくつかの自治体と共同して事例研究をしています。例えば長野県で行われたメガソーラー事業では、県内の事業者を積極的に使う場合と、主に県外の事業者を使う場合とでは、地域に及ぼす経済効果がおよそ2.5倍の差が出るという結果が出ました。ただ、理屈ではメリットが有るとわかっても、政策としてどうやって織り込んで、成果を可視化していくかについてはまだまだハードルがあります。これからは、そのあたりを深めていきたいと思います。

 

効果的な政策を実現させるカギは、地域の合意形成です。再エネが増えた一方で、地域住民の反発などいろいろな課題も生まれています。そこで、「このようなやり方で導入すれば、自治体にも住民にも双方にメリットがある」というモデルを示してサポートしていきたいと考えています。

また、ドイツで自治体が出資してエネルギー事業全般を手がける事業体を「シュタットベルケ」と呼ぶのですが、日本でもそれを手本にして自治体がエネルギー事業に関わるケースが増えています。最近では、そのような組織が連携して「日本シュタットベルケネットワーク」も設立されました。私はそのサポートもしています。日本で、ドイツのように自治体が主体のエネルギー事業が根付くには、いろいろな課題があって難しい面もあります。しかし、結果的に地域の課題解決に結び付けられるような取り組みになれば良いと考えています。

■省エネ改修のメリットをどう考える?
Q:クラブヴォーバンとは、どのように関わっているのでしょうか?

ドイツ在住の村上敦さん(クラブヴォーバン代表)の書籍を読んだことがきっかけで、同じようなビジョンを持って活動されていることを知り、協力しましょうという話になりました。今の所、私はクラブヴォーバンが主催する自治体会議などで、自分の研究を紹介しています。クラブヴォーバンでは省エネ住宅の普及を手がけていますが、自治体は公共施設の老朽化や空き家問題などで困っているので、省エネ建築を進めることがその解決に貢献できると思っています。ドイツでは、この省エネ改修の分野も進んだ取り組みがあるので、私としても紹介できればと思っています。

 

自治体で省エネ改修を行う際、単純にコスト計算しても回収するのは簡単ではありません。しかし、例えば温熱環境の悪いオフィスで働いていると、足が冷たくて頭が熱く、ぼーっとしてきます。断熱して温熱環境を整えることで、快適になって労働生産性も上がります。そのような間接的な経済効果は実はとても大きいのです。住宅にしても、オフィスにしても、省エネ改修する便益をコストだけで考えるのではなく、多面的な価値を総合的に検討するようになってほしいと思います。省エネ改修は、自治体のまちづくりにとって大きな効果を生み出すと感じます。


 ■「課題先進国」が生き残る道
Q: 少子高齢化などさまざまな課題が明らかになっている日本で、どのような対策をすべきでしょうか?

「課題先進国」と呼ばれるように、いまの日本が抱えている課題は、世界史的にも人類が抱えたことのない新しいタイプのものです。高齢化、少子化、過疎化…確かに深刻だけれど、対策によっては世界のモデルケースになれるかもしれません。もちろんそんなに簡単に解決できるものではありませんが、日本には課題を乗り越える技術も、能力も十分にあるはずです。私が問題だと感じているのは、日本人が正面からの議論を避ける傾向にあることです。未来は誰にもわからないのだから、議論を通じてベストを目指すような社会になれば、現実の課題を乗り越えられるでしょう。

 

特に地域の衰退という課題を解決するカギになるのは、大きなものへの依存ではなく、個々人や地域が主体性をもって自立しながら、いろいろなものと柔軟に連携して、地域を変えていくことができるかどうかです。私自身も、教育の現場を中心に実践していきたいと思っています。

2018年

6月

14日

第10回 川端 順也(CVPTメンバー / 建築士、ファイナンシャルプランナー、エネルギーパス協会講師)

建築士の川端順也さんは、拠点とする広島エリアで省エネ住宅を広める活動をしています。また、「ファイナンシャルプランナー」の資格や、建物の状態を調査する「インスペクター」という多彩な顔を持ち、地域の省エネ化をさまざまな面からサポートしています。

クラブヴォーバンのネットワーク組織である一般社団法人エネルギーパス協会で、エネルギーパスの講師も手がけている川端さんに、「温暖」とされる広島で、なぜ高断熱住宅が必要なのかについて伺いました。

■地域全体で省エネ住宅を増やしたい
Q:日頃はどのような仕事をされていますか?

広島で自分の設計事務所を立ち上げて、2018年で5年になります。ぼくがやっていることをひとことで言うと、中小の工務店の設計サポートです。大企業には会社の中に設計部門がありますが、小さい会社にはないことが多い。だから各工務店のお客さんと直接話して設計しています。その際に、将来の光熱費も考えて省エネ仕様の家にするようお勧めしています。

 

また、広島の建築関係者が集う「レモンの会」というネットワークに参加しています。レモンの会では、建物の燃費性能の表示を常識にすることで、地域にエコで健康的な住宅を増やしています。この活動を通して、会員企業がお互いの手がけた建築現場を見せ合うようになるなど、それぞれの社員の意識も向上しているという手応えを感じています。ぼくだけが頑張っても仕方ないので、広島地域全体で建築業界のレベルの底上げできれば良いと思います。

 

■独立のきっかけは、たび重なる震災
Q:建物の省エネに高い関心を持ったきっかけは何でしょうか?

ぼくは大阪出身で、以前は神戸のゼネコンでマンション建設を手がけていました。そのときは、省エネのことはきちんと考えてはいませんでした。きっかけとなったのは相次いだ地震です。2011年2月に、語学留学をしていたニュージーランドで大きな地震があり、被害がでました。自分に何かできることはないかと、つながりのあったニュージーランドの設計事務所とメールのやりとりをしているうちに、今度は3月に日本で東日本大震災と原発事故が起きました。

 

かつては、神戸の震災も近くで体験しました。でも、神戸でもニュージーランドでも、「結局自分には何もできなかった」というもどかしさを抱えていました。だからこそ、「今度こそ絶対に何かしなくちゃいけない」と強く思ったんです。何ができるかはわかりませんでしたが、2011年9月に会社を休み、津波で被害を受けた仙台や原発事故後の福島を訪れました。すさまじい被害の現場を見て、「津波は止められないけれども、建物の省エネ化により、原発がいらない社会をつくる手助けはできるかもしれない」と感じました。

 

独立して省エネ建築を志したのは、震災がきっかけですね。ちょうどその頃、エネルギーパス協会の吉田登志幸さんと出会い、クラブヴォーバンの早田さんを紹介してもらいました。その後、エネルギーパス協会の講師にもなって、関西圏でレクチャーが必要なときはぼくが教えるようになりました。エネルギーパスは、住まいの燃費性能を計る共通のものさしです。活動を通じて、まずは建築のプロの人たちが、建物の燃費性能を意識することを当たり前にしていきたいと思います。

 

■広島で省エネ住宅を建てるのか?
Q:広島は 「温暖」というイメージがあります。住宅を断熱する必要があるのでしょうか?

確かに、広島で省エネ住宅を広めるのは簡単ではありません。「広島みたいな温暖な地域で、断熱なんてやる必要あるのか?」とさんざん言われてきました。でもイメージと実態とは違います。広島は晴天率が全国的にも高く、日中の気温だけを見ると暖かい。でも晴れていて雲がないので、夜は放射冷却が起きて一気に気温が下がるのです。その温度差が、ヒートショックなどにつながっています。広島医師会は、天候や気温などに応じて脳卒中予報を出していますが、これなども家が暖かければリスクを格段に減らせます。

 

特に広島の北の方は山岳地で、朝晩は非常に寒くなります。当然、家計に占める光熱費の割合はすごく高くなります。でもそういうエリアほど、断熱なんて考えないいわゆる「ローコストメーカー」が広まってしまっています。これは大変残念です。

 

一般的な銀行員やファイナンシャルプランナーは、「住宅の購入価格は安い方がいいですよ」と勧めています。でも光熱費や健康状態も合わせて考えると、そうではありません。車を購入するときに燃費を調べるのと同じです。ぼくはファイナンシャルプランナーの資格も持っているので、建物の性能を上げれば光熱費が下がるとか、省エネ住宅には補助金も出ますといった総合的な話を案内しているんです。健康リスクの低下も考えると、初期投資だけではわからないメリットがたくさんありますから。

 

■規模の大きな建物こそ、断熱改修を
Q: 戸建住宅だけでなく、幼稚園など大きな建物の設計も手がけられているとお聞きしました。

ぼくはこれまで、地域の工務店に温熱環境のことを伝える仕事をしてきました。それがわかる工務店が増えていけば、ぼくの仕事の一部は不要になります。でもそれだけで社会が省エネ化するかと言えば、そんなことはありません。新築の戸建て住宅だけでなく、スーパーや老人ホームなど、それなりに規模のある建物をなんとかしていかないといけません。夏や冬には24時間冷暖房をかけているこうした建物の断熱性能が、「こんなにひどくていいのか」と驚くようなレベルです。これからは、そちらの断熱改修も含めた設計に力を入れていきたいと思っています。

 

とはいえ、いきなり断熱だけするわけにもいきません。ぼくたちがどういうことをしているかというと、広島では余り気味の木材を活かして、小学校とか幼稚園をリフォームしようという流れができています。その際に、単に木をたくさん使うだけでなく、高断熱化も合わせてやろうよと提案をしています。最近、広島県内のこども園の設計を、うちも含めて3つの設計事務所が共同で手がけることが決まりました。完成は2020年の予定ですが、できたら皆さんにも見に来てほしいですね。

 

■シェアのコンセプトでニュータウンを再生したい
Q: 省エネ建築でどんな未来をつくりたいですか?

広島市には東京の多摩や大阪と同じように、大きなニュータウンがあります。そして他の2ヶ所と同様、広島でも少子高齢化が始まっていて、高齢者ばかりのエリアが増えています。

 

広島のニュータウンには戸建ても集合住宅も混ざっているのですが、こちらの一戸建ては特に大きくて、ひとつの敷地が70坪位あるんです。親が亡くなると子どもは土地を売るのですが、不動産屋は大きな家を取り壊して、土地を2つに割り、新築を2つ建てて売るという流れができています。でも、そういう戸建てが増えると資源が無駄になるし、省エネにはなりません。

 

ぼくならむしろ70坪の土地を2つつなげて、一戸建てをシェアハウスや低層住宅にリフォームして、みんなでシェアできる新しい街にしたいと思います。いまでは、シェアハウスや自動車のシェアが広がっているように、必ずしも一戸建てがほしいという人ばかりではなくなっています。そういう「シェア」の感覚を持つ人が集まる街をつくれたら、ニュータウンの再生もできるのではないかと思うんです。これは長期的な夢ですが、少しでも実現できたらいいなと思っています。

2018年

5月

24日

第9回 吉田 登志幸(CV監事 / オストコーポレーション北関東)

「地方に活気を取り戻して分散型社会をつくりたい」と語る吉田登志幸さんは、その言葉通り都心でのサラリーマン生活をやめ、のどかな栃木県佐野市に家族とともに移住しました。手がけているのは、国内最高性能を誇る木製トリプルサッシなど、高気密高断熱住宅用の建材販売です。

地域の工務店と組んで、寒い北関東に暖かい住宅を提供している吉田さんは、自らも自社の建材を存分に使った素敵なお宅で暮らしています。エネルギーパス協会の理事も務める吉田さんから、断熱の重要性や、クラブヴォーバンの活動について伺いました。

■一目惚れしたスウェーデン様式の木製の家
Q:なぜ高気密高断熱住宅用の建材を扱うようになったのでしょうか?

かつて務めていた住宅関係の建材を扱う商社にいたとき、仙台の総合展示場でスウェーデンハウスというメーカーのモデルハウスを見て、一目惚れしました。とにかくデザインが格好良くて「いつかこんな家に住みたい!」と憧れるようになったんです。その会社では9年ほど営業をしていました。会社の方針は薄利多売で、自分が心から薦められない商品でも売り続けなければいけませんでした。

そんなことをしていても楽しくないし、お客さんから感謝されることもありませんでした。会社の尊敬する先輩はすでに独立していて、スウェーデン製の建材を扱う会社を立ち上げていました。入社して10年目となる2001年に、僕も会社をやめて、先輩の会社ののれん分けのような形で、現在の(有)オストコーポレーション北関東を立ちあげました。

 

スウェーデン様式の家の魅力は、何といってもデザインの良さです。さらに、断熱性能など住宅としての性能もきちんとしています。どちらかだけという家はありますが、両立している家はなかなかありません。

 

僕は一般の消費者に直接売るのではなく、工務店や設計事務所を対象に建材を卸しています。どんな相手でも売らなければいけなかったサラリーマン時代はストレスもありましたが、いまはきちんとコンセプトが一致する住宅のプロが相手なので、やりがいがありますね。お客さんに納得した上で買っていただいているので、いわゆるクレームになったことはありません。たとえ施工後に多少の不具合があったとしても、調整して元通りにすることができます。ありがたいことに、全国に広げて欲しいという話もいただくのですが、自分自身がメンテナンスできる範囲で責任を持ってお売りしたいので、いまは栃木、群馬、茨城、埼玉、福島などに限定させてもらっています。

もちろん、政治の役割は大きいですが、それを支えるのは一人ひとりがどんな日本にしたいのか、というビジョンを考えることから始まるのではないでしょうか。何もドイツやスウェーデンの真似をする必要はありません。ただ、スウェーデンがやっていることには日本の方向性を考える上で、たくさんのヒントがあると思います。私は、そのヒントを探すお手伝いができたらいいと思っているんです。

 

■こだわりの木製サッシ
Q:注文が多いのはどのような建材でしょうか?

売上として多いのは、木製断熱玄関ドア、サウナ、床材や羊毛を使った断熱材や珪藻土の塗り壁など複合的なラインナップです。いずれも家の断熱や調湿性能に関わる材料でもあります。
うちが扱う建材で僕が気に入っているのは、トリプルガラスと木製サッシの高性能窓です。家のエネルギー性能を左右するのは、開口部の窓になります。ドイツなどでは樹脂サッシが主流ですが、北欧では木の家が多いのでサッシも木製です。外観は木のほうが断然良いと思います。さらにうちが扱う木製サッシは断熱性能も最高レベルで、寒い北関東でも暖かく過ごせます。

 

木製ならではの注意点としては、初期投資が少し高くなるのと、定期的なメンテナンスが必要になることです。風雨にさらされるサッシの外側に5〜6年に一度、塗装することをお勧めしています。窓枠が一回転するので、2階の窓でも自分で塗る事ができて経済的です。

新築ならこのような木製トリプルサッシをお勧めしますが、リフォームされる場合は、費用対効果を考えると木製の内窓がいいと思います。実は福島県会津地方の材木屋さんと、10年近くかけて共同開発した国産材を使った木製の内窓を、今年から本格販売できることになりました。これまでは輸入品の建材だけを扱っていましたが、性能の良い国産のものを使いたいというのは以前から思っていたことです。

 

窓はペアガラスで、ガラスとガラスの隙間は16ミリの空気層があります。ここまでしっかりつくられている内窓はなかなかありません。性能はもちろんですが、インテリアとしても見映えがします。まだ原価が高いのですが、経産省の省エネ製品として認められ補助金が出ることになったので、お客さんには割安で手に入れてもらえるようになりました。

■家のエネルギー性能表示をスタンダードに
Q:クラブヴォーバンでの役割を教えてください

クラブヴォーバンには、省エネ建築を手がける工務店さんがたくさん参加しています。僕は住宅業界にいますが、家をつくる工務店ではないので、業界のつなぎ役として一歩引いた立場から、どうやったらうまく連携できるかを提案できる立場だと思っています
またエネルギーパス協会の理事として、講習を手がけています。エネルギーパスは、家のエネルギー性能を計る共通のものさしをつくろうということで広げてきました。住宅業界では、「言ったもの勝ち」みたいな風習があって、それぞれが「自分の会社の家はすごい」と宣伝しています。それを共通のものさしで計れば数値で比較できるので、ハッタリが効かなくなります。


2017年4月からは、国が「BELS(ベルス)」という新しいものさしを基準にしました。この動きは、エネルギーパスの広がりが触発した面があるかもしれません。今後は、新築住宅についてはBELSが基準になっていくでしょう。ではエネルギーパスがいらなくなったかというと、そんなことはありません。
BELSは、建物の外皮性能はわかりますが、野原の一軒家に建った家を前提としているので、日当たりや、風況といった環境条件は反映されていません。さらに、大切なはずの気密は国の基準から外されているので、反映されていません。エネルギーパスは、環境条件も気密も総合的にキッチリ計算できるので、 BELSよりリアルな性能がわかるようになっています。


さらに、例えば中古住宅の価値基準は、消費者にはわかりにくいものになっています。そのエネルギー部門の価値を決めるとき、エネルギーパスで表示する形で活用していけるはずです。新築か中古かを問わず、家のエネルギー性能表示を一般の方に、もっとわかりやすい形で提示していく社会にしていく必要があります。

 

■小規模分散で地方を元気にしたい
Q: どんな未来を作りたいでしょうか?

一極集中ではなく小規模分散型の社会になればよいと思っています。それはクラブヴォーバンがめざす社会とも共通しています。僕が独立するときに佐野市に移住した理由のひとつは、北関東エリアで販売するのに地理的に便利だったからですが、もっと大きな意味では、都会ではなくもっと人間らしい暮らしをしたいという願望がありました。家の近くにはコンビニがありませんが、不自由したことはありません。仕事だけでもなく家だけでもなく、人生を総合的に考えて佐野で暮らすことにしたのですが、正解だったと思います。
以前の僕がそうだったように、サラリーマンの大多数はみんな忙しすぎて、家庭や地域を顧みるエネルギーがなくなっているのではないかと思います。こういう暮らしをする人が増えたら、もっと地方が元気になるのではないでしょうか。

 

日本で人口減少や少子高齢化が進むのは、避けられないことです。それなら嘆くのではなくアクティブにとらえて、高齢者が地域のために活き活きと働ける社会を作れたらいい。でも高齢者が寒い家に住んでいたら、病気になる人や寝たきりが増えてしまいます。そして医療費や社会保障費がさらに増加して大変なことになります。そうならないためにも、高気密高断熱の家が普及することは本当に大切です。寒くない家で、健康に長生きしてもらうのがいいですね。わが家も高断熱高気密住宅になってからは、家族みんな風邪をひきにくくなりましたから。 

2018年

5月

09日

第8回 金田 真聡(CVPTメンバー / 建築家、EA partners共同代表)

ドイツ・ベルリン在住の建築家である金田真聡さんは、自ら設計するだけではなく、コンサルタントとしても日本企業や自治体にドイツの先進的な建築を紹介し、断熱を始めとする省エネ改修の重要性を伝えています。

30歳を過ぎてから、言葉もままならないドイツに単身乗り込むというチャレンジをした金田さんから、ドイツの建築事務所で働くようになって驚いたことや、建築家に求められる社会的役割の違いなどについて語っていただきました。

■社会に貢献できる建物をつくりたい
Q:なぜ30歳でドイツへ移住したのでしょうか?

ぼくは、日本の高校から大学、会社員とごく一般的ルートを辿って生きてきました。日本の建設会社の設計部で仕事をしながら、いつか海外で建築の仕事をしたいと夢見ていましたが、なかなかチャレンジすることができないでいました。

そんな中、30歳を目前にして東日本大震災が起こりました。自分も含めて、東京都内の会社から帰宅困難に陥る人たちや、福島第一原発事故によるエネルギー問題をつきつけられ、自分の中の価値観が変わりました。安定していると思いこんでいた日本の社会構造や、その価値観に基づいて設計された建築物が、実は非常に脆弱だったことに気づいたからです。

自分としては、エネルギー消費が少なく、持続可能な社会作りに向けて貢献できるような建物をつくりたいという思いが強くなりました。また、一度きりの人生でいま思い切って挑戦しないといつどうなるかわからない、というふっきれた気持ちにもなりました。そして、省エネ建築の先進地として知られるドイツで建築の仕事をしようと考えました。当時はドイツ語どころか、英語もおぼつかない状態でしたが、履歴書、作品集、面接準備と必要なものから逆算して英語の勉強をして、震災の翌年にはドイツの設計事務所の採用面接を通過することができました。

 

■ドイツで感じた圧倒的な差
Q:ドイツで、日本の建築との違いを感じた部分はどんなことでしょうか?

ドイツの設計事務所では、一般的なドイツの建物を調べて図面を作っていました。まさに「なんじゃこりゃあ!」という驚きの連続でしたね。日本では、内断熱だと通常は断熱材の厚さが2.5センチくらいなんですが、ドイツでは20センチもありました。窓はトリプルガラス(3重)だったり、ブラインドが外についているのにも驚かされました。

例えばトリプルガラスは、話では聞いたことがあったのですが、使われているのは特殊な建築物だけだと思っていたんです。ところが、2009年以降の新築や大規模改修ではごく普通に使われていました。ドイツは年々、国が定める建築物の最低基準が厳しくなっているので、どの建物もきちんと断熱されています。しかし日本では義務としての最低基準すら存在していませんでした。圧倒的な差を感じました。

ドイツは、国家としてエネルギーシフトを進めています。その政策の中で、省エネ建築が重要になっているという経緯がありました。当時の自分は、日々の図面を描く仕事で手一杯だったので後から知ったことですが、ドイツがなぜここまで徹底して省エネ建築を手がけているかという背景には、そのような社会状況も深く関係していました。

もちろん、政治の役割は大きいですが、それを支えるのは一人ひとりがどんな日本にしたいのか、というビジョンを考えることから始まるのではないでしょうか。何もドイツやデンマークの真似をする必要はありません。ただ、デンマークがやっていることには日本の方向性を考える上で、たくさんのヒントがあると思います。私は、そのヒントを探すお手伝いができたらいいと思っているんです。

 

■建築家のやるべきことはいくらでもあった
Q: 建築家が社会で果たす役割についても、日独で違う印象をもたれたとか? 

日本にいる時は、将来自分が建築家としていつまで仕事をできるだろうかと不安に感じていました。入社直後にリーマンショックが起こり、40歳以上の社員に早期退職を募っていました。また、人口減少による空き家問題や新築市場の縮小がクローズアップされていて、将来も設計士として仕事があるのかと心配しました。ぼくに限らず、建築を手がける若い人たちの間には、将来の展望が開けず閉塞感が広がっていたと思います。

しかしドイツでは、省エネルギー化を目的とした改修はこの先何十年分もあり、建築家の仕事はいくらでもあります。ドイツの建築家には、ただ建物を作るだけではなく、未来の社会や生活環境のヴィジョンを作ることが求められています。50年先や100年先の社会をイメージして、将来あるべき建物や町を作る役割を担っている。そこにはもちろん、エネルギーやまちづくり全般も関わってきます。そのように考えれば、建築士にやれることはいくらでもあるんだと、目の前に道がひらけたかのように感じました。ドイツでは建築家だと言うと、「良い仕事だね」と色々な人に言ってもらえました。

 

■強みはマンションやビルの省エネ化

Q:クラブヴォーバンでの役割は何でしょうか?

ぼくは日本とドイツの両方で働いた経験を活かして、建築分野でその架け橋になれればと思っています。ドイツで省エネ建築が広まっていると言っても、単純にそのまま持ってくれば日本で広がるわけではありません。行政の方や企業の方など多方面の人と関わり、その町に合った最適な建物のあり方を丁寧に提案していければ良いですね。

日本でもここ数年で、戸建ての新築住宅の省エネ性能は格段にアップしてきました。一方で、エネルギー消費量の多い集合住宅やビルの分野ではまだ非常に遅れたままです。元々は大規模建築物を扱うゼネコンの設計部で働いていましたし、ドイツでも大型の集合住宅の設計に携わってきたので、今後はそちらの分野に力を入れていきたいと考えています。戸建ては個人に決定権が大きいので理解を得られ易い部分もあるかもしれませんが、ビルやマンションは関係者が多く、法律も絡んでくるので簡単には動かせません。そのためにも、クラブヴォーバンのような仲間づくりの場はとても大切になってきます。

 

■良い建物を作る人はいい環境で働いている
Q:日本をどんな社会にしていきたいですか?

日本では、みんなが我慢することが当たり前になっているように感じます。省エネだけでなく働き方も、我慢とか犠牲が前提になっている。ヨーロッパの人は、人生を楽しむために生きるよう育てられていると感じます。日本でも、そう思えるような環境づくりを手がけられたらいいですね。

労働環境もそのひとつです。働いている建物だけ立派だったり性能が良ければ良い、というものではありません。建物を作る人の生活環境や労働環境って、その人たちがつくった建物にも現れと思っています。ドイツでは、建物の性能や品質はもちろん高かったですが、そのために働く人たちや住まう人たちの労働環境も日本に比べ良かった。より良い社会作りのためには、その両方が大切だと思ったので、日本でもそうなるように取り組んでいくというのが、ぼくにとってテーマの一つになっています。 

2018年

3月

16日

第7回 ニールセン 北村 朋子(CVPTメンバー / ジャーナリスト・コーディネーター・アドバイザー)

デンマーク・ロラン島に暮らすニールセン北村朋子さんは、日本に持続可能な取り組みを紹介しているジャーナリストです。デンマークは、2050年までに電力はもちろん全エネルギー供給を100%自然エネルギーに転換する、という野心的な目標を掲げています。中でもロラン島は、すでに電力のおよそ700%を風力やバイオマスなどでまかなう環境先進地域となっています。

デンマークと日本を行き来する北村さんから、デンマークで持続可能な取り組みが続けられている理由や、日本にも導入できる取り組みなどについてお聞きしました。

■島で目にした風車とワラのヒミツは?

Q:持続可能性について興味を持ったきっかけは何でしょうか?

ロラン島に行く前は、日本でフリーの映像翻訳家をしていました。デンマークに住むようになったきっかけは、結婚した彼の故郷がロラン島だったからです。持続可能性について深く考えるようになったのも、ロラン島に行ってからです。

2001年に島に到着したときの印象は、見たこともないほどたくさんの風車があちこちに立っている光景でした。風車は誰が所有しているんだろう?というのが最初の疑問です。また、畑には大きな四角いワラの塊が積み上げられていて、これも私にとって謎でした。

聞けば、風車のほとんどはその辺りに住んでいる個人の農家や、地域で所有していました。現在は自治体や国レベルが所有するものも多いのですが、当初は農家の人たちが出資して、売電収益を得るところからこの島に風車が広まっていきました。日本にいた頃は、エネルギーは国や電力会社がつくるもので、自分たちには関与できないと考えていたので、普通の市民がエネルギー設備を所有して、運営するというのは衝撃でした。

 

また、ワラの塊はバイオマスの燃料として、地域暖房をまかっていました。設備に投入しやすいように、共通の四角いサイズに整えてあるんです。燃やした後に残る灰は、畑に持ち帰って肥料にする。話を聞けば聞くほど、島に来て目についたものが、ぜんぶ無駄なく循環していることに驚きました。さらに衝撃を受けたことは、そういうことを一般の人が理解しているということです。もちろんレベルの差はありますが、誰に聞いても島の持続可能な取り組みについて説明できる点はすごいと思いました。

■大人がいつでも学べる環境

Q:デンマークやロラン島は、どんな所が持続可能だと思われますか?

ひとことで言えば、循環型の社会であることです。またそういう考え方を、いろんな世代が共通した認識を持つことのできる教育をしていることも大切です。教育といっても、子どもの頃の学校教育だけではありません。大人になってからも新しい知識を得る機会がたくさんあります。ロラン島では、農家が手の空く冬に誰でも気軽に聞きに行けるカルチャー教室が開催されます。エネルギーの分野では、例えば「自分の家をエネルギー効率が良い家にするには?」とか、「自家用風車の建て方について」といった講座などです。

 

テレビなどでもよくこうしたテーマの番組をやっています。またエネルギーに限らず、「あなたに何ができるか?」という内容の番組が圧倒的に多いように感じます。デンマークでは、日常会話でそのような社会的テーマを話すことは普通なのですが、日本に帰って友人と話をすると「そういう難しい話やめようよ」と言われてしまいます。でも、無関心でいることで高い電気代を気付かずに払っていたり、断熱せず寒い家にガマンして住んでいたりするのは、もったいないと思います。

 

■お薦めは自転車道の整備

Q:クラブヴォーバンでの役割は何でしょうか?

クラブヴォーバンが素晴らしいのは、個人や家庭レベルでできることだけでなく、地域とか国レベルで変えなければならない部分を、自治体などと協力して変えていこうとしていることです。私が貢献できるのはそういう部分になります。 

日本の自治体でもぜひ導入してもらいたいことのひとつは、デンマークで進んでいる自転車インフラの整備です。自転車専用の道路が整備されているデンマークでは自転車に乗る人が増え、それによって大きな社会的価値を生み出しています。コペンハーゲンの自転車専用道路は、1日4万人以上の人が利用しています。端で見ているとすごいスピードで怖く感じましたが、実際に走ってみると車を気にしなくて良いのですごく楽でした。自転車用の信号もあるし、車線も別れている。安心感がぜんぜん違いました。

東京に住んでいた時は、車道を自転車で走るのがすごく怖かったのを覚えています。自転車レーンのある道でも、路上に駐車している車があるので大きくはみ出さなければいけません。かつて自転車体験ツアーをコーディネートしたことがありますが、そういった違いや快適さを、実際に確かめられる機会を増やしていきたいと考えています。

 

日本であっても、どこかの自治体でモデルをつくって実施すれば全国で広がると思います。既存の道路を拡張するのは難しいでしょうけど、高架型の自転車道をつくればいい。災害などで下の道路が使えないときには、緊急車両用の道路としても活用できます。それができるだけの技術と知見を、日本は持っているはずです。

■将来どんな社会をつくりたいか?

Q:デンマークと日本とを行き来している北村さんから見て、日本社会をより良くするカギは何だと思われますか?

日本社会はいま、急激な変化にさらされています。本来ならそれに合わせてシステムを再構築しなければいけないのですが、現実がなかなか追いついていないと感じます。その根本には、これから人口が縮小して若者が減っていく中で、日本がどういう国になりたいのか、どういう社会を作りたいのかという方針がはっきり決まっていないというのがあるかもしれません。

もちろんデンマークも問題はあるのですが、デンマーク人がすごいのは、自分の国の課題は何で、将来どうあるべきか、ほとんどの人がはっきりとした意見を持っていることです。そして地方や国の議員はそうした意見を吸い上げて、政治を進めようとしている。

ドイツも同じです。将来どうするかという目標を決めて、それが実現できるようロードマップを定めて動いています。目指す所がはっきりしているから政権が変わったくらいでブレることはありません。でも日本では、残念ながらどこに向かいたいのかがわからない。行き先がわからなければ、企業は先行投資ができません。経済が停滞するのも当然です。

 

もちろん、政治の役割は大きいですが、それを支えるのは一人ひとりがどんな日本にしたいのか、というビジョンを考えることから始まるのではないでしょうか。何もドイツやデンマークの真似をする必要はありません。ただ、デンマークがやっていることには日本の方向性を考える上で、たくさんのヒントがあると思います。私は、そのヒントを探すお手伝いができたらいいと思っているんです。

2018年

2月

23日

第6回 永井 宏治(CVPTメンバー / 建築・都市・環境コンサルタント)

永井宏治さんは、ドイツで省エネ建築や都市計画などを幅広く手がけるコンサルタントとして活躍しています。そしてここ数年は、日本の自治体や企業とも連携し、ドイツの知見を提供、街区の再生や住みよいまちづくりをめざしています。

永井さんから、ドイツのまちづくりの考え方や、日本社会の課題、そしてどんな未来を築いていくべきかについて伺いました。

■大怪我して気づいたこと

Q:ドイツでまちづくりを学ぼうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

私は留学したいとか、海外で働きたいという強い思いがあったわけではありません。きっかけは高校でラグビーをしていて、足を大怪我したことでした。人生で初めて松葉杖で歩くようになり、世界が違って見えるようになりました。街を歩くことや、建物の中で生活することの不便さを感じるようになったのです。山の中の新興住宅地に住んでいたのですが、駅から家まで急な坂道が続いていたり、駅の階段でエスカレーターがなかったりと、不自由な人は本当に大変だなと。

なぜこういう町がつくられたのかに興味が湧いたということと、もっと改善していきたいと考えて、大学では都市計画を志すようになりました。この分野では、当時からドイツが先進的な取り組みをしていました。そして進路を相談した大学教授の薦めもあり、卒業後に22歳でドイツの大学院へ留学。その後、就職してドイツがずっと拠点になっています。

■効率的な土地利用を進めるコーディネーター

Q:ドイツでは、どんな仕事をされているのでしょうか?

都市計画は、建物の省エネ性能の向上、電力や熱の供給、公共交通をどうするのか、といったさまざまなことを手がける仕事です。建物を省エネする場合も、効率的なエネルギー供給について考える場合も、個別の家だけで考えるのではなく、エリア全体で考えることでより効果が増します。そういった分析をして、どの地区ではどのようなエネルギー利用が有効かをシミュレーションして提案をするということをしてきました。

ドイツの街並みが整っているように見えるのは、「Bプラン」と呼ばれる自治体がつくる土地利用計画があるからです。どの敷地にはどういう建物をどういう風に建てなさいという縛りをかけていくんです。ドイツの自治体の権限は日本よりも格段に強く、将来に渡ってこの地域をどうしていくのかという未来図を描くことができます。都市計画の仕事は、そのBプランを自治体と一緒につくっていくことから始まります。

このようなプロジェクトを円滑に進めるには、政治のサポートや住民の理解が欠かせません。また、既存のエネルギー供給網を拡大する場合や、新設する場合には、地元のエネルギー供給会社とすり合わせる必要があります。そのような人同士のつながりを作るコーディネーターの役割も担っています。

 

■車中心社会への反省

Q:ドイツと日本と行き来する中で、どんな違いを感じますか?

ドイツで働いてやりがいのある部分は、若くても個人の力を発揮できる場があることです。既存のやり方にとらわれず、自分の意思でチャレンジできる。日本だと、なかなかそうはいきません。もっとも衝撃を受けたことは、専門分野の人って普通はなかなか自分の業界とか自分たちがやってきたことの過ちは認めたがらないじゃないですか?でもドイツはやってきたことの間違いを認めて方向を転換するんです。例えばドイツは日本と同様に車中心の都市計画、いわゆるモータリゼーションを進めてきました。でもいまの都市計画家の多くはこの車中心のプランニングは間違いだったと評価して、車を減らす都市計画を進めているんです。

最近は日本の企業や自治体とも事業をしているのですが、特に自治体は予算が単年度でしかつかないので、長期的なビジョンのもとに持続可能な計画を立てにくいと感じています。また、ドイツの企業や自治体は、一番になるのが大好きなので、開発や導入の速度がめちゃくちゃ早い。日本の自治体は前例主義なので、「他で実際にやっているところはありますか?」とよく聞かれます。なかなか迅速な決断ができない仕組みになってしまっているように思います。

 

■自治体の街区の再開発をサポートしたい

Q:クラブヴォーバンではどのような役割を担っていますか?

これまでクラブヴォーバンは個別の住宅の省エネ化に力を注いでいたので、私も住宅の性能評価を測る指標である「エネルギーパス」のツールを開発するといった関わりをしてきました。いまはもっと幅を広げて、自治体との協力も含め街区やエリアで考えているので、自治体の住宅地や街区の再開発、改修などを一緒にできたらと思っています。すでにいくつかの自治体とは相談させていただいています。

街区全体を改修するのは個別の建物ほど簡単ではありませんが、例えば老朽化した団地は、入居者も減り、今いる入居者も高齢化するなど、どうにかしなければなりません。とはいえ、自治体には取り壊して新しいものをつくるお金がない。ドイツでは巨大団地の大規模省エネリフォームなどの例も豊富で、それによって新しい価値が生まれ、入居者が増えている例もあります。このような動きは、日本の団地でも応用できればと思います。
 

■日本の住環境を変えるために

Q:これからどんな未来をつくりたいですか?

ドイツから日本に戻り、町中に入ると絶句するんです。例えば電車の線路スレスレに住宅が建っているなどということは、ドイツでは極めて例外です。また、私には子どもが2人いるんですが、ドイツの公園には木製の遊具がたくさん並んでいます。でも日本の公園には遊具が何もない。ケガをしたら危ないからといって、どんどん撤去されてしまうんです。子どもが遊ぶところがないと、親も大変です。先進国なのに、そんな住環境や生活環境になってしまっているのは悲しいことだし、変えていきたいと思います。

 

ドイツだって、やってもすぐに結果が出ないことは多い。でもチャレンジし続けてここまできました。日本の最大の問題は間違いを笑う教育の延長でチャレンジしないこと。それが一番良くないと思います。両国を比べると、個人の能力や企業の技術力の差はほとんどありません。でもシステムの問題とか意識レベルで、大きく遅れをとっている。それは残念だし、変える必要があると思います。いま日本は急激な人口減少を迎えています。それは危機という面もあるのですが、人口が増えているときにはできない、従来のシステムを修正するチャンスでもあると思っています。

2018年

2月

08日

第5回 中谷 哲郎(CV理事・(株)日本エネルギー機関代表取締役)

中谷哲郎さんは、住宅リフォーム関連の新聞社で活躍、3000社を超える住宅関連企業を取材してきました。その豊富な経験を活かして、現在は住宅を中心に持続可能なまちづくりについての情報発信を続けています。

「その頃は省エネや環境には全く興味がなかった」と語る中谷さんは、なぜ日本で「ヴォーバンのようなまちづくり」をめざすようになったのでしょうか?住宅とメディアに長年関わり続けてきた彼だからこそ感じた、これからの省エネ住宅やまちづくりのあり方とは?

■山口県の地元が衰退していく危機感

Q:新聞社時代から、住宅リフォームに可能性を感じていたと聞いています

住宅リフォームの業界紙を手がけていた頃に、常に考えていたのは「地方を元気にするために何ができるか」ということでした。住宅リフォームは、地域の経済基盤を担える産業です。家を持つ人が、壊れた箇所を修復するだけでなく、より良い家にアップグレードすることで、暮らしが豊かになり、かつその投資によって地域の産業創出にもつながるからです。

背景には、私が山口県周南市(旧徳山市)出身で、衰退の一途をたどる地元をどうにかしたいと考えたことが影響しています。昔はすごく賑わっていましたが、今では商店街はシャッター通りで、まるで活気がない。情報メディアに関わっている人間として、地元がこのまま消えていくのを黙って見ていられないという危機感を抱いてきました。
  

■価値あるリフォーム産業が、地域を元気にするという希望

Q:「住宅の省エネ化」という視点にめざめたきっかけは何でしょうか?

当時の私は、住宅の温熱環境や省エネ、持続可能性などについては全くの無知でした。転機となったのは2004年頃、取材で早田宏徳さん(クラブヴォーバン代表理事)と出会ったことです。早田さんは当時、仙台で高性能な住宅をつくる工務店で働いていました。「家をリフォームすることで、暑さ寒さなどの住み心地が快適になる」という早田さんの話は新鮮でした。

日本の住宅産業は、これまでは新築で稼いできました。しかし、人口減少が加速していて、これからはリフォームがカギになってきます。それを見映えだけのリフォームに終わらせるのではなく、住宅の質を上げることができれば、施主にも喜ばれる。その価値を伝えることができれば、地域の工務店の需要も増えるはずです。早田さんのイメージする事業ができるなら、自分の地元も含めて地域を支える産業になると希望を持ちました。そこで私が各地の工務店の経営者に声をかけ、早田さんのセミナーを開催するようになりました。

その後、早田さんからドイツ在住の環境ジャーナリストである村上敦さん(クラブヴォーバン代表)を紹介されました。「ドイツでは、住まいをリフォームすることで、住んでいる人も豊かにになり、地域も元気になる」という村上さんの話を聞き、「それこそ私のやりたかったことだ!」と共感しました。しかしドイツのリフォーム内容は、私の想定していたリフォームの上を行っていました。

 

ドイツの建築やまちづくりでは「エネルギー」という視点が欠かせません。誰もが毎日使っているエネルギーを地域で生み出したり、地域の中で循環させることで、外から買ってくるエネルギーを減らすことができるという視点です。個々の住宅についても省エネ化を推し進めることで、地域の産業としてかなりの広がりをもった動きになっています。これはすごいと思いました。そして早田さんと村上さんが、ドイツに学んだまちづくりを日本で行うためにクラブヴォーバンを立ち上げた際(2008年)、新聞社に所属しながら参加させてもらいました。

■所得が少なくても、住民を幸せにする合理的で民主的な都市計画

Q:ドイツのヴォーバン住宅地を訪れて何を感じましたか?

まさに百聞は一見にしかずです。村上さんの案内でヴォーバン住宅地をめぐると、「なんて合理的な街なんだ!」と心が揺さぶられました。長期的な都市計画のもとで、誰もが納得する形で開発が行われ、住民が参加してまちづくりが進んでいました。その仕組みはとてもシンプルで、理にかなっていた。

何より住んでいる人たちが、所得が特別多いわけではないのにみんな幸せそうなのが印象的でした。人口は、自分の田舎とそんなに変わりません。フライブルクが22万人、周南市は15万人。でも周南市はさびしいのに、フライブルクは「今日はお祭りでもあるんですか?」というくらい賑わっていました。「こんなステキな街に住みたい!」と心から思ったんです。

ヴォーバン住宅地に限らず、ドイツの都市計画では、長期的な経済動向を算定しながら住宅用地の面積が決められていました。ニーズがないのに住宅ばかりつくると、需給バランスが崩れて既存住宅の価値が目減りしてしまうため、みんなの利益を守るために、住宅をむやみに増やさないのです。

 

日本だって本当は、今ある資産価値を守るべきなのですが、これまではすぐに劣化してしまう住宅やマンションを無計画に、しかも大量につくっては売り続けてきました。さらに私が関わっていたようなメディアは、どちらかと言えば売れている住宅やメーカーなど、目の前で起きていることを後追いしてきた。そんな無計画なまちづくりをしていては、ヴォーバンのように住む人が幸せになる街はできません。ヴォーバンを訪れて、日本社会も私自身も、このままじゃいけないと気づきました。

 

■日本にヴォーバンのような素敵な街をつくる仲間を増やしたい

Q:クラブヴォーバンでの役割はどのようなものでしょうか?

私の役割は、日本にヴォーバンのような街を一緒につくる仲間を増やすことです。それを本格化させるため、私は2012年に新聞社を辞めて「(株)日本エネルギー機関(JENA)」を立ち上げました。そこで、「持続可能なまちづくりをすすめる情報ビジネス」を展開しています。

 

具体的には、省エネ建築のコンサルタント、ドイツへの視察ツアーのコーディネート、エネルギーパス(建物の省エネ性能評価の指標)の講習会などを、建築関係の企業に対して実施しています。そうした活動の中から、高性能住宅であるウェルネストホーム(旧低燃費住宅)やエネルギーパスに参加する仲間が増えてきました。また日本とドイツの架け橋として、日独の国交省の連携事業を手がけることもあります。

もちろん、私たちの力だけでは全国に広げることはできません。そこで、建材屋さんや建材の問屋さんと相談して、省エネに興味ある工務店の方を紹介していただいています。全国で私たちと方向性の合う建築業者さんを増やすことが、日本でもヴォーバンのようなまちづくりを実現するカギだと思うからです。
 
みんなが素敵だと思うヴォーバンのような街が日本で1つでもできたら、世の中が変わっていくはずです。それを実現するために、クラブヴォーバンの活動を広げていきたい。皆さんも是非仲間になってください。

2017年

12月

25日

第4回 石川 義和(CVPTメンバー・(株)Wellnest Home代表取締役)

今回の石川義和さんは、香川県高松市で建設業を営んできた会社の社長です。デザイン住宅を手がけ、「施主の夢をかなえる」ことをやりがいとしていた石川さんは、早田宏徳さん(クラブヴォーバン代表理事)との出会いやドイツ訪問が転機となり、今後の家づくりの方針を明確にします。

その後、ウェルネストホーム(旧低燃費住宅)を設立した石川さんは、なぜ寒さとは無縁に思える香川県で、高断熱高気密のエコ住宅を建て続けているのでしょうか? 地域で省エネ住宅をつくり、エンドユーザーに広めていく実践者から話を伺いました。

■日本の住宅に共通する問題点とは?

Q:ウェルネスとホームと出会う前は何をされていましたか?

ぼくは、香川県で昭和6年から建設業をやってきた会社の3代目になります。ウェルネストホームと出会う前は、デザイン住宅を手がけてきました。お客さんの要望をすべて聞いて、その夢を実現する仕事です。年間の受注棟数は、香川では多い方でした。

家が完成してお客さんに引き渡す時は、「夢の家をありがとう!」と、めちゃくちゃ喜んでくれました。でも、時が経てば経つほど満足度は低下して、クレームが増えるようになりました。当時、ダントツに多かった不満は、「暑い」「寒い」です。うちの会社は木の品質や施工、見映えにはこだわっていました。でも、暑さや寒さといった温熱環境について知見がなかったので、「日本の家なんてこんなものですよ」としか答えられませんでした。

 

それから、「間取りが悪い」と言われました。お客さんの望みどおりにしたのに、なぜそう言われるのか不思議ですよね? でも必要な間取りは、お客さんの生活スタイルとともに変化するんです。おばあちゃんと同居したり、お子さんが大きくなって出ていったりする。本人たちは、その時点の生活スタイルで100点満点の家を望むのですが、数年経つと発想が変わることを気づかないのです。これについても、当時は対応のしようがないと思っていました。日本の住宅に共通するこれらの問題を解決したのは、のちにウェルネストホームを一緒に立ち上げる、早田宏徳との出会いでした。そして、彼とともに行ったドイツへの視察です。

工務店がカビの研究をするドイツ

Q:早田さんの話やドイツ視察で気づいたことは何でしょうか?

早田と出会ったのは、ある建材メーカーのセミナーです。彼は、住宅の温熱環境や間取りに関して、ぼくが悩んでいた点を明快に答えてくれました。そこで、うちの会社でコンサルタントをやってもらえないかとお願いしました。コンサルをしてもらって特に印象深かったのが、2011年に彼の案内で訪れたドイツへの視察でした。驚いたのは、最初に「カビ」の研究所に連れて行かれたことです。ぼくは「こんな研究所じゃなくて早く家を見せてくれよ!」と思っていた。でもこれがすごく大事でした。

結露がカビを生み、カビのせいでアトピーを始めとするアレルギーが起きやすくなる。だからドイツでは、快適な住まいづくりを考える工務店は、まずカビを生やさないための研究を徹底的にするのです。ドイツではそれが常識でしたが、日本では自分も含めて、当たり前のように結露する家をつくり続けてきました。

 

それから1月に行ったので外は寒いのですが、建物の中はそれほど暖房器具が多くないのに暖かくて快適でした。そこからもわかるように、ドイツで家をつくる人たちの間で、断熱や省エネへの意識も常識になっていたんです。工務店の人からは、「ドイツで寒い家なんかつくったら、裁判に訴えらたら負けるよ」と言われました。日本の工務店とは、考えていることやこだわるポイントがぜんぜん違う。悔しいけれど、住む人の事を考えているという意味で向こうのほうがプロの仕事をしていることを実感しました。

■健康によく、長持ちする家

Q:なぜウェルネストホームを設立したのでしょうか?

ドイツから戻り、これまで自分がつくってきた家について考えました。その差は歴然です。ぼくは、お客さんの夢を実現してきたつもりだったのですが、将来にわたってお客さんの幸せをちゃんと考えていたわけではなかった。ドイツの基準で考えると、ぼくが建ててきたデザイン住宅は、素人の意見をそのまま取り入れて建てた家でしかなかったんです。

欧州では、家づくりを熟知したプロ中のプロが、健康で長く快適に暮らせる家を建てていました。だからお客さんに引き渡した後も、100年以上にわたって快適性に自信が持てる。ぼくもプロであるなら、せめてお客さんがローンを返す期間に何が起きるか予測して、健康によく長持ちする、住む人のためになる家づくりを手がけたいと、心の底から願ったのです。

 

香川の高松という地域は暖かいとされ、温熱環境なんて誰も考えてきませんでした。そういう土地でも、冬の寒さで人が家の中で倒れています。だから、この香川で温熱環境の素晴らしい住宅を建てて、なおかつビジネスとしてもうまくいけば、日本中の人にその重要性が理解してもらえるのではないかと考えました。そこで、早田と一緒にウェルネストホームの前身である低燃費住宅を、香川で設立しました。

 

 

■「売るための住宅」から、「日本を良くする家づくり」へ

Q:実際につくりはじめて、それまでとは何が変わりましたか?

ウェルネストホームを建てるようになって、一番変わったのはお客さんの満足度です。冒頭でデザイン住宅は、歳月とともに満足度が低下するという話をしました。でも、「暑くない」「寒くない」というウェルネストホームの温熱環境についての満足度は、1年目も5年目も変わりません。むしろ評価が高くなるんです。

 

またシンプルな設計にこだわっているので、生活スタイルの変化に対応して間取りを変更しやすいという特徴があり、その点でもご満足いただいています。その利点は、結露やカビが発生せず、長持ちする住宅だからこそ発揮できるのだと思います。お客さんからの紹介率が、デザイン住宅の時は2割ほどでしたが、いまは7割を越えていることからも、満足度の高さが伺えます。

また、つくり手としての意識も劇的に変わりました。自分の建てた家が、お客さんに喜んでもらえるだけでなく、世の中をよくすることにつながるなんて、こんなに素晴らしいことはありません。デザイン住宅をやっていた頃は、想像したこともないことです。当時は自分の会社を存続させることが大事で、お客さんに売れるものが正解だと思っていましたから。

 

ぼくはこれまでの日本の家づくりで見過ごされてきた、「健康」や「快適さ」という価値を高めていきたいと思っています。クラブヴォーバンを通じて、このような高性能な家の意味が全国に広がれば良いと思いますし、日本で間違いなく必要とされていると確信しています。そしてこれからは、住宅の基本性能が担保され、デザインに優れた住宅を造っていきたいですね。

2017年

12月

19日

第3回 西村 健佑(CVPTメンバー・在ベルリン調査員)

今回は、クラブヴォーバンのプロジェクトメンバーの一人であり、在ベルリン調査員・環境政策研究者の西村健佑さんです。

西村健佑さんは、ドイツ・ベルリンに在住し、ドイツを始め欧州の環境・エネルギー政策について調査、通訳、翻訳を手がけ、日本に正しい情報を伝える活動をされています。西村さんがドイツに留学した理由から、欧州で起きている環境政策の中で、いまもっとも興味深い動きについても伺ってきました。

■ドイツでエネルギー政策を学ぶまで

Q:西村さんは、学生のときになぜドイツへ留学されたのでしょうか?また、現在特にエネルギーの分野を専門としている理由について教えてください。

日本の私立大学で環境経済を学んでいた2004年に、ドイツが太陽光発電の導入量で世界一になり、それまで一位だった日本を抜いたというニュースを聞いて驚きました。そこでドイツの政策を詳しく調べると、環境を守ることと経済は両立が難しいので上手く回さなくてはいけないという考えではなく、むしろ環境について取り組むことで経済がうまくいくという考えのもとに政策がつくられていることがわかりました。そこで、英語もドイツ語もままならない状態でしたが、修士課程からドイツの大学で学ぶことにしました。

エネルギー政策の分野に関わった主な理由は、ドイツに行くきっかけが、太陽光発電がドイツでなぜこんなに伸びたたのかという理由を知りたかったからです。そしてドイツの指導教官がたまたま、気候変動を含めて環境、エネルギー政策の分野で著名な専門家であるミランダ・シュラーズ教授になったのも幸運でした。

 

■ドイツでの現在の仕事

Q:ドイツではどのような仕事をされていますか?

主にやっているのは、通訳と調査活動です。2016年までは貿易商社に就職して、調査部門で働きました。ドイツのエネルギー転換は、ドイツに住む人すべてが関わりを持ち、社会のあり方を一緒に変えていく壮大な取り組みです。そのため、政治、政策、市場、社会のすべての視点を持ってエネルギー転換を見ていく必要があります。こうした視点から、ドイツを中心としてエネルギー転換の動きを調査しています。

お客さんは、日本の政府関係、シンクタンク、民間のコンサル事業者などさまざまで、ドイツだけでなくヨーロッパ各国の環境政策の実態や、マーケティングに関わる市場の動向など、必要な情報をお客さんに提出しています。日本では、エネルギー政策を単体で考えることが多いのですが、ドイツは国にせよ地方自治体にせよ、まず気候変動政策があって、その下でエネルギー政策を決めていきます。その考え方を伝えることも大切だと思っています。

2017年からは独立して、基本的には個人で仕事を受けることにしています。最近は、大学の先生からの問い合わせも増えています。大学の場合は意義はあるのですが調査費が限られている場合が多い。そのようなときには企業では難しいですが個人なら引き受けることもできますから。 

 

 

■ドイツにいなければわからない再エネの最新情報を日本に伝えたい

Q:クラブヴォーバンとの関わりや、どんなことをしているかについて教えてください。

 

 

大きく言うと2つあります。ひとつはバーチャル発電所(VPP)です。小さな発電所をインターネットでつなぎ、まるで大きな発電設備のように使う技術です。再生可能エネルギーの設備は、ひとつひとつでは発電する量が不安定ですが、バーチャル発電所の技術を用いることでその不安定さを小さくすることができます。また、小さな発電所でも電力のやりとりができるようになることで、一般市民が参加できる仕組みになるというメリットもあります。

 

■ドイツのバーチャル発電所(VPP)や都市公社のしくみを日本にも

Q:いま、西村さんが特に興味を持っている分野は何でしょうか?

 

大きく言うと2つあります。ひとつはバーチャル発電所(VPP)です。小さな発電所をインターネットでつなぎ、まるで大きな発電設備のように使う技術です。再生可能エネルギーの設備は、ひとつひとつでは発電する量が不安定ですが、バーチャル発電所の技術を用いることでその不安定さを小さくすることができます。また、小さな発電所でも電力のやりとりができるようになることで、一般市民が参加できる仕組みになるというメリットもあります。

2つ目は、ドイツでは自治体が出資して地域のインフラに関わる事業をまとめる都市公社が、大きな存在感を持っています。これは「シュタットベルケ」と呼ばれます。日本でも、自治体が出資する新電力会社が生まれてきたので、その動きをサポートしながら、地域活性化に役立てていければいいですね。日本とドイツとでは社会環境もかなり違うので、いまは日本でできることを整理していく段階です。

エネルギーを含めたインフラは、暮らしに欠かせないものです。欧州では、単に短期的に得だからとそれを民間事業者に譲るくらいなら、多少負担しても自分たちの地域で運営していこうという覚悟があります。日本でも、自分たちの地域に適した選択肢を選ぶことで、身近な人たちから信頼される組織に育っていくのではないかと考えています。それをお手伝いできたらいいですね。

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2017年

12月

08日

第2回 早田 宏徳(CV代表理事・(株)ウェルネストホーム創業者・CEO)

今回は、村上敦さんとともにクラブヴォーバンを創設した、代表理事の早田宏徳さん。

早田さんは長年、日本でトップクラスの「高品質の住宅」を手がけてきました。ところが、ドイツへの視察を機にその自信がもろくも崩れます。クラブヴォーバンの住宅部門である「ウェルネストホーム」誕生のきっかけから、ドイツで受けた衝撃、そして今後の目標などについて伺いました。

■日本最高クラスの省エネ住宅の開発をめざす

Q:性能の良い住宅づくりをめざすきっかけは何だったのでしょう?

もともと父が、塗り壁などを担当する左官屋でした。子どもの頃からその姿を見てきたので、ぼくも自然と家づくりに興味を持ちました。そして18歳から建築業界で働きはじめます。最初に就職したのはいわゆるローコストメーカーだったのですが、すぐに何かおかしいなと感じました。父が手がけていたのは数寄屋造りなど立派な家で、100年以上長持ちするものでした。一方、この会社の建てる家は30年くらいで壊れてしまうのです。当時の社長に「ぼくはこんな家を売りたくないから、長持ちする家をつくらせてほしい」と言ったこともあります。

 

22歳のときに、仙台にある別の会社の素晴らしい社長さんと出会い、そこで望んでいた地震に強くて長持ちする家づくりをさせてもらえるようになりました。東北大学などと共同で研究しながら、当時の日本ではトップクラスの「高品質な家」をつくり続けたことで、国からも表彰されましたし、地元でも評判が高かったんです。実際、その後の東日本大震災の地震では、ぼくらが建てた家の被害はほとんどありませんでした。

そんなことで、自分たちが世界に誇れる高性能な家を建てているという自負はありました。ところがドイツ在住の村上敦さんとの出会いが、その培ってきた自信を打ちのめします。講演会を通じて出会った村上さんに案内してもらって、ドイツの建築を視察しました。

 

そしたら、ぼくが12年間かけて研究して建てた最高レベルの家だと思っていたものが、ドイツでは温熱環境では建築基準法以下の、つくってはいけないレベルの家だったんです。日本のトップは、ぜんぜん世界のトップじゃなかった。日本人はいつからか、自分たちが世界のトップだと勘違いして、世界から学ぶことをやめてしまったのかもしれません。日本はこんなに遅れているのかと気づいたことで、家づくりでめざす方向性が定まりました。

■「生きているうちに、こんな街を日本でつくりたい」

Q:なぜクラブヴォーバンを立ち上げたのでしょうか?

住宅よりも驚いたのは、まちづくりです。村上さんが暮らすフライブルクという町にあるヴォーバン住宅地があまりに素晴らしくて、「自分が生きているうちに、こんな町を日本で作りたい」と夢を語りました。そうしたら村上さんから、世の中を変えたいと思っている仲間たちが集まる非営利のサロンを一緒につくらないかと言われ、一緒に資金を出し合ってクラブヴォーバンを立ち上げることになりました。

ヴォーバンの町のすごさは、まず住民が生き生きしていることです。車が走っていないから、お母さんが見守っていなくても子どもが安全に路上で遊べるし、住民間のコミュニティがしっかりしていて、どの世代の人でもにこにこして暮らしている。しかも、その町を住民たち自身が議論しながらつくっていったというのがさらにすごいと思いました。たくさんの緑の中で安心してのびのび暮らしている雰囲気が、閉塞感にあふれ不安だらけになっている日本の町とはぜんぜん違うと感じました。こんな町がいつか日本にもできたら、もっと幸せになるんじゃないかって思ったんです。

 

■日本で持続可能なまちづくりを実現したい

Q:早田さんは、クラブヴォーバンで何をしているのでしょうか?

ぼくとしては、村上さんが提案するような持続可能な社会を、日本に迅速に広めるサポートができればいいと考えてきました。私の専門は建築なので、特にその分野で進めています。これからのカギを握るのは自治体です。「持続可能な発展を目指す自治体会議」でも、省エネ建築や改修について勉強したいという要望を受けて、それぞれの自治体さんに説明にいくなどの協力をしています。

例えば北海道のニセコ町さんなどは、もともと省エネ改修をやっていたのですが、クラブヴォーバンと関わったことでそのスピードが上がり、自分たちのやってきたことに自信を持てるようになったと言っていただきました。自治体が積極的に動くことで、その地域の工務店も省エネ建築にシフトせざるをえなくなりますから、非常に大きな効果が期待できます。このようなネットワークを広げることで、日本で持続可能なまちづくりを実現できたらいいと思っています。

 

ドイツを始めとする欧州では、ITの利用はもちろん、電気を熱に換えたり、EVなど交通に利用したりといった部分で、凄まじい進化をしています。クラブヴォーバンには、村上さんを始め、ドイツのエネルギーや交通、建築、まちづくりなどさまざまな分野で活躍する方が携わっているので、日本にはまったく届いていないドイツの一次情報をものすごく早く手に入れることができます。それも自治体会議などに参加していただくメリットになっています。

 

■先進的な取り組みが大手ハウスメーカーにも

Q:日本の建築業界では、省エネ住宅は増えてきたのでしょうか?

社会で省エネ住宅の必要性とか、省エネ意識を変えるという意味では、クラブヴォーバンを立ち上げた2008年の頃と比べると確実に変わったという手応えがあります。そしてその一翼を、私たちも担えたのではないかという自負もあります。とは言え、本当に社会に浸透しているかというとまだまだたくさんの課題があるので、この歩みを止めるわけにはいきません。 

先日、旭化成ホームズさんと資本提携をして、結露やカビの発生しない家づくりのためにデータを共有することになりました。あんな大企業が、うちみたいな小さな会社と組んでくれるなんて、通常では考えられないことです。これも、これまで行ってきた先進的な取り組みが評価された証なのかもしれませんね。

 

 

2017年

11月

10日

第1回 村上 敦(CV代表/設立者・環境ジャーナリスト)

ノンフィクションライターの高橋真樹です。これから、各地で活躍されているクラブヴォーバンの中心メンバーがどんな人物でどんなことをやっているかについて、インタビューを通しておひとりずつ紹介していきます。

1回目となる今回は、クラブヴォーバンの設立者の一人である村上敦さんです。ドイツ在住の環境ジャーナリストとして活躍されている村上さんが、ドイツで働いて感じた日本とのギャップや、クラブヴォーバンを設立した思いなどについてお聞きしました。

■ドイツで環境やエコロジーに興味を持つ

Q:まず、村上さんがなぜドイツで働こうと思ったかについて教えて下さい。

ドイツに行ったのは今から20年前の26歳の頃です。もともと、海外の会社で働いて見識を広めたいという思いはありましたが、何か具体的な明確なビジョンがあったわけではありません。当時たまたま社会的なテーマになっていた環境やエコロジーといった分野で、調べるとドイツが最先端を行っていたことが、興味を持った最大の理由です。

 

■ドイツで環境、エネルギー分野の政策が進んでいく理由

Q:長年ドイツ社会で暮らして、日本との違いを感じるのはどんな所でしょうか?

環境やまちづくりといった分野で仕事を続ける中、もっとも大きな違いを感じるのは、「演繹的な考え方」です。まずは目標を設定して、それを実現するために逆算して、今何をすべきかを決めるということですが、それが社会全体に広く浸透しています。

環境、エネルギーの分野についても、ドイツは数年間の議論を経て2010年には、2050年の段階でどんな社会を目指すかというビジョンを決めています。それに向かって各分野で目標を達成するために行動することが決まっているから大胆動くことができています。もちろんドイツだって完璧なわけではありませんし、経済界への配慮による妥協や行動が足りていないところも多々あります。ただし、この分野において何らかの物事を進める際に、2050年のあるべき姿に1ミリでも近づいているような手ごたえがあります。

 

日本社会はどちらかといえばいきあたりばったりというか、「今がこうだからこれくらいできるだろう」、という積み上げる発想でやっているように思います。どちらが良いというわけではなく、トヨタ社の「カイゼン」に代表されるように細かい改良をするのは得意なんです。でもそのやり方では2050年のビジョンを包括的に決めて社会を動かしていくのは難しいと思います。

■「持続可能なまちづくり」をめざす人たちが集える「場」づくりを

Q:クラブヴォーバンを立ち上げた理由は何でしょうか?

統計を見れば明らかですが、日本の状況は持続可能な姿とはとても言えません。とくに人口減少なんて、いま40代半ばのぼくが生まれたときには少子化が始まっていて、将来的にドンドンと減っていくことが確実だったのに、結果につながるような対策が何もほどこされてきませんでした。他の国でも同じような課題に直面しながら、対策がそれなりの成果を上げている例もある。そうした取り組みを参考にしながら、持続可能なまちづくりについて提案したいと考えました。

 

クラブヴォーバンで目指したのは、何らかの事業を営む団体を立ち上げるというよりも、サロンのような場づくりです。名門大学や大手企業の一部には、学生や社員、OB・OGが特に目的がなくてもその場所に来れば、多様な分野で活躍している異業種の人たちと関係を築ける集いの場があります。そこから新しいビジネスが生まれてきたりする。

持続可能性をテーマにしている人たちが、そういうことをやれる場所があったら、新しい動きにつながるのではと思いました。当初は仲間に住宅や建築の関係者が多かったことから、省エネ建築の分野でいろんなノウハウを提供したり、各社が協力して共同出資による会社やブランドを立ち上げることに発展しました。

■高断熱・高気密の省エネ建築の分野で社会の関心が拡がる

Q:設立からまもなく10年ですが、どのような手応えを感じているでしょうか?

この10年間で最も大きく変わったのは、省エネ建築の分野です。高断熱・高気密、日射取得・遮蔽などそれに関わる工務店や建築家の数は確実に増えていますし、社会的に注目されるようにもなりました。その意味では、ぼくたちも社会を変える一翼を担えたのではないかという手応えはあります。

ただ、マイカーのみではない徒歩・自転車・公共交通の充実や緑地設計を含めた都市計画の分野では、社会が良い方向に進展したとは言えません。今後は、その分野に力を入れていきたいと考えています。 

 

■全国の自治体の課題解決をサポートする

Q:2015年に、「持続可能な発展を目指す自治体会議」を立ち上げたのも、そうした背景からでしょうか?

クラブヴォーバンではこれまで、持続可能な社会を願う民間の企業家の人たちが集まり、サロンとして盛り上がって様々なプロジェクトが実施されてきました。もう一つの柱として、先進的な自治体が出会い、学び、交流できる場をつくろうと考えました。特にそれほど人口が多くない自治体は、情報がなかったり、環境やエネルギー政策の担当者、専門家もいなかったりする。そこで、ぼくらがノウハウを投げ込んで、エネルギー問題や都市計画を含めた地域の課題解決につなげてもらえればと思ったのです。

2017年11月現在、熱心に参加いただいている全国でも先進的な小規模の自治体さんはすでに7自治体になります(オブザーバー含まず)。

 

日本社会の課題は明確で、解決策も多くのケースであるのです。その方向性が経済性を持たなければ実現が難しいかもしれませんが、これも多くの場合で経済性をすでに持っています。やろうとすればやれることはあるのに、なかなかそういう方向に動いていきません。国全体が動いていかない中で、まずはすでに動いている、あるいは動こうとしている自治体の人たちと一緒に、できることからやっていこうということです。でも本当は、すべての自治体、あるいは全ての分野の人たちが持続可能な方向に舵を切らないといけないときが来ているのではないでしょうか。

 高橋 真樹(たかはし まさき)

ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。世界70ヶ国以上をめぐりながら、サステナブルな社会をめざして取材をつづける。著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)、『そこが知りたい電力自由化〜自然エネルギーを選べるの?』(大月書店)、『観光コースでないハワイ』(高文研)、『ぼくの村は壁に囲まれた〜パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)など多数。地域のエネルギー事業を伝える「全国ご当地エネルギーリポート」、低燃費住宅での暮らしを実況リポートする「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」を連載中。